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我楽多  作者: うちょん
3/5

背負う正義


 自分らしくあれ。ほかの人の席はすでに埋まっているのだから。

          オスカー・ワイルド


















 第三将【背負う正義】














 将烈はとある人物のもとへと向かって歩いていた。

 いつもなら長く感じるその道のりも、何かを考えながら歩くにはあまりにも短く、早く着いてしまったように感じる。

 ここに来るまでの間に、何度煙草に火をつけようとライターを出したことだろうか。

 しかし、その度にカチカチとライターをいじるだけで終わってしまい、火をつけてゆっくり吸う気分にもなれなかった。

 目的の部屋の前まで着くと、将烈はふう、と一度ゆっくりと息を吐いてから、静かにノックをする。

 部屋の中から返事が聞こえてくると、ドアを開けて中に入る。

 「お、どうした?」

 「失礼します」

 部屋の住人は将烈を笑顔で迎え入れてくれた。

 部屋の中に設置されているソファに座るように促され、そこに腰を下ろす。

 将烈が口に煙草を咥えていたからか、将烈の前に灰皿まで用意してくれた。

 将烈の前にもある小さめのソファに腰を下ろす前に、2人分のコーヒーを用意すると、それぞれの前に置く。

 「ありがとうございます」

 「ああ、それより、今日は急にどうしたんだ?お前から会いに来るなんて珍しいじゃないか」

 「ええ、実は、今回の事件について、俺なりに考えてみたんですよ。戯言だと思って、聞いていただけますか」

 「ああ、構わないよ」

 自分で淹れたコーヒーに口をつけながら、微笑みを見せる男。

 「俺としては今回の事件、ある人物が深く関わっているのではないかと思っています」

 「ある人物?」

 「ええ。その人物はある程度の地位もあり、回りからも信頼されている。だからこそ、その人物のことを疑う人間がいなかったんでしょう」

 「相当な信頼だったようだな。じゃなきゃ、他人のことをそこまで信じるなんてこと、出来るはずがないな」

 「はい。その人物は2人の人物と繋がり、子供を手に入れ、殺してしまった・・・」

 「それはまた随分と乱暴な推測じゃないか。2人の人物とは誰のことだ?どうして子供を手に入れる必要があったんだ?そしてなぜ殺してしまったんだ?」

 腕組をしたまま将烈の話しを聞く男は、問いかける。

 将烈は咥えていた煙草を指で取り、火もつけていないにも関わらず、そのまま灰皿へと押しつけた。

 「それに、そもそも誰がそんな酷いことを。そんな人道から離れたこと、一体誰がやったと言うんだ?俺には信じ難い話だよ」

 男はゆっくりと首を横に振りながら、真っ直ぐに将烈を見る。

 「人間とは分からないものですよ。金のため、愛のため、自分のためなら、なんでもするものですから」

 「どうしてそんな人間ばかりになってしまったんだろうね。悲しいことだよ」

 「その人物もきっと、最初はそう思っていたんでしょうね、心から。しかし、何処かで歯車が狂ってしまった・・・。だからこそ、今回のような事件が起こったんです」

 「俺はそうならないように気をつけたいね。それで、一体誰だっていうんだ?そんな卑劣な真似をしているのは?」

 すうっと目を細めながら、将烈は目の前の男を見据える。

 そして、感情のない声で答えた。

 「あなたですよ、祇園さん」




 「よし。着いたな」

 「お前が1人で突っ走らずに迷子にならなけりゃ、もっと早く着いたんだぞ」

 「榮志、そういうことは後でな。上司である将さんに直接文句なら言ってくれ」

 「なんでお前の失態を、目の前にいる無自覚なお前じゃなく将烈さんに言わなくちゃいけないんだよ」

 「なんでって、将さんは俺の上司だぜ?きっと謝ってくるよ」

 「・・・あの人も大変だな。それより、この人数で足りるのか?」

 ちらっと後ろを見て見れば、あまり確保出来なかった数の男たちしかいない。

 このコンクリートの建物の中にはどれだけの人数の男たちがいるかも分からないというのに、先頭を切って歩いていた男、火鷹は余裕そうに笑う。

 「平気だって。俺もいるしお前もいる。それに、こん中には大した奴らはいないって。俺の事前調査を舐めんなよ?」

 「不安だ。お前のことを全部信用しきれない俺がいる」

 「失敬な奴だな。ここは大船に乗った心算でいてくれよ」

 そう言って、自分の胸に拳をあてて自慢気にしている火鷹に対し、榮志は額に掌をあててため息を吐いていた。

 「難破寸前の小舟に乗ってる気分だ」

 「お前気が弱いな!もっと自信もっていけ!」

 「・・・・・・」

 このお気楽な奴をどうしようかと思った榮志だが、今更どうにもならないと、腹を括って建物の中へと入って行くのだ。




 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「行くぞ」

 「・・・・・・」

 「・・・返事くらいしてくれるか。タイミングとりにくい」

 「行くって言えば行くから」

 一方、別の場所へと来ていた波幸と櫺太は、相変わらず互いの顔を見ることもしない。

 特に櫺太は、ただで無口だというのに、声を拾うのさえ難しいほどに声が小さい。

 波幸と櫺太以外にも数人の男たちがいるが、その男たちは教会の周りを取り囲んでいる最中であって、今2人の近くには誰もいない。

 それが一番の要因かもしれないが、波幸は一向に進まない会話に、これじゃ火鷹と話しているのと五分五分だな、と感じた。

 年齢的には近いはずだというのに、とりわけ共通の話題もないというのはどういうことだろうか。

 まあそれは好き嫌いあるから良いかと、波幸は時計の針を見て、ちらっと櫺太の方を見る。

 櫺太と言えば、空を見ているのかと思いきや、教会の方を見ていた。

 「・・・じゃあ、行こう」

 「・・・・・・」

 またしても返事は無かったが、波幸が歩き出せば同じように歩きだした櫺太を見て、それ以上は何も言わずに歩き続ける。




 「・・・俺が?」

 「はい」

 名刺しで自分が怪しんでいる人物の名を告げると、男、祇園は一瞬キョトンとした顔になるが、すぐに大笑いをする。

 「おいおい、冗談は止めてくれよ。俺が首謀者だって言いたいのか、将烈?」

 「はい。残念ですが」

 「じゃあ、100歩譲って、俺が首謀者だとしよう。2人と繋がってるって言ってたが、一体誰のことだ?」

 こうして祇園と2人きりで話しをするなんて、しかも緊迫した空気の中で、いつぶりだろうか。

 いつものように笑みを崩さないままの祇園を見て、将烈は少し目を塞ぐが、すぐにまた目を開けて祇園を見る。

 「教会のシスターと、研究所の龍也という男です」

 「・・・ほう」

 「シスターは孤児を保護していると言っていましたが、実際は孤児を見つけては教会に連れて行き、監禁しているのでしょう。そしてその子供は研究所に連れて行き、実験体として使っている。その責任者が龍也という男です」

 「孤児を引き取ったと見せかけて、逃げられないように捕まえていると。そしてその子供を実験材料として研究所に送り込んでいる。よくそんな想像が出来るもんだな。そもそも、あそこは研究所ではなく工場だと、俺はお前に報告したはずだぞ」

 「ええ。しかし、火鷹を潜入させた結果、工場ではないと断定しました。明らかに人体実験の研究所です」

 火鷹を潜入させたと聞くと、祇園の表情が変わったような気がした。

 しかしそこは長年この仕事をやってきた成果とも言えるのか、普通の人ならきっと気付かないであろうほどの小さな変化であった。

 祇園と少しでも関わってきたことがある将烈からしてみれば、それでも充分と言えるほどの変化ではあった。

 「俺に何の得があるというんだ?」

 「金銭でしょうね。それに、実験が成功しれば喜ぶ愚かな上層部の連中にも目をかけてもらえますから」

 「俺が、自分の保身のために、まだ小さな子供たちを犠牲にしたと言いたいのか」

 「・・・はい」

 気まずいというのか、否定して欲しいという気持ちはあるものの、目の前にある幾つもの点と点を繋げて行くと、どうしてもそこへ答えが辿りついてしまう。

 悲しい性とでも言おうものなら、自分の中の何かが崩れてしまいそうだ。

 将烈がそんなことを思っていると知っているのかいないのか、祇園はソファの背もたれに凭れかかりながら、口を開く。

 「全て、推測だな」

 「・・・・・・」

 祇園の部屋にも、大きな窓がある。

 真後ろにあるわけではなく、斜めになっている天井に着いているため、将烈の部屋よりも太陽光が良く入ってくる。

 どんよりと曇っていた空もいつのまにか晴れ、雲の隙間から覗いていた太陽は、堂々とそこにいる。

 それでも気温はそれほど高くはなく、程良く風も吹いているからか、居心地が悪いわけでもない。

 いつもならば、鬱陶しいくらいに眩しいと文句を言いたくなるような日差しだが、このもやもやした心境の今、これくらいの輝きがないともたないだろう。

 正直言えば、晴れよりも雨の方が好きだ。

 なぜかと言われれば良く分からないが、まずあの湿ったような匂いが良い。

 あまり身体にはよろしくないだろうが、それでも、あの匂いはこれから自分を掻き消してくれるような、全てを丸のみしてくれるような、そんな気がしてくるのだ。

 波幸は良く、晴れていないと洗濯物が乾かないから嫌だとか言っているが、太陽が出ていると、影にいたくなる。

 真っ直ぐに太陽の元で生きられるほど、まっとうな生き方を送ってきたかと聞かれると、決してイエスとは言えない。

 自分が影になっても、誰かを光に出来るならそれで良いと思っていた。

 「明日は、雨みたいですよ」

 「ん?」

 「櫺太が、言ってました」

 「・・・そうか。なら、そうなんだろうな」

 今の天気からは予想つかないだろうが、櫺太が言うには明日は雨のようだ。

 いつも空を見ている櫺太は、機械的なもので見なくても、大体の予想はつくらしい。

 ちょっとした気圧の変化も敏感に感じ取り、雨は降りそうだが降らない時なども、機械よりも正確に判断できる。

 だからなのか、祇園も納得したように空を見上げる。

 そして、雨が降るとは到底思えない青空を見つめながら、目を細める。

 しばらく2人揃って風を感じていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。

 祇園が軽く返事をすると、入ってきたのは炉冀だった。

 炉冀は軽く頭を下げて入ってくると、ちらっと将烈の方を見て、将烈を目が合うと、小さく頷いた。

 それを見ると、将烈はふっ、と一度息を吐いてから、祇園を見る。

 しかし、話し始めたのは将烈ではなく、炉冀だった。

 「あなたは、教会にいる孤児のことを知っていながら黙っていましたね。そして、実験として使われていることも」

 「何のことだか」

 「教会にいる仲間から、連絡がありましたよ。教会にいる子供たちはみな、こちらで保護したと」

 「・・・おかしな話じゃないか。教会で孤児を保護していたというのに、また保護というのはどういうことかな」

 炉冀は呆れたように肩を落として息を吐きながら将烈を見るが、将烈は祇園のことをじっと見たままだ。

 それを見て、また炉冀は話す。

 「教会にいた子供たちは、保護などされていなかったんです。子供たちは監禁されていました。確かに、子供たちには親はおらず、孤児ではありましたが、保護という言葉とは程遠い扱いをされていました」

 「それは怖い。私はあのシスターを信じていたというのに」

 「・・・シスターはもともと保護などする気はなく、保護金目当てで孤児を連れてきていました。孤児の数が多ければ多いほど、保護金も増えますからね。そしてあなたはそれを知っていながら、隠ぺいしていた。あなたはシスターから金を貰い、隠していたんです。子供たちが酷い扱いをされていると知っていながら」

 「さあ、私には身に覚えがないことだ」

 「・・・・・・」

 認めようとしない祇園に、将烈は何も語らず、ただじっとしている。

 何度目かのため息を吐くと、炉冀は後頭部をぽりぽりとかきながらも、続いての話をする。

 「子供たちは実験道具としてだけではなく、売られていることも分かりました。誰を売って誰を実験に使うのか、どうやって決めていたかは知りませんが。分かりたくもありませんし」

 「嘆かわしいことだ」

 「・・・研究所の方に関しては、様々な研究がされていたことが分かりました」

 「一体どんな実験を?」

 白々しい態度だと言いたい炉冀だが、先程からじっと黙っているだけの将烈を見て、ぐっと言葉を飲み込んだ。

 相手のペースに飲まれてしまってはいけないと、炉冀はあくまでも平静に言う。

 「新薬の投薬、整形の実験、遺伝子操作、過食や拒食の実験、新人類の創造。他にも色んな実験を行っていたようです。・・・個人的には口にしたくないような内容ですが、動物との行為によっての孕み方や、人為的に奇形児を作り苦痛などの実験も行っていたようです」

 「悲劇としか思えないな」

 「・・・!!っ、研究所の子供たちの中には、トラウマを抱えた子も沢山いたそうです。薬を投与、または飲まされ、研究所から出たら殺されてしまうと、もっと怖い目にあうと洗脳されていたようです」

 「これから長く生きて行く子供たちに何て事を・・・」

 「研究所の子供たちに待ちうけていたものは、実験道具としての生き方か、死か、それだけだったようです」

 何かを言おうと口を開いた祇園だったが、それよりも先に、気持ちが高ぶってしまった炉冀が半ば怒鳴るようにして遮った。

 「助けを求め泣き叫び、逃げようとすれば殺される・・・!!それが怖くて実験に臨めば、失敗かもしくは拒絶反応をして、結局は殺され棄てられてしまう・・・!!子供たちがどれほど怖く、不安に駆られて毎日を生きていたか、あんたに分かるか!!!」

 「・・・・・・」

 「研究所は教会に金を払い子供を貰う!教会はあんたに金を払って黙っててもらう!あんたは研究所に金を払って研究の資金と引き換えに成果をいち早く報せる・・・!!こんなクソみたいなやりとりのせいで!!何人の子供たちが死んだと思ってんだ!!」

 炉冀にしては珍しく、いや、将烈が知っている中では初めてだろうか、こんなにも大声をあげて誰かを責めているのは。

 勢い余って祇園に飛びかかりそうになったため、将烈が炉冀の腕を掴んだ。

 炉冀は何をするんだと将烈の方を見るが、将烈は一切炉冀の方を見ようとせず、まだ祇園のことを見ていた。

 しかし、その目つきがあまりにも悲しいというか、険しいというか、心を赦していた相手にぶつけるような目つきではなかったため、炉冀はぐっと怒りを飲みこみ、唇を噛みしめた。

 将烈に掴まれていた腕を力一杯解くと、この苛立ちをどうして良いか分からずに、癇癪を起こした子供のように、足で床を踏みつける。

 シン、と静まり返った部屋に、将烈の声が響く。

 「あなたの口から真実を聞くには、まだ足りませんか」

 「・・・知らないことだからな」

 「シスターも研究所の龍也という男も、あなたとの関係を認めています」

 「・・・・・・」

 「あなたのことを、疑いたくはありませんでした」

 その言葉に、炉冀は将烈の方を見る。

 上司のことなど一切信じず、滅多なことではそんなこと口にするような男ではなかったはずだ。

 それでも、将烈は祇園という男のことを責めることはせずに、ただ、自分の中にまだ存在しているかつての祇園のことを思い出す。

 「自分のためだけの正義は歪んでいる。偏った正義は悲劇を生む。俺はこんな仕事、さっさと辞めようと思っていましたよ。あなたに会うまでは」

 すうっと真っ直ぐに向けられた視線に、祇園も言葉を飲む。

 目を背けることも出来ずにいると、窓から入り込む日差しと風が、2人の間に割り込む。

 「正義は常に清廉潔白でなければいけない。そんな綺麗事を机上で幾ら語ったところで、誰一人として守れない。俺達の仕事は、人間と向き合って初めて成立する。人間の嫌なところを沢山見て、人間はそういうもんだと諦めることで、この仕事は成り立つ。昔あなたが言った言葉です。だけど、俺には1つ気になることがありました」

 「・・・なんだ?」

 「そういうもんだと、諦める、というところです」

 「・・・・・・」

 静かに瞬きをした祇園には、すっかり笑みはない。

 笑みを浮かべているのはむしろ、将烈の方だろうか。

 「人間は確かに嫌なもんです。あなたも知っての通り、この仕事にも嫌な奴は沢山います。特に上層部の奴らなんか、仕事も出来ないくせに口だけ偉そうで、結局は自分たちのことしか考えていないクズです。はっきり言って、この仕事に未来はないでしょう」

 「・・・・・・」

 「しかし、面白いもので、真っ黒なその影たちの中に、数個の光というものがあるんですよ」

 「光・・・?」

 ピクリと眉を潜ませながら、祇園は目を細める。

 それからすぐに鼻で笑った。

 「放っておいても良いんですが、放っておいたらおいたで、ずっとそこで光ってるもんで、目障りになってくるんですよ。気付いたら手探りでその影の中を掘っていて、探したその時にはすでに、手放せなくなっているんです」

 「さっきから何の話を」

 「ひとつ見つけ出して、自分の手が汚れてるのを見ると、もういいかと思うんですが、また新しい光を見つけると、また目障りになってしまって、探しているんです。それが見つかるとまた、俺は何をしていたんだろうって思うんです」

 「・・・・・・」

 何の話をしているんだろうと思っているのは、きっと祇園だけではないだろう。

 炉冀も険しい顔をしながら将烈のことを見ていた。

 それでも将烈は気にせず続ける。

 「光は影など探さないでしょうが、影は光を探してしますものなんです。小さな光であったとしても、それが幾つも見つかれば、そこには大きな灯が出来ます」

 何かを察したように、祇園は口を開く。

 「・・・つまり、お前の周りにいる奴らのことか」

 「・・・はい」

 祇園の言葉にも、将烈の返事にも、炉冀は思わず目を見開いた。

 幼馴染と言ってはいるが、将烈がそんなことを言うような男だとは思っていなかった。

 いつだって自分というものを失わない、何処にいたって自分という価値観を壊さない、誰といたって自分という存在を輝かせる、それが将烈という男だと思っていた。

 弱弱しい言葉なども聞いたことがない、逃げ腰なんて言葉も似合わない、世間体なんて知らない。

 炉冀自身、自分は回りには流されないタイプだと思っているが、将烈もその1人だと思っている。

 それはこれまでの経緯からも明らかであり、権力や地位、名誉、そういうものにも興味などなく、ヘコヘコと調子良く頭を下げている姿など思い浮かばない。

 「将烈、お前の性格でそこまで上り詰めるのは大変だっただろう」

 「ええ、まあ」

 「厄介者扱いされて、邪魔者扱いされて、異端児だのと陰口を言われてもなお、お前は這いつくばった」

 「この世界の本質を見てきました」

 「なら聞くが」

 「はい」

 一瞬の間があった。

 それは本当に一瞬という間ではあったが、炉冀からしてみると、やけに長い時間のように感じた。

 「将烈、お前はどうして今の地位に立っている?」

 「・・・・・・」

 「お前は権力などには関心がないと思っていたよ。上の連中のような場所に行っても意味がないと。それに、そこに行くまでには、自分というものを殺してでも、上っ面の正義を背負わないといけない。お前には出来ることではないだろう」

 まさしく、炉冀が思っていたことと同じだ。

 将烈はしばらく黙ってから、普段の将烈からは想像も出来ないほどに柔らかく、そして優しい顔つきになった。

 それには、炉冀だけでなく、祇園も目を見開いて驚く。

 「自分の正義を確かめるためにも、必要な居場所だったんです」

 「確かめる?」

 「正義なんて、立ち位置によって変わります。人によって、国によって、生まれによって、環境によって、居場所によって、世界によって変わってくるものです。一概にどれが正義がなんて分からない。しかし、それでも人の道を外れてしまう正義と、決して外してはいけない正義があります。俺はそれを確かめているんです」

 「・・・・・・」

 「組織を変える。世界を変える。人間を変える。その為には、まず自分も変わらないといけない。下から見上げている景色と上から見る景色が違うように、色んな角度から見ないといけないと思ったんです。それに、自分の正義が圧力で潰されてしまうのなら、潰されないよう、自分が上に行けば良い。そう思ったんです」

 「自らが圧力になるか」

 「圧力になってしまっているかは分かりませんが、制圧には決してしません。正義とは本来、形も定義もないものですから。人の心を動かしてこそ、正義へと導けるものです。だからといって、それは決して洗脳になってもいけない、力でネジ曲げてもいけない。自分が正義だと思う行動を見せて初めて、相手が正義かどうかを判断してくれます。そこに答えを委ねるしかないんです」

 「・・・・・・」

 ふう、と深くため息を吐いた祇園は、ゆっくりと目を閉じたかと思うと、背もたれに全身を委ねた。

 そしてまたゆっくりと目を開けると、何もない天井を見つめる。

 そこに何が映っていたのか、その場にいた将烈にも炉冀にも分からないが。

 「お前には、光が見えたんだな」

 「はい。・・・煩わしかったんですよ。あまりにも、眩しくて・・・」

 小さく呟いた将烈の言葉だが、炉冀にもしっかりと聞こえた。

 ただ天井のどこかを見つめていた祇園は、フッと肩の力を抜くと、何かが弾けたように笑いだした。

 ひとしきり笑い終えると、天井を見つけたまま、口を開く。

 「いつ何を間違えたんだろうな・・・」




 「正義のためにと、毎日必死になって働いて、戦って、人々の役に立ちたいと思っていた。それがいつからか、こんな汚れた身体になったんだろう・・・」

 ぽつりぽつりと話し始める祇園は、とてもじゃないが責められるような雰囲気ではなかった。

 なんとかそこに存在しているくらい、弱弱しい姿だ。

 「金なんか興味なかった。女にも酒にもギャンブルにも。そんなものに手を伸ばしてる間に、1人でも多くの人を救えることがあると思ってた。信じてた・・・」

 「・・・・・・」

 「覚悟がなかったわけじゃない。部下に泣き付かれたんだ。助けてくれって」

 「泣きつかれたって、何を・・・?」

 そう問いかけたのは、炉冀だ。

 炉冀の声が聞こえると、祇園は上を見ていた身体と顔を起こし、情けなく笑いながら炉冀のことを見た。

 「薬の横流しだ。その部下は主に薬物に携わってて、一度だけ、金が無くて押収した薬を横流ししてしまったと、それからは負の連鎖だ。横流ししたことがバレるとまずいだろうと脅され、二度、三度と手に入れた薬を流していったようだ」

 それが何年も続いてしまったようで、管理をしていたうちの1人が、押収した薬物の数がおかしいことに気付き、発覚した。

 それまでどうして気付かなかったのかと聞かれれば、怠慢としか言いようがない。

 「そいつが新人のときに、俺が最初の先輩として色々教えていたんだ。本当に真面目な奴だったんだ。だから、信じられないっていうのもあったし、なんとか俺が守ってやりたいっていうのもあった」

 「だからって・・・」

 「分かってる。だからといって、そいつを庇う事が俺の役目じゃなかったことくらい。その時に、ちゃんとそいつに罪を償わせるべきだったんだ。自分がしてしまったことへの報復を、受けさせるべきだったんだ。だけど、その時の俺にはどうしても出来なかった。あんな顔で助けを求められたら、拒むことなんて出来ない・・・」

 「・・・それで?」

 「俺は記載してある数を誤魔化した。確認のためにまた見るだろうと思っていたから、上手く修正をして、減っていないことにした。あの頃はパソコンに入力するなんて面倒なこともしてなかったから」

 改ざんをしたそれを見て、当時は勘違いだったで終わったようだ。

 しかし、悲劇はここからだった。

 「その部下が、薬物中毒になったんだ」

 「!?」

 「・・・・・・」

 「自分がしてしまったことを悔やんだのか、寝られなくなったみたいでな、睡眠薬を取るようになったらしい。だが、睡眠薬でも眠れなくて、渡す前のそれを口にしてしまった。それからだ。仕事も来なくなって、心配だからと家に行けば薬で壊れてて・・・。それからすぐ、あいつは自ら命を絶った」

 「そんな・・・」

 罪を償うことも出来ないまま、ただただ苦しんでいたのだろうか。

 「俺は結局、あいつを救ってやれなかったんだ・・・」

 ふと、祇園は将烈の顔を見る。

 そして眉をハの字にして笑うと、はみかみながら言う。

 「汚れた俺の手にはもう、光を探すだけの価値はなかったよ」

 「・・・・・・」

 そう言って、祇園は冷たくなってしまった残りのコーヒーを飲む。

 将烈も同じように、すっかり冷めたコーヒーを口に含むと、静かに流し込む。

 祇園はゆっくりソファから立ち上がると、顔をあげない将烈に向かって、優しい声を降らせる。

 「お前が捕まえてくれるんだろ?」

 「・・・・・・」

 カチャ、とカップをテーブルの上に置くと、将烈もゆっくりと立ちあがる。

 炉冀が手錠を持っていない将烈に手錠を渡そうとするが、将烈の目線がそれを止める。

 「同情ならしなくていい。俺はそれだけのことをしたんだ。子供たちのことも、末路を知っていながら黙っていた。教会に行くたびに、笑顔ではしゃぎながらこっちに来る子供たちを見ると、時々思うんだ。自分にもこんな無邪気で綺麗な時代があったんだな、って」

 「判決を下すのは俺じゃありません。あなたにどんな罰が下ろうとも」

 「ああ、わかってる」

 そう言った後、祇園は何かを思い出したようにクスッと笑った。

 何だろうと思っていると、祇園は清々しい顔でこう言った。

 「お前に久しぶりに会った時、嫌な予感がしたんだ。今思えば、こうなることが分かってたんだろうな。あのときはお前に会わなければ良かったと思ったけど、今は、お前に会って良かったって思ってるよ」

 「・・・俺達軍人は、何があろうと“正義”を選択しなくちゃならない。だがその選択した“正義”さえあやふやで歪んでいるとしたら、ブン殴ってでも正さなくちゃならない。・・・そう言っていたのは、あなたでした」

 「・・・ふっ。そんなこと言ってたかもな」

 「俺は、残念でなりません」

 「お前の憧れのままでいてやれなくて、申し訳ないと思ってるよ。自分で言ったことさえ、守り抜くことが出来なかったんだからな」

 そこへ、数人の男たちが入ってきた。

 すぐにでも祇園を捕まえようとしていた男たちだが、その前に炉冀が立ちはだかり、小さく首を横に振る。

 それを見ると、男たちはひとまず部屋から出て行く。

 「気を利かせなくても良い。堂々と俺を捕まえてくれ。もう今更、名誉だのなんだのとしがみ付いたりはしない」

 「・・・・・・」

 「?どうした」

 「・・・俺はあなたの光になれなかったんですね」

 「・・・・・・」

 「もし俺がちょっとでも輝けていたなら、あなたを間違った道に歩ませることもなかったかもしれません。あなたの暗闇には、その光が少なかっただけです」

 「・・・お前は、間違えてくれるなよ。お前が見つけた光とやらのためにも、光を導く影であれ」

 将烈と祇園は、互いの顔を見て何かを語り合ったようで、祇園は炉冀に声をかけ、部屋から出て行った。

 炉冀は祇園を連れて行くためにそこから離れてしまったが、それから将烈はどうしていたのか、誰にも分からない。

 ただ、祇園は自らの罪を全て認めた。

 シスターアンジーは、孤児たちへの虐待や暴行は否定していたものの、監禁に関しては突きつけられた証拠によって、認めざるを得なかった。

 研究所の方も壊されることになり、責任者の龍也は、未来の為の研究をなぜ否定されなければいけないのかと言い続けていた。

 研究所の職員たちは全てを認めており、子供たちは保護されることになった。

 しかし、傷を負った子供たちはなかなか懐くこともなく、与えた食事も口にしようとはしなかった。

 役人たちもさすがにお手上げかと思ったとき、名乗りをあげたのは1人の男だった。

 「飯くわねーの?腹減ってねーの?」

 何を言っても答えない子供たちが、怯えたような顔つきで男を見ている。

 それでもくじけず、男は用意されている美味しそうな食事を手に持つ。

 「くわねーなら、俺が喰うぞ?」

 「火鷹は何をやってるんでしょうね」

 「放っておけ」

 「しかし、保護したのに餓死なんてしたら笑い話にもなりませんよ」

 「あいつに任せときゃいい」

 中身のことだけを言えば、きっと誰よりも子供らしいだろう火鷹は、子供たちがいる部屋の中に入ると、食事を次々に食べて行く。

 むしゃむしゃと美味しそうに頬張ると、あちこちからお腹の虫が鳴る。

 「うんめっ!!お前らがいらねーってんなら、もったいないからな。俺が全部喰ってやるから安心しな。無駄にはしねぇよ」

 パンにおにぎり、グラタンにナポリタン、オムライスにハンバーグ、カレーにデザートはプリンと、子供が好きそうなものばかりだ。

 数日もの間、子供たちは何も口にはしなかった。

 それを聞くと、研究所の龍也もシスターも、嘲笑う様にこう言っていた。

 「俺達の手から以外は食べないだろうさ」

 「知らない人から貰うとバチが当たって、痛いことよりもっと痛いことがあるって言ってあるもの」

 相当に強い洗脳をしたようで、子供たちはみるみる衰弱していった。

 「将烈さん、点滴でもなんでもしないと危ないんじゃ」

 「・・・・・・」

 しかし、それは突然やってきた。

 お腹を空かせた子供の1人が、美味しそうに食事を食べている火鷹の近くに来たのだ。

 ゴクリと唾をのみ込ませたのを確認すると、火鷹はその子供におにぎりを一口、与えた。

 「うめぇだろ?」

 ニカッと笑ってそう言うと、子供はにこっと笑って大きく頷いた。

 余程お腹が空いていたようで、ピザもお好み焼きも、次から次へと興味のあるものは口に含んで行った。

 「んな急に食うと気持ち悪くなるぜ」

 そう言って飲みものを渡すと、躊躇なく受け取ってごくごくと喉を鳴らして飲んだ。

 教会での食事はとても質素なものだった。

 孤児として生きてきて、これほどまでの食事など初めてなのだろうか。

 これも美味しい、あれも美味しいと、口の周りの汚れなど気にせず口に頬張っていくものだから、周りの子供たちも我慢が出来なくなり、ついには全員食事に手を伸ばした。

 「美味しい!!」

 「これも美味しい!!」

 そう言って嬉しそうに食事をする子供たちを見て、波幸はひとまず安心だと微笑む。

 それにしても、どうして子供たちは食べる気になったんだろうと、将烈に聞いてみる。

 「生きるってことは、食うことが資本だ。喰わなきゃ身体がもたねぇだろ」

 「そうですが」

 「それにな、旨そうな匂いや旨そうに食ってる奴を見てると、反射的に涎が出てくる。そうすりゃこっちのもんだろ」

 「しかし、どうして火鷹なんです?」

 誰でも良かったのではないかと聞いてみると、将烈は子供には到底分かり得ない、美味しそうには見えない煙草を吸いながら答える。

 「警戒心がねぇだろ、あいつ」

 「・・・そういうことですか」

 「子供ってのは大人のそういうとこを敏感に感じ取るもんだ。だから顔色を窺う。けど、あいつの場合、ほぼほぼガキだからな。同等の奴がやってることには関心示すだろうし、警戒心を感じさせねえなら尚更だ」

 褒めているのかはさておき、そういう理由で火鷹だったのかと、波幸は再び子供たちの部屋が映し出されている映像を見る。

 そこには、子供たちと一緒になってまだご飯を食べている火鷹の姿があった。

 「・・・・・・」

 ちょっと悔しいとかは決して思ってはいないが、波幸の表情は険しかった。




 それから数日後のこと。

 いきなり榮志がやってきて、火鷹がいないかと聞いてきた。

 「さっきトイレに行きましたよ。将烈さんに呼ばれていますから、すぐに戻ってくると思いますが」

 「じゃあちょっと待たせてもらうかな」

 そう言って適当な場所に座ると、波幸は榮志にコーヒーを淹れる。

 それを飲むか飲まないかの時、火鷹が部屋に入ってきた。

 「あれ、榮志がいんじゃん。何してんの」

 「お前に用が合ってきたんだよ。お前身長何センチだっけ?」

 「俺?188だけど?なんで?」

 「お、やっぱな。一着ワイシャツ貸してくんね?明日会議あるの忘れててさ、全部クリーニング出しちまったんだよ」

 「別にいいけど、俺のワイシャツ汚いよ?アイロンとかかけてないから」

 「だろうな。そうだと思ったよ。しわくちゃなだけか?」

 「そうそう。シミがつくととりあえず洗濯機入れてるけど、しばらく洗ってないからなー。そろそろ回さないとダメかな」

 「そういうズボラなところ直しとけよ。一枚貸して。アイロンは自分でかけるからいいや」

 「へいへい。ちょっくら待ってて。今持ってくるから」

 そんな2人の会話を聞いていた波幸は、ふと首を傾げる。

 「榮志さんて、火鷹と仲良いんですか?」

 「なんで?」

 「いえ、普通、火鷹にはワイシャツ借りようとは思わないんじゃないかと思って。炉冀さんとか櫺太もいることですし」

 榮志はケラケラと楽しそうに笑いながら答える。

 「だってよ、100歩譲ってダチのあいつらから借りるより、身内のいとこから借りた方が気が楽じゃね?」

 「・・・はい?」

 「いやわかるぜ?あいつらとダチなんて言いたくはねぇけど、もし万が一汚したとして、頭下げるくらいなら、火鷹の方が適当にそのまま返しても何も言わねえじゃん?」

 「いえ、そこではなくて」

 「あ?どこ?」

 「いとこって・・・誰がですか?」

 「俺が」

 「誰と?」

 「火鷹と」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 互いに無言になったあと、一気に波幸が大声を出しそうになるが、一歩のところで踏みとどまった。

 「いいいいいとこだったんですか!?」

 「あれ?言って無かったのか、あいつ?」

 「初めて聞きました・・・。まあ、確かにテンションとか似てますよね」

 「嬉しくねえよ。あいつに似てるなんて言われて誰が嬉しいんだよ?」

 「そうですよね・・・」

 「おーい、持ってきたー」

 「サンキュー」

 自分のことを話されているとは露知らず、部屋に入ってきた火鷹は持ってきたワイシャツを榮志に手渡した。

 やはりしわくちゃにはなっていたが、これならアイロンをかければ平気だろうと、それを持って榮志は部屋から出ていった。

 呆然と火鷹のことを見ていると、波幸の視線に気付いた火鷹は「はへ?」と間抜けた声を出していた。




 「櫺太、何作ってんだ?」

 「んー」

 「返事になってねぇよ。炉冀、こいつ何作ってんだ?」

 「紙飛行機だってさ」

 「お前櫺太の通訳出来るよ。すげぇな」

 どうして3人が同じ部屋にいるのかと聞かれると、先日の事件のことで報告書をまとめなければいけなく、3人集まっていっきに作ろうという話になったのだ。

 しかし、櫺太は紙飛行機を作り始めてしまい、それに乗っかって今は炉冀も紙飛行機を作っている。

 何をしてんだか、と呆れていた榮志だが、炉冀の言葉に榮志も紙飛行機を作ることになる。

 「勝負しようぜ、勝負」

 「・・・負けても泣くんじゃねえぞ」

 一足先に作り終った櫺太が、窓際に向かって、風に涼みながらも風を読み、優しく紙飛行機を飛ばした。

 「あ、櫺太まだ早いって」

 「お、気持ち良い風」

 「櫺太、明日の天気は?」

 紙飛行機を折りながら天気を聞く炉冀に、櫺太は空に飛んで行く紙飛行機を見ながら答える。

 「明日は、晴れるよ」




 「別にいいだろ!俺が誰といとこだろうとよ!お前には関係ねぇだろ!!」

 「関係ないけど、なんか納得いかない。将烈さん知ってました?」

 「知らねえが、知ってもどうなることじゃねえだろ」

 「そうですが」

 「母ちゃんかお前は!!」

 「あんなしわしわなワイシャツを渡して恥ずかしいと思わないなんて、本当に火鷹はすごいよ。感心する」

 「別にあれくらい平気だろ。黄ばんでるわけじゃあるまいし。いとこに貸すならあれくらいで充分だ」

 「どんないいわけだ。そもそも、いとこだろうと誰だろうと、人に何かを貸すときは、それなりにきちっとした形で貸すべきだ」

 「姑みてぇだな。将さん、なんとか言ってやってよ」

 「もっともなことだな。俺ならあんなワイシャツ渡された日にゃあ、目の前で燃やしてやるのに」

 「将さん!?俺の知ってる将さんはもっと優しいはずだよ!俺の知ってる将さんに戻っておくれよ!!」

 「ところで将烈さん、何をお作りになってるんですか?」

 先程から、将烈は口に火をつけていない煙草を咥えたまま、何か作業をしていた。

 しかしそれがどうしても仕事をしているようには見えなかったため聞いてみると、将烈は真面目な声色でこう返事する。

 「紙飛行機」

 「紙飛行機、ですか」

 「天気良いから飛ばそうと思ってよ。お前等も作れ」

 「え?」

 「よっしゃ!でかいやつ作る!!」

 火鷹は何も考えずに作りだしたため、波幸は出遅れてしまったが、何も書かれていない真っ白な紙を折り始める。

 途中まで折ったところで、将烈は腕まくりをする。

 それほど暑くはないだろうから、きっと気合いを入れたのだ。

 「作ったら飛ばして勝負するぞ」

 「「へ?」」

 「負けたら飛ばした紙飛行機回収な」

 「負けねえ!!」

 「・・・・・・」

 何がスイッチで童心に戻ったのかは分からないが、将烈が真剣に紙飛行機を折っているのを見て、安心するのだ。




 「見よ!俺の紙飛行機!!」

 「・・・・・・」

 「将烈さん、あいつにあんな大きくて重たい素材の紙飛行機じゃ逆に飛ばないことを教えた方が良いんじゃ・・・」

 「回収係はあいつに決定だな・・・」



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