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熱意


「博麗の神社内で殺しを行うのは良いことじゃないけど?わかってるのかしら」

「それは済まないことをしたな博麗の巫女。だが、なぜその2匹を助けた?そいつらを助けたってことは俺らに敵対することを意味するが?」

「それで構わないわ。あんたらがまとめてかかってきて私を倒せる自信があるならね。言っておくけど博麗の巫女を侮らない方がいいわよ?」

「…ふんっ、小童の分際で…。お前ら、この2匹の天狗はもう良い。柊斗たちを追うぞ。」


鴉天狗と白狼天狗達は天魔に続いて博麗神社を飛び立っていった。博麗神社には2匹に天狗と霊夢だけが残された。


「…まったく、世話が焼けるわね。萃香ー!あんたどうせ見てるんでしょ?こいつら中に運ぶの手伝いなさいー!」

「相変わらず霊夢は鬼使いがあらいねぇ。まぁ久しぶりの天狗だし、手伝ってあげるよ」


突如何もない空間に霧が密集していきそれはだんだんと形をとっていく。萃香と呼ばれたのは山の四天王の一人の伊吹萃香のことだった。百鬼夜行の異変以来、博麗神社に住み着くようになった鬼の一匹だった。


「にしても霊夢がねぇ。神社で殺しをすんなって言って止めたけど理由は他にあるんじゃないかい?」

「ないわよ」

「鬼に嘘は通じないよ?」

「嘘ついてないわよ。鬼に嘘が通じないの知ってるから誤魔化してるのよ」

「霊夢が鬼より鬼なのは知ってるから何も言わないさ」


軽口を叩きあいながらも霊夢も萃香は致命傷を負っているはたてと椛を母屋の方へと連れていき布団に寝かせつけた。





あの時、はたてと椛が意識を手放した時に天狗達からはたてたちを救ったのは他でもなく霊夢だった。妖怪の争いごとに常に無関心だったが、今起きた争い事だけ霊夢は止めた。


普通なら目の前で争ってるんだから止めるのは当たり前、と思うかもしれないが、霊夢をよく知っている萃香からしたら面白おかしくて誰かに話したいっと思っていた。


「まぁ、とりあえずある程度回復するまでなら看ててあげるわ。萃香、水とタオルもってきて。」

「本当に鬼使いが荒いねぇ。まぁそれが霊夢なんだってわかってるけどね。」


文句を言いながらも萃香は霊夢に従う。

























「…」

「……いい加減元気出してくださいよ。もしあの場所で逃げなければわたし達は全滅でした。…自由には犠牲が必要といった椛と、その為に手を貸してくれたはたて。二人の分も逃げて自由を手にするんですよ。」

「わかってるけど…あいつらがいない自由なんて…。なんで僕なんかのために命捨てるんだよ…。」

「みんな、あなたが好きなんですよ。もちろん私も。あなたの謳った自由はとても気持ちの良いものです。天狗社会を否定したときは何言ってるんだと思いましたが、今ならわかりますよ。多分その自由は他の妖怪や人間から見れば普通のことなんでしょうねぇ。天狗に生まれたわたし達にとっては当たり前のことに気づけてないんでしょう。…まぁできるなら、はたてと椛も一緒に自由を見たかったですね」

「…」


魔法の森の中で2匹の鴉天狗の声が儚く消えていった。


「…八雲紫はどこに住んでるかわからないですからねぇ。どうしますか?」

「うーん…八雲紫の式の式、橙を尋ねよう。橙なら今の時間帯にマヨヒガにいるはずだ。」

「…どうやってマヨヒガまで?」

「…それもそうだな」


良く考えたら、橙がいるマヨヒガは迷子になった時に迷い込める場所と聞いたことかあるな。幻想郷ができた日からずっと僕らは生きてきたから迷子になるなんて不可能に近い。知り尽くしてしまった幻想郷、マヨヒガは見たことがないが迷子になったことはなかった。


「私を探していて?」


突如後ろから声をかけられた。気配は一切せず油断しないように周囲を注意してたにも関わらずいきなり後ろに大きな妖力が出現した。


僕と文は同時に距離を開けて振り向いた。そこには空間に変な裂け目ができ、禍々しい空間と化したその裂け目の中から1人の女性が上半身だけ裂け目から姿を表していた。


「…八雲紫」

「あら、怖いわねぇ。あなた方から探してた癖して実際に会うとそんなに敵意を向けるのかしら?」

「それは悪かった。ただ、いきなり後ろを取られて話しかけられれば誰しも警戒はするものだが?」

「それもそうねぇ。それで、私のことを探しているみたいだけど、何か用があるのかしら?」


どこからともなく煌びやかな扇子を取り出し、自分の口元を覆う。それは八雲紫が良く相手と話す時に行うものだった。真意は測れない。予想では相手に自分の内心を悟られずに語っているように見える。まぁ簡単に言えば胡散臭いことこの上ない。


「あやや?その物言いでしたらもうわたし達の事情は知ってのことでしょう?わざわざ語らせずともわかるんではないでしょうか?」

「確かに私はあなた方の望みなどはわかるわ。でもね?知っていてもあなた方の口から実際に聞きたいのよ。」

「文、僕が話すから大丈夫だ。」


文には八雲紫と話すことは向いていない。長年付き合いはあるみたいだが、文には八雲紫に対して苦手意識があるのはわかっている。だからここは僕が話そう。


「…僕たちは天狗に追われている。僕の持っている『各上を従えて格下を敬う程度の能力』を山の外に出すわけには行かないと天魔に言われて殺されかけている。…仲間が、二人も殺された。僕らのために命を捨てた…。だから、僕は死んでしまった仲間の為にも、僕たちみんなが望んだ自由を手にしたいんだ。」

「…」

「だから…妖怪の賢者にお願いしたい…。博麗の結界と同じ結界を魔法の森の一角に張って欲しい。そこで、僕と文は二人で静かな時間を自由に生きたいんだ…。」

「…うん、あなた方の熱意はよく伝わったわ。本当に自由を求めているのね…。でもごめんなさい。それはできないわ。」


八雲紫の口から出たのは予想外の言葉だった。

……なぜ、謝る?

……なぜ、このタイミングで…

……なぜ、今謝ったんだ!


「…なぜ謝るんですか?あなたはわたし達の口から聞きたいと言って言わせたんですよね…?それなのに、できないんですか!?希望を持たせるだけ持たせて落とすなんて…そこまでわたし達の絶望した顔が見たいんですか!?あなたは…!!」

「やめろ!文!…時間の無駄だし。できないんならできないんだ。ほかを探すしかない…。」


どういう意図で謝ったのかは頭の良くない僕にはわからないが八雲紫に頼むのは無理だってことはわかった。 それだけで十分だ。宛はなくなったが別なところを尋ねるしかない…


「まったく…あなた方は頭をもっと使うべきよ。なんで逃げることしか考えないのかしら?戦えばいいじゃない」

「八雲紫…二人で天狗の群生と戦えと?ましてや僕は最弱鴉天狗の名前を持つのに、無理に決まってる。」

「なぜ、二人で戦うのかしら?仲間を集めればいいじゃない。あなたの謳った自由、私は全部聞いてはいないけど素敵なものよ。それを幻想郷の住人にも聞かせれば力を貸してくれるのもいるかもよ?」

「わざわざ僕らのために命を捨ててくれるような妖怪たちはこの幻想郷にはもういないさ。」

「どこまでも謙遜的なのね…。まぁいいわ。ここまではアドバイスはあげたわ。後は貴方達次第。…頑張りなさい。あなたの自由はきっと幻想郷に新たな風を吹かせるわ。」


それだけ残して八雲紫は空間の裂け目の中へと消えていった。残されたのは2匹の鴉天狗と魔法の森特有の静かな空間と時間。












しばらく、かなりの時間がたっただろうか。今は木の上で文と僕は休憩をしていた。しかし、何一つ言葉を交わしてはいなかった。


今日を振り返れば色々とあったなぁ。椛とはたてが仲間になってくれた。だが、ものの数時間で二人は僕らのために命を捨てた。それは僕にも文にも心に大きな穴を開けていた。それでも僕らは命を捨ててくれた二人の為に自由を求めた。だからこそ、八雲紫の言葉を信じてみる。


「…文、仲間を集めよう。僕らは逃げちゃダメだ。命を捨てた二人に合わせる顔が無くなるがそれでも戦おう。天魔達を殺して椛とはたてにせめてもの償いをしよう。」

「はぁ…。あなたならそう言うと思いましたよ。明日、行動に移しましょう。今日はもう寝ましょう。」

「…そうだな。ごめんな、はたて、椛。絶対に仇をとってやる。…文、これからもよろしくな。」

「えぇ、どこまでもついていきますよ。これからあなたが死ぬまで、私が死ぬまで、どこまでもあなたについていきます。」

「なんか照れるな」

「照れてるあなたを写真に納めたかったですねぇ。昨日は一緒に寝かさてもらったので今日はこれで…」

「んぐっ!?」


僕の目の前には文の顔。目は閉じていて頬を赤らめている。そして、僕の唇には柔らかくて甘いものがあった。それが接吻なんだと気づいたのは文がすでに唇を離した時だった。


「ぁ…うぅ…。」

「…照れてるあなたって女の私よりもかわいいですね。なんかちょっと虫酸が走りますが許してあげましょう。…おやすみなさい。」


文はその後、時間立たずにして小さな寝息をしていた。僕は唇に残った温かみに時間を取られて眠りについたのはもっと後になった。

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