幼馴染
実は、彼…この海に来ると考えてたらしい。
「もう、ダメかもしれない。」と考えた時には、波打ち際に辿り着いた流木を拾ってきて『SOS』と砂浜に書き残していたらしい。
知らなかった。
ウワサではよく「彼って、気が向けば海に行くそうよ。」と小耳には挟んではいたが、まさか本当に海を訪ねているとは思いもしなかった。
しかも、この海…なんてキレイなんだろう。
彼に遺書らしきものはなかった。その代わりに、私への手紙が一通だけあった。
「この地図の海に行ってごらん。不思議だよ。」
そんな言葉だけが書き残されていた。
微かに彼の涙でにじんでシワになった便箋が、私の胸を強く刺した。
これまで幾度とも彼に励まされ、相談に乗ってもらい解決をして、背中まで押してくれた…そんな彼が、このたった一枚の、間違いをすればリサイクルや消滅してしまう便箋だけをこの世界において旅立つだなんて、誰が予想をしていたんだろう。
彼に、もう一度逢いたい。
いつもは電話で呼び出していたけど、今日ばかりは生の声で叫びたい。
呼び出したい。
そして、まず謝りたい。
波が子守唄のように、私を慰めてくる。うんん、慰められてはいけない。私は、また一つの大事なものを教えられたのだから。
悔やんではいけない。振り返ってはいけない。
たとえ、この涙が許されなくても私は云いたい。
『彼への、感謝の表れ』だと。
後ろからカップルの声が聴こえてくる。
そろそろ夕暮れ、早く帰って明日の準備をしなければ。
「バイバイ、大切な人。また会おうね、私の幼馴染。」