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我楽多  作者: うちょん
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おまけ②「同期」


 おまけ②【同期】














 金目の将烈には、同期がいる。

 当然といえば当然のことなのだが、その男は将烈にしては珍しく、同期の中でも気が合う男のようだ。

 だからといって仲が良いわけではなく、嫌いでは無い、という感じらしい。

 その男の名は、“鬧影”という。

 この男も将烈同様、上から煙たがられている存在であるが、将烈同様、本人は気にしていない。

 「仕事に誇りを持ってはいるが、好きではない」

 なぜ好きではないのか聞いてみると、にっこりと微笑みながらこう言った。

 「腐った奴らが沢山いるから」

 そこは将烈と似ているのかもしれない。

 そんな2人が、久しぶりに顔を合わせることになった。

 将烈は軍人として、鬧影は役人としてだ。

 なぜ秘密警察の将烈は軍人として扱われているのかと言うと、もともとは秘密警察も役人のうちに入ってはいるのだが、仕事内容が変化してきたことが要因である。

 調査や潜入のみならず、戦地にも向かって戦力の把握や武器のルートを探ったりと、役人以上のことを仕事として始めたために、軍人として名乗るようになった。

 将烈と鬧影は、円状になっているテーブルの隣通しに座れば、互いの顔を見ることもなく、だからといって、別の、自分たちを疎ましく思っている男たちとも目を合わせず、口も聞かない。

 「さて、みなに集まってもらったのは他でもない。我々は幾つかの拠点に分散しているが、それを一点にまとめたいと思っている」

 今回の会議も、将烈や鬧影にとっては、はっきりいって緊急性の低い内容のものであった。

 「情報も共有出来ずして、我等の仕事は務まるだろうか、いや、務まらない。悪が蔓延る今こそ、我々は一致団結して悪に立ち向かって行く必要があるのだ」

 そうだそうだと、ただ賛成するだけの声が耳障りにも聞こえてくる中、将烈と鬧影だけは腕組をしたまま何も答えなかった。

 彼らが拠点を1つにしようとしているのには、本当の目的があると分かっているからだ。

 それは、将烈や鬧影のような言う事を聞かない、何をするか分からない者達を集めることで、行動を制止、または抑制出来ると考えてのことだ。

 周りが盛り上がっているにも関わらず、一言も発さない2人に気付いた男たちは、2人にも同意の拍手をするよう求めた。

 しかし、それでも2人は拍手などしなかった。

 「くだらねぇ」

 「な、なんだと!?今、何と言った!?」

 「くだらねぇって言ったんだよ。一回で聞き取れアホンダラ」

 「貴様・・・!!」

 1人の男が将烈に掴みかかろうとしたとき、隣にいた鬧影がスッと手をあげた。

 みなの視線が鬧影に向いたところで、鬧影はこう言った。

 「同意見です」

 「き、貴様等・・・!!今すぐ出て行け!!」

 そう言われると、将烈は躊躇なく椅子から立ち上がった。

 ドアに向かって歩いていると、後ろからは、出て行けと言ったはずの男の叫び声が、まるで雑音のように聞こえてくる。

 「信じられん!!こんな男が軍人をしているとは!!ましてや、秘密警察の部隊を任されているなんて、恥さらしも良いところだ!」

 「もっともです。なんでもあの男、脅してあの役職に就いたようでして」

 「クズはどこまでいってもクズということか。すぐにクビにしてやるから、首を洗って待っているんだな」

 鼻でふんと笑ったあと、将烈の背中に向かって盛大に笑いだした男たちに、将烈は呆れてため息を吐いた。

 まあいいかと帰ろうとしたが、男たちはこんなことも言い始めた。

 「そのクズの同期だからか。貴様もとんだ厄介者だと聞いている。出る杭は打たれる。その目ざわりな顔を二度と我々に見せるな。そして二度と、正義を語るな」

 ゲラゲラと卑下た笑いが会議室に響く。

 男たちに背中を向けたままの将烈も、椅子に腰かけたままの鬧影も、しばらくは黙っていた。

 「おい、無視するとは大した度胸・・・」

 1人の男が、将烈の肩に手を置いた。

 その瞬間、中年太りのお腹が出ている男の身体は、華麗にも宙を舞った。

 それまで大声で笑っていた男たちは、何が起こったのか瞬時には理解出来なかったようで、会議室は静まり返った。

 「な、何をする!!我々に手を出すとは、どうなるか分かってるんだろうな!!!」

 「すぐにそいつを捕まえろ!!牢屋にでもぶち込んでやれ!!」

 一触即発のその現場で、将烈は我慢していた煙草に手を伸ばし、ここが禁煙室だとかそういうことも気にせずに、火をつける。

 「ぎゃーぎゃーうるせぇ奴らだなぁ」

 「なんだと!?」

 ふう、と煙を吐きながら、将烈は男たちの方を見る。

 普段は眠たそうにしているその眼光は、男たちの動きを封じるには充分すぎるほど鋭く、カラーコンタクトもつけていなかったためか、不気味なほどに輝く瞳に、言葉も出なかった。

 まだ火がつけたままの煙草を、会議室の高そうなテーブルに押し当てる。

 じわっと、そこが黒くなるが、将烈は悪びれた様子もなく続ける。

 「てめぇらの茶番に付き合わされんのは御免なんだよ」

 「貴様・・・!!」

 「いいか。俺はな、てめぇらのミスを被ろうが、てめぇらの失態を被ろうが、てめぇらの唾を被ろうが、んなこた構わねえんだよ。ただな、てめぇらの言ってることは全部、てめぇら自身のための言葉なんだよ。そんなに頭下げんのが嫌なら、今すぐこっから出て行け。顔に泥塗られるのが嫌なら、さっさとそこから下りろ。部下のケツ拭えねえなら、とっとと仕事辞めろ」

 「き、貴様!!そんなこと言って良いと思っているのか!?我々を誰だと思ってるんだ!!」

 「年上は敬いてぇところだが、てめぇらは敬う価値がねえ。誰だって?知るかよ。てめぇらの名前なんて、1人も知らねえよ」

 「その口、聞けないようにしてやる!!生意気な奴め!!」

 「勝手にしな。俺はぁ軍人だ。そんじょそこらの現役のジジイどもじゃ、相手にもならねぇけどな」

 そう言うと、将烈はそこから出て行った。

 首を左右に動かしていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 「またあんな無茶苦茶言って。本当にどうなっても知らないぞ」

 「俺のクビを切れるのは俺だけだ。あいつらの言う事なんか聞く意味がねぇ。それに、お前だって同罪だろ」

 「俺はあそこまで言ってないだろ。ただ丸く収めようとしただけなんだけど」

 「よく言うぜ。俺が投げ飛ばしてなきゃ、お前あの男の腕1つへし折る心算だっただろ」

 「バレた?」

 「バレた?じゃねえよ」

 「ああいう連中に正義を語られるのが一番嫌いだ。・・・ああ、だからお前とは気が合うんだろうな」

 「気が合うか?俺達?」

 「俺はお前の正義嫌いじゃない。お前がそうやって間違えずにいてくれるから、任せられる」

 「・・・任せられてもな。俺は俺のやるべきことをやるだけだ」

 「それで良い。あ、そろそろ戻んないと。じゃ、達者でな」

 「・・・時代劇でしか聞いたことがねえよ」




 部屋に戻った将烈は、波幸がすぐに淹れてくれたコーヒーを飲んで一呼吸置く。

 「あ、将烈さん」

 「ん?」

 「以前調べたこの遺伝子の結果、どうしますか?シュレッダーにかけますか?」

 「・・・・・・」

 無言で波幸の方に手を伸ばせば、その調査報告書を将烈に渡した。

 それをじっと見ている将烈に何度か声をかけてみるが、上の空の返事しか返ってこなかった。

 「私は火鷹のところに行ってきますね」

 「ああ」

 部屋のドアが閉まり、いっきに静かになる。

 その紙に書かれているのは、とある人物の遺伝子とDNAの結果である。

 それをじっと見ながら、将烈は片方の手で鍵のかかっているデスクの引き出しを開ける。

 そこから取り出した同じような紙の方に目線を向け、2つを見比べていた。

 パサッとその2つの報告書を、鍵のついた引き出しの中にしまうと、窓の方に身体を向けて、木々が揺れるのを見つめた。

 頬杖をつきながら見つめていると、優しく吹いた風に前髪が靡く。

 カラーコンタクトを入れていない今の将烈の瞳は、太陽の輝きを反射する。

 部屋の中にいても聞こえる、火鷹の声がこちらに向かってくるのが分かる。

 これからまた騒がしくなると、将烈は小さくため息を吐く。

 「・・・暑い」


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