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それぞれの幸せ2

しばらく歩いて、私は話を切り出した。

「郁人さん、あなたは私に似ていると言いましたね? 確かに似ていると思います、ですがあなたは私とは少し異なる部分があります。あなたが今の関係をやめようとしたきっかけの方がいるのでしょう? 言い訳は私が何とかしましょう、郁人さんも素直にその方に気持ちを伝えに行ってください」

私は、淡々と言いたいことを言った。

……誰かが変わろうとするのは、きっかけが必ずあるはずで、郁人さんはきっと誰かに背中を押されたんだと思う。何故そう思ったのかと言うと、それは郁人さんと私が似てるからと言うだけなんだけれど、その直感は当たっていたようだ。申し訳なさそうな顔をして、ありがとうとそう言って、駆け足で何処かへと向かって行ってしまった。


「青春、ですね……」


なんて、独り身寂しくそう呟けば、

「そうね、若いって良いわぁ〜」

見知らぬ男性から同意をもらえるだなんて、思っていなかったため、思わず言葉にならない声を出してしまい、何故かオネェ口調な彼から笑われてしまった。

恥ずかしさから、だんだん頬の温度が上がってきてるような気がする。今は、いつもなら寒いと感じる北風が心地良く感じてしまうくらいに。


「郁ちゃんと知り合いなのね。

なら、由ちゃんや美歌ちゃんとも知り合いなのかしら? 三人の先輩の、出雲笹羅いずもささらと言うの。でも、本当に知り合いかは疑うわよね、彼らのことだからいつもの喫茶店にいるんだろうけど、何かあったみたいね〜。お兄さん、気になるわぁ」

にっこりと優しい笑みを浮かべながら、そう言う彼の雰囲気は優しくて、穏やかでまるで父親のようだ。

でも……。オネェ口調なのに、「お兄さん?」って言っちゃっているし、オネェじゃないの? オネェなの? どっちなのかわからなくて、内心私は混乱していた。

それを察したかのように、

「お兄さんね、そうね、口調は確かにオネェと間違われるわ。でも、僕はオネェじゃないのよ、残念ながらね。あなたが羨ましいわ、自分を持っていて。

僕ね、愛想振りまかないでいると何考えてるかわからないって言われるから話し方を気をつけようとしたのだけれど、僕は不器用なのよ、最終的にこの口調にたどり着いた訳。

似た者同士、仲良くしましょ?」

にっこりと彼は笑う。


「郁人さんとは、似ていると思います。

ですが、不器用だからオネェ口調になったとしても、私とあなたは似てないと思うのですが。

それより出雲さんは……、美歌さんのことどう思いますか? 由浅さんは、彼女のこと好きみたいなんです。今回、初めて会ったのですが、私はどうも彼女のことが苦手で。

明らかに、両想いなのに、由浅さんは郁人さんと美歌さんが幸せそうにしている姿が好きだからって、苦しくて辛いはずなのに側に居続けていたんです。

だから由浅さんには幸せになって欲しいです、だから悪役になったとしても美歌さんが裏切るようなことをすれば、躊躇わず由浅さんを説得するつもりです。正直言って、美歌さんが立ち直ろうが、立直らないとしても私にはどうでも良いことで、由浅さんが幸せになることを祈るばかりです。

由浅さんも、吉昌先生も美歌さんが幸せになることを願うのであれば、私は協力するつもりです」


私は淡々とそう述べれば出雲さんは微笑む。

……むしろ、あなたは……。

「私よりも由浅さんに似てます、穏やかに笑うその微笑み方がとても……」

そう言った途端、彼は目を見開いた。

そして、私から顔をそらす。


「ああ、良かったわ……。

由ちゃんに勝てる自信なんてないもの」


その言葉の意味が私にはわからなかった。

さっきの言葉を誤魔化すかのように、私が聞いたことについて出雲さんはまた話し出した。


「そうかしら、案外似ているものよ。

まあ、良いわ。あなた、案外頑固そうだもの。あなたの意見を覆すのは、難しそうね。

お兄さんはね、知ってたわ。あの二人が両想いだってことくらい、仲良ければ直ぐにわかること。

やっぱり、似てるわ。僕もね、大切な人のためなら悪役になることも躊躇わないよ。

ねえ。例え、あなたがね、悪役になろうとも、僕は君を絶対に見捨てないから。

初めて会った人にこんなことを言われるのは、嫌かもしれないけど、一人になろうとしないで。

せめて、味方してくれるのは由ちゃんや吉昌さんばかりじゃないことだけは覚えておいて」


ーーじゃあ、行きましょうか?

そう言われるまで、私は放心してた。

まさか、初めて会ったばかりの人の言葉に、囚われてしまうだなんて初めてのことだった。


……ああ、顔があつい。

熱でも出たのかな?

感情に疎い私には、この熱の意味がわからなかった。……ううん、今はわかりたくないなって思った。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※


一時間、出雲さんは私の時間潰しに付き合ってくれた。どうやら、知り合いって言うのは本当らしくて、私の名前を言えば、ああ噂の“静来ちゃん”ねって言われたから。

そして、優しく頭を撫でてくれた。

出雲さんとあの喫茶店に向かえば、幸せそうに微笑み合っている二人の姿があって。

……ああ、良かった。

心の底からそう思えた。


「由ちゃん、おめでと〜!」

「え、なんでここに笹羅先輩が……!」


戸惑う由浅さんなんてお構い無しに、出雲さんは抱きついて、自分のことのように喜んだ。


「そんなこと今はどうでもいいじゃないの! まあ、偶然郁ちゃんと会話する静来ちゃんを見かけてね、気になったから話しかけてみたのよ。それで、今日合ったことの話を聞いてね、気になったからここに来てみたのよ!

上手くいったようで何よりだわ!」


そんな出雲さんの言葉に、二人は顔を見合わせて、照れたように微笑み合う。

そんな姿を見て、すっかりカップルのような雰囲気になったなと私は微笑ましい気持ちになった。

……ああ、幸せそうで良かった。

こちらまで心温かい気持ちになった。


「わざわざありがとうございます、笹羅先輩。静来ちゃん、ありがとう。静来ちゃんがいなかったら僕、美歌に自分の気持ちを伝えることが出来なかったと思うから」

「いえ、私は由浅さんの苦しむ姿なんて見たくなかっただけですから。また、優しい微笑みを浮かべていて良かったです。私はその微笑みがキッカケで変わろうと思いました、由浅さんのことは兄のように慕っています。だから、由浅さんが幸せそうで良かったです」


魔法が解けたように本心が話せた。

そんな私の言葉に、照れたように再び微笑んで、由浅さんは私の頭を優しく撫でてくれた。


「僕もね、静来ちゃんのこと家族みたいに大切にしたいと思ってるよ。短い間しか話したりはしてないけど、兄のように思っていてくれて嬉しい。これからも友人として、僕と仲良くして欲しいなと思っているよ」

「勿論です」


天邪鬼な私。

少しは、素直になれたのかな?

自分の変化を嬉しく思った時、にっこりと笑いながら出雲さんは由浅さんの手首を掴んだ。


「お兄さんは、彼女の前で例え妹のように思っている女子に触れるのはどうかと思うわ。

ただでさえ、静来ちゃんは可愛い子よ」


美歌さんのために、言った言葉だってわかっているのに……、どうして?

どうして顔が火照るの?

どうしてこんなに嬉しいの?

お世辞だってわかってる!

でも、照れずにいられなかった。


そうよ、今まで他人に褒められなかったから、褒められ慣れていないだけなんだって!

この言葉、本気になんてしていない。

由浅さんに気づかせるための冗談なの。


「ああ! そうですよね、すみません。笹羅さん教えてくださってありがとうございます!

でも、珍しいですね。笹羅さんが、女子を可愛いだなんて言うの。僕、初めて聞いたかも知れません」


どうしてトドメを指すんです?

……ああ、そんなこと知りたくなかった。何でか、期待しまう私に、苛つく気持ちが抑えられない。

そんな言葉に、何故か誤魔化すかのように、出雲さんはまた由浅さん達の話に戻す。


「そんなこと良いじゃないの!

お兄さんだって、人間よ? 女子のことを可愛いって思うことは普通のことなんじゃないかしら?

お兄さん、嬉しいわ。だって、周りから見ても二人は両想いだってバレバレなんだもの!

郁ちゃんも幸せになれると良いわね、あの子にも美歌ちゃん以上に大切な人出来たみたいだし。

まあ、本人は恋か友情かはわかっていないみたいだけれど、彼女が頑張ってくれると思うわ。

それより美歌ちゃん、あなただけが恋で傷ついている訳じゃないのよ? あなたは知らないだろうけど、私はあなた達と同じ高校出身なのよ。郁ちゃんに、元彼の噂を教えてたのは私なのだから。私もね、恋で傷ついて、恋をしたくないって思ったことがあるわ。

だから、あなたが正気に戻ることを願って郁ちゃんに情報提供していた訳よ。それなのに、美歌ちゃんは正気に戻らなかった。郁ちゃんを責めて、でも実際にそれが事実と知った時、責めた彼を自分を守るために幼馴染まで嘘を重ねさせたことで、どれだけの人達が傷ついたか、それだけは忘れないで頂戴。

傷つきたくないのは誰でも一緒よ。

もう少し、周りを見ることね。

それで、由ちゃんを傷つけて、別れるようなことになったとしたら、私は由ちゃんの味方をするわ。

それだけは覚えておいて頂戴」


そんな出雲さんの言葉は思いやりがあって、……そして何処か鋭さがあるように思えた。




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