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005: もう一つの同居人 2


 リーゼの影の茨から解放されたシルキーは、首もとについた赤い茨の食い込んだ跡をさすりながら、なんとも恨めしそうな半眼でキッチンのカウンターからリーゼを睨んでいた。リーゼは正座で(土下座等の最上級の姿勢は主人以外には見せてはならないそうで、今回はできる最上級であるその一歩手前)全力を以て謝ったのだが、むっとした顔で少し膨らんでいるあたり、かなりご機嫌斜めな様だった。──状況的に仕方がなかったとはいえ、いきなり締め上げられれば誰でもこうなりそうだが。



 「あの娘はアレシア、うちに住み着いているシルキーよ。わたしも説明しておけばよかったわ」


 「大概の家事は今までアレシアにやってもらってたんだ。あまり話さないし、たまにどこかに行ってるのかサボったりすることもあるけど、悪い子ではないから仲良くしてやってくれ」


 「なるほど、そういう事でしたか⋯⋯ 」



 むしゃむしゃ、と焼き直した目玉焼きを頬張る寝起きで髪がぼさぼさとしている綵と、後から下りてきたのに既に食べ終わって珈琲を静かに啜る惇がそう説明する。リーゼは、というと本当は主人の前で同じ部屋で高さで食事はできない、と自室で食事を摂ろうとしたのだが、「いいからいいから、一緒に食べてくれよ」と惇に言われ、とても居心地悪そうに腿を擦り合わせ、そわそわしながらトーストをちぎって食べていた。


 そんなリーゼを見て、惇はふと、先から気になっていたことを口にした。



 「そういえば、リーゼは魔法が使えるんだな」


 「はい、火、水、風、土、雷、光、闇、治癒⋯⋯ その他諸々魔法は属性がありますが、私はほぼ全ての魔法が使えますよ。その属性専門の魔導師には及びませんが、広く浅く、と言った程度に使える、という程度でしょうか」


 「ええっ!?そんなに使えるの?」


 「マス⋯⋯ 惇さんを護ることが私の役目ですから、このくらいはできませんと」


 「でも、すごいよ。わたしは火炎魔法しか使えないのに⋯⋯ 」


 「綵さんも、魔法を使えるのですか?」


 「あったりまえじゃない、これでも王都の魔道士候補二回生だからね!」



 あぁ、明け方見た大きな都市は王都だったのか。とリーゼはトーストの最後の一欠片を口に入れて思う。魔道士候補生とは、その名の通り魔道士となる者の育成を行う学校の事で、王都等の大きな都市になると、なかなか魔法を扱える人がいない中、どうにか魔道士を育成しようと、主に三年制の魔道学校を設立している。これらはかなり難関な学校で、入学試験や卒業試験はもちろんのこと、留年しないように維持することも難しい。だがそれらを難なくこなしてしまう人も中には居るため、三回生への進級試験や卒業試験は、一応一回生、二回生にも受験資格が貰える。


 ちなみに発音は同じだが、魔道士は自分で魔法を行使する者、魔導師は自分で魔法を構築する事が出来るか、他の人に魔法を教えている人を指す。



 「惇さんも、魔道士候補生でいらっ⋯⋯ 候補生なのですか?」


 「あー、俺はちょっと違うんだ。王都の学校は学科を選択できて、綵は魔法学科だけれど、俺は剣術Ⅲ学科の二回生。魔法も勿論使えるけど、どちらかといえば剣術が専門だな」


 「もう。惇は魔法では闇魔法が得意なんだけど、魔法専門のわたしと変わらないくらい上手なのよ。ずるいわよね?」


 「そうなのですか」


 「いやいや、流石に専門の綵には負けるよ。でも、剣術だけじゃあ魔物を相手にしていくにはちっと足りないからな、ある程度は学んでおかないとって勉強してたりするんだよ」



 それがおかしいって言ってるのよ。と、綵はむすっとした顔でリーゼがデザートにとむいた梨をしゃくりと頬張る。その膨れつつも如何にも美味しそうに食べる綵を見て、リーゼは今度時間のある時に少し手の凝ったデザートを作ろうかなぁと次の献立を考える。



 「おっ、もうこんな時間かよ。せっかく早起きしたってのに、下手したら遅刻するぞこれ」


 「学校、ですか?」


  ああ、今日は一限から登校すっから、急がねぇとな。アレシア、片付け頼む」


 「ではアレシア、私もお手伝いします。──惇さん、今日の私は留守番でしょうか」


 「えっ?あ、うーん⋯⋯ そうなるかなぁ 」



 私が食器をキッチンの流し場へと運びながらそう聞くと、惇は少し困ったように頭を掻きながらそう答える。しかし、綵は髪をくるくると弄りながら、



 「ん、じゃあリーゼちゃんも来る?」



 と、提案した。



 「わ、私もですか?」


 「おいおい綵、そりゃまずいんじゃ⋯⋯ 」


 「そうかしら?うちの学校、魔法が使えたら入学はできるじゃない。それにあの人なら、リーゼちゃんをきっと気に入ってくれそうじゃない」


 「まぁ、うちの学園長だしな⋯⋯ 」


 「うちの学年は人が少ないから随時入学者募集中、先生も魔法に興味がある人を紹介しろって言っていたし、それほどオープンに募集しているのだから、きっと見学と言えば大丈夫なはずよ」


 「んー、確かにそうかもしれないが」



 惇はしばらく迷った様子だったが、綵の押せ押せと皿洗いをするリーゼを見比べ、結局は



 「よし、ついてこい、リーゼ」



 と、リーゼにお供を命じた。



 「宜しいのですか?」


 「まぁ、うちの先生は物好きだし大丈夫だろ、もしダメだったら王都で散歩でもしててくれ」


 「わかりました」


 「やったー!よろしくね、リーゼちゃん」


 「一応言っておくが、まだ見学できるかもわからねぇんだぞ」


 「いいじゃんいいじゃん、その時は残念でしたってことで!」



 どうやら綵は女の子一人と一緒に学校へ行けることがとても嬉しかったらしく、ついついというように綵が横から抱きつき、リーゼの手元が狂って洗っていた皿を落としかけ、惇に嗜められる。てへへ、と笑う綵はそのままうきうきとスキップ気味で階段へと向かい、



 「さあ、そうと決まれば早く準備しなくっちゃ!」



 と、ばたばたと自室へ駆け込んでいった。

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