表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の魔術師と星の護り手  作者: シルバー
第一章 ある魔術師と少年の出会い
2/2

1.城下町にて

〈エスメラルダ王国城下町〉

『黒の魔術師』は王国最高の魔術師と言われるほどの実力の持ち主だ。エスメラルダ王国で、彼のことを知らない者はいないという。


王国新聞の1面に乗っていた記事が注目されているようで、 城下町の人々は『黒の魔術師』の話題で持ち切りだった。見出しには「黒の魔術師 王都を去る?」と書かれている。


「聞いたか?黒の魔術師の噂」

「ああ、昨日の新聞の…」


「何かあったの?」

「ほら見て、昨日の新聞に書いてあったんだ。実は黒の魔術師が…」






そんな盛り上がる人々の間を、1人の男が歩いていく。黒のコートを羽織った、すらりとした男だ。

そんな彼に、八百屋の店主が話しかける。


「そこの兄ちゃん、寄っていかないか?安さには自信があるんだが」


「…じゃあ、その果物を買おうかな」


そういいながら男は赤いリンゴを手に取って鞄にしまうと、店主に銀貨を渡す。


「まいどありー。えーっと、銅貨は…。ん?もういなくなっちまったか」


店主は銅貨を数えて返そうとした。しかし、男は既にいなくなっていた。店主は困ったように笑う。






〈エスメラルダ王国城下町 スラム街〉

男は大通りから外れた路地裏を歩いていた。人の少ない道は、治安の悪いスラム街に続いている。



男が少し開けた場所に出ると、物陰から1人の少女が出てきた。その後ろにも、何人かの人影が見える。

赤髪を一つにまとめた少女は、不安げに男を見上げる。


「何をしに来たの?」


男を追い払うことも考えたが、15歳の少女にそんな勇気はなかった。男は屈んで少女と目線を合わせる。


「人を探しているんだ。……ここにカサブランカという人はいるかな?」


「カサブランカさん…。この先の家に住んでる人かな?ここを右に曲がってまっすぐ行けば…私が案内しますね。でも、どうしてここに?」


少女は不思議そうに首を傾げる。わざわざスラム街に訪れる人は少なく、人を探しに来るなど珍しいことだ。


「私の昔からの友人なんだ。少し用事があってね。」


男は少女にほほえむと立ち上がる。


「では、案内をお願いしようかな。」






古い家が並ぶ細い道の奥へ進んでいくと、小さな家が見えてきた。男が扉を軽く叩くと、女の人の返事が聞こえた。


「合言葉はー?」


「太陽と月、朝と夜」


男が返すと扉が開かれ、返事の声の主が出てきた。淡い桃色の髪を長く伸ばした美しい女性だ。


「久しぶりだね、カサブランカ。元気かい?」


「久しぶりね。誰かと思ったらあなただったのね。どうぞ上がって。……『黒の魔術師』さん。」






カサブランカから『黒の魔術師』という言葉を聞いた少女は思わず息を飲み、戸惑いを隠せない表情になる。

そんな戸惑う少女の方を向き、男はこう言った。


「驚いたかい?私が『黒の魔術師』と呼ばれる男さ。そうだ、まだ聞いていなかったね。名前は?」


「えーっ…と…。わたしはオリヴィア。カサブランカさんに付けてもらったの」


「オリヴィアか、いい名前だね。君も一緒に上がろう」


男は頷くと家に入っていく。オリヴィアは、本当にこの男が『黒の魔術師』なのかと疑いつつもついて行った。






カサブランカが住む小さな家は2階建てで、他にも4人住んでいるという。オリヴィアは、リビングにいた知り合いの青年と話すことにした。

その隣で男とカサブランカも話している。


「頼みたいことがあるんだ。」


「今度は何?前はサファイア大凍土に行ったんでしょう。火山にでも行くつもりなの?」


「まさか。暑いのは苦手なんだ。少し魔導書を貸してほしいだけだよ。」


「それならいいけど…。いくら実力があっても、あまり無理しすぎるのはよくないのよ。…」




大気に含まれるマナを使う「魔法使い」と、精霊などと契約して魔法を使う「術師」。

その両方の素質を持つものが「魔術師」とよばれる。しかし、王国最高の『黒の魔術師』とは言っても全ての魔法を扱えるわけではなく、魔導書の力を借りることもあるのだ。


魔導書には使う者の素質を引き出す力がある。

その力があればどんな人でも、簡単な魔法程度なら使うことができるのだ。もちろん、もともと持つ力が強い人はより強くなることができる。




「…今日は3冊だけ借りるよ。しばらくしたら返しにくるから、今日はこれで失礼するよ」


男は魔導書を手に取りながら言う。


「あら、もう行くの?忙しい人ね、お茶くらい飲んでいけばいいのに。」


「それは残念だ。また今度頂くよ」






男が帰ろうとしているのに気づいたオリヴィアは、彼を引き止める。


「本当に『黒の魔術師』なんだよね?それなら、簡単な魔法を教えて欲しいの。魔法があれば少しでも生活が楽になるのかなって…」


「いいよ、教えてあげよう。大気に含まれるマナは見えるかな?見えるなら、それらを自分のところへ集めるイメージをするんだ。ほら、こんな風に」


「こう…かな?」


オリヴィアが意識を向けると、目の前に小さな光が集まり始めた。きらきらと輝くそれは、言葉にし難い美しい光景だった。


「ああ、そうだ。次に、呪文を唱えるんだ。見ていてごらん」


男は小さな光を集めると、小さく呟く。


Shining(シャイニング) Frame(フレイム)


すると、集まった光が弾けて炎に変わる。炎は空中に浮いたままだ。オリヴィアも、男にならい呪文を唱える。


「…あれ?」


オリヴィアが集めた光は火花を散らし、花が散るように消えてしまった。


「はじめは誰でもそうなるものだよ。練習すればすぐに出来るようになる。もしわからない事があれば、この家に来るといい。助けてくれるさ」


また会おう。男はそう言って別の呪文を唱えると、何も残さずどこかに行ってしまった。目の前で消えてしまった男を見て、オリヴィアは確信した。


「やっぱり、本物の『黒の魔術師』だ…。」


そして、心に決めた。いつかこのスラム街を出て、彼にも勝てるような魔術師になると。


「…そうだ、カサブランカさんに教えてもらおう!」



『黒の魔術師』がやってきたあと、ここでは子どもたちの詠唱が聞こえるようになった。そのおかげで、寂しかった路地裏が少し明るくなった。


オリヴィアは知らない。

『黒の魔術師』が自分の運命を変えたことを。

また『黒の魔術師』と巡り逢う運命が待っていることを。


閲覧ありがとうございました。


あとがきで、言葉や登場人物の解説や補足をしたいと思います。今回は、1話で登場した2人を紹介します。


オリヴィア

幼い頃に家族をなくし、スラム街で暮らしている15歳の少女。優しい性格で、他の子どもたちにも好かれている。

『黒の魔術師』に出会い、魔法に興味を持った。


カサブランカ

スラム街にある小さな家で暮らす女性。『黒の魔術師』とは昔からの友人。困っている人を見ると放っておけない性格。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ