001: 拾い物です。
人に見せるものでは処女作にあたります。
宜しくお願いします
──そこは、特異臭と異様に満ちた森の中だった。黒い葉をざわりと揺らす木々に、透き通る綺麗な水が時間を何十倍も遅巻いたように、ゆっくり、ゆっくりと落ちる森の中。特異臭と言っても、腐敗臭の類ではない。この森独特の柔いハーブのような香りに満ち溢れた、何とも言い難い不思議に溢れた場所だった。
「やっべ、少し遅くなったな⋯⋯ 夕方までには帰らねぇと、まーたあいつに怒られる」
自然の極み、とも思えるような神秘的な光景のその中で、少年がその光景についつい寄り道をしてしまった後の帰路を直剣を片手に小走りする。少しぼさっとした黒髪に、少し高めの身長の彼は一応、仕事という形でここに来ていて、直剣を持っていることからわかるように、所謂『ハンター』だ。
この『ハンター』は『冒険者』と同じ類の職として知られているのだが、未開拓地を探索したり、攻略すると言うよりかは害獣処理や薬草を採取するといった街の人々の防衛や物資採取をメインとしているから、『冒険者』と区別されて『ハンター』と呼ばれている。その中でも、街の人々からそこそこの信用を得る彼は、街の同業者はソロでは来られないような難易度であるこの森に単独で潜り込める程度の実力があった。しかしそう言えどもこの森はその程度には難易度のある場所。魔物が住まう地区、魔物が活動する場所なのだ。そんな場所に長く寄り道していたとなれば、きっとまた、彼と一緒に住んでいる、二人の同居人に叱られてしまうだろう。
今日もちょいおこだな、と呑気に考えていると、ふと後ろからチャリ⋯⋯ と、金属質な音がした。
「誰だっ!?」
咄嗟に剣を構え、音のした草むらの方を向く。──が、しばらく待ってみても音の主は現れない。少年は、警戒しながらもその草むらに近づき、それを掻き分けて、覗き込む。
「へっ⋯⋯ ?」
第一声は、その馬鹿らしい一言だった。彼が見たのは、プラチナ色の綺麗な女の人の髪。視線を下ろすと、その白い肌、白いワンピース状の服、靴のない白い足が目に入る。だが、それよりも少年が驚いかされたのは。
「首輪と、枷か⋯⋯ ?」
そう、彼女には首と手繋ぐものと、足を繋ぐ二つの黒い枷が嵌められていた。それも、この特徴的な発色の黒から察するに、罪人等に用いられる生物の魔力の流れを停止させる枷だ。
「おい、大丈夫か?」
彼女の体をかるく起こし、肩を揺する。すると、少女はゆるゆる首を動かしつつ目蓋を重そうに開ける。エメラルド色の、綺麗な目立った。
「あ⋯⋯ なた、がわたしの⋯⋯ マスター、ですか⋯⋯ ?」
「──は?」
本日二度目の馬鹿らしい声を吐く。自分でも阿呆っぽい反応だと思ったが、仕方が無い。予測など、とても出来ないもの。
そんな少年の反応に構うことなく、少女は揺さぶられた少年の手を白く、繊細そうな手で包み、首の輪の正面にある宝石のようなものに触れさせる。と、刹那、パキリと一瞬にして枷と首輪に亀裂が入り、砕け散った。
「マ、マスター⋯⋯ お初にお目にかかった刹那、申し訳ございませんが⋯⋯ わたしに、何か食べるものをいただけます、と──」
「お、おい?」
ぱたり。
少女はそれだけ言うとまた地に伏した。少女との出会い自体や、何も特別なことをしていないのに金属が砕け散ったという衝撃やらで頭が回っていなかった少年は、やっとのことで気を直して、草むらのなかで人形のように倒れている彼女へ眼のフォーカスを合わせる。
「と、取り敢えず、街に連れ帰って治療だよなっ!?」
そして、 焦って彼女を背負って先の帰路を走り出した。