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夢見ぬ少女は出会う

「初めまして、桜見静来さくらみ しずくさん。一度、父から聞いて以来会ってみたかったのでお会い出来て光栄です」

女子高生な私に、四歳上な彼は躊躇いもなく頭を下げ、敬語を使った。私の周りにはそんな人はいなくて、思わず動揺をしてしまう。

私は、好きなことを夢にはしない。

私は、好きなことを将来就くであろう職業にはしないとそう決めた、と彼の父である自分の担任にそう言っただけのことだけなのに、それだけで何故興味を持たれたのか不思議で仕方がなかった。

……わざわざ寒い中、校門で待ち続け、私を探してまでも、私は面白い人間ではないと思う。

「なんのご用ですか」

だから、角のある言葉になってしまう。

……愛想の悪い子だわ。

……機械染みていて怖いよね。

……羨ましいよ、何でも出来て。

過去、言われた言葉が頭を巡る。

あの人の父である私の担任は、過去のことなど気にするなと言った。今、現在側にいる人から言われた訳じゃないのだから、と。

だけど、私にはそれが出来なかった。

その過去がなかったら今の私はいなかったから、だからその過去を否定してしまえば今の自分を否定することになると思うから私は、その過去のことを一生忘れることは出来ない。

そんな頭の固い私は、誰かに興味を持たれるくらい面白みのある人間ではない。誰かの意見で、そうなんだなって素直に言えるような素直な性格など、持ち合わせてなんていないのだから。

「いいえ、ただ会ってみたかっただけですから予定があるなら遠慮なく断ってくださって構いません。

あなたの予定を聞かず、押しかけたのは事実ですから、出来ればお話を出来たらな、くらいの気持ちで来てますから気にしないでください」

……彼は勘違いしているようだ。

私が彼の待ち伏せに迷惑がっていると。


「……私も何度か進路相談で、あなたの話を担任から聞いております。夢見過ぎて困っていると……、私とは間反対で私もあなたとは一度話してみたいと何度か思ったことがありましたから、待ち伏せされるとは思ってはいませんでしたが、迷惑ではありません」

自分でもこれは冷たすぎる対応だったかと、言った後から気づいたけれど、そう言う対応をしてしまったから今更後悔してもしょうがない。どうせ初対面だ、これで嫌われたらそこまでの縁だったってことで、私が気に病む必要はないのだと必死にそう自分に言い聞かせる。

……傷つけたかな……?

そう考え、私は顔を上げた。

だけど、彼は気にした様子も見せず、

「そうなんですか! 嬉しいですけど、恥ずかしいなぁ。僕の話なんて、夢見がちな話ばかりだから、君にとって真逆な話ばかりだったでしょう?」

逆に距離感が近くなってしまった。

……人はいつか裏切るわ。だから今のうちに、距離感が近くなりすぎて傷つき過ぎてしまう前に、この人から距離をおかなくては……。

「私の話など聞いても面白いことなんてありません。悪いことは言いません、風邪を引く前に家に帰っては如何ですか。あなたに風邪を引かせれば、あの担任に何を言われるかわかりませんし、ただ単の興味本位で私に近づけば、いつか後悔することになりますよ」

私は、自分に自信を持てない。

だから、私は人付き合いもしたくない。自分に自信が持てないから、誰かに好かれるようなものを持っているような気がしないし、いつか嫌われて、距離をおかれたことを考えると、最初から誰かと関わらない方が良いと思うからだ。

だけど、それじゃいけないのは分かっている。分かっているけど……、それが出来ないのは私が臆病者だから。

人間、皆臆病な部分を持っている。

私達は強い力を持っていない。

象ほど大きく、強い体を持っている訳ではない。新幹線のように、出る速さには限界があるが、あんな速い脚を持っていない。猫のように高い身体能力もない。だから、それを補うために私達は「考える力」や「個性」とか、そして他の動物達よりは高い「知性」を持っているのかもしれない。

だけど、それは良いことばかりではない。

どの動物にも「感情」がある。

だが、人間ほど複雑なものはない。

時に愛しさが「憎しみ」に変わり、

逆に憎しみが「愛しさ」に変わることだってある。正反対な感情でも、その境界線は曖昧で、その境界線は紙一重だ。少しでも境界線と言う“紙”に切れ目が入ってしまえば、紙が切れてしまうことなど意図も簡単なことなんだと思う。


感情の反対語は理性らしい。

だが、私はそうは思わない。

感情の先には「狂気」が潜んでいる。

一度は愛した人に対する感情が、「殺意」に変わることだってある。そう思えば、感情の先には「狂気」が潜み隠れているんじゃないかって私はそう思うようになった。

そう思うようになったのは、過去の記憶が私の中に残っている名残。だから、私はこの辛い記憶を、悲しい記憶を、なければ良かったと憎しみを抱いているはずのこの記憶を、私は否定出来ないし、どうでもいいことだと忘れることすらも出来ない。

私が、完全に人を信じられていないと言う証拠。あの笑顔の奥には、何があるんだろうとそう思えば思うほどに、私は思考と言うアリ地獄に飲み込まれていくのだ。

なんて、考え事していれば、彼はにっこりと微笑んでいた。冷たい言葉を言ったのに、なんでそこまで微笑んでいられるんだと思った。こうして、私から距離をおかせようと必死に説得しているのにも関わらず、そうしている間にも彼の優しい微笑みに、その言葉に興味を抱いてしまう。

私は天邪鬼だ。興味を持てば持つほどに、その相手から距離をおこうと頑張ってしまう癖がある。

そんな私に、彼は諦めることなく、満面の笑顔でこう言ってきた。……こんな面倒くさい性格だと言うのに、嫌な顔一つせずに。

「話して後悔するより、僕は話さないで後悔しする方が苦しいと思います。だから、あなたに鬱陶しいと思われるかもしれないと怖かったけれど、今は勇気を出して父さんの仕事場に来て良かったと思っています。

あなたの喋り方は冷たいし、淡々としていて怖いと感じる人がいると思います。だけど、あなたは僕が風邪を引いて父から怒られるのが嫌だから今日は帰れと言いました。それに、興味本意で近づけば後悔するとも忠告をして下さいました、だから僕は勝手にあなたは根は優しい人だと思うことにします。

だから、僕が「あなたと話をすることを諦める」なんてことなんてあり得ないので、そのことをあなたが諦めてくださいな。僕ね、諦めが悪いんです。何せ、夢見る青年ですからね、僕がただ夢見ている青年だと思っていたら大間違いです。夢見ることも大変なんですよ、たくさん挫折しますし、傷つくことだってあります。

だから、諦めが悪くなりました。こう見えて根性だってあります。残念でしたね。僕に興味を持たれた時点で一人で過ごすことが好きだとしても、少なくなりますから!」

むしろ、開き直っているように見えた。

いや、今の話し合いでさえも、私から見れば彼は楽しんでいるように見えるのはきっと気のせいではないのだろう。

「変わった人ですね、あなたは」

私は、滅多に人前では笑わない。

だけど、可笑しくて可笑しくてたまらなかった。私は人前だと言うことも気にせず笑った。


「改めまして、知っているかもしれませんが、桜見静来と言います。あなたの名前を教えてくれませんか?」

私は人に対して無関心である。

だけど、彼に興味を持った。

だから、彼から距離をおこうとしたけれど、そうはさせてくれなかったから開き直ることにした。

花を咲かせたように笑う彼に興味を抱いたことを、隠せないくらいに興味を抱いてしまったから。

もしかしたら、また傷つくかもしれない。そう思うと怖いけれど、その時になったら考えれば良い。

「僕は、花芽由浅かがよしあさと言います。これから、お友達から始めてくださいませんか?」

私はそう言った彼の言葉に、違和感を感じながらも拒否をしなかった。あえて、何にも考えなかった。

「はい」

久しぶりに、表情筋が私の意志で動いたような気がした。この人と関わることで私が変わるような気がして、これからの日々に少しだけ期待しようと思った。







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