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Extinct World  作者: ユキカゴ
1/1

Prologue

汝、一切の希望を捨てよ

ある叙事詩じょじしにはそう記されている。

その一点だけを抜き取れば、今の状況はそれに似たものであった。


人々のうめき声。

人が人を食らう。

カニバリズムに似たそれは、一種の病気であると思われていたが、

最近そのカニバリストが急増、事件の多発。

その一方で、笑う人々。

そんな世界が、今のこの世界そのものだった。


---食人病です---


そう、とある医師は言った。

父はそう告げられると、自分の腕についた焼け跡を見た。

母が、食人病にかかったせいで、人を食らうようになってしまった。

最初は自分の指をしゃぶり、脳を病気なんだと医師は告げたが、

段々とエスカレートしていき、母が父の腕を噛み千切った、

という所でこの言葉が告げられた。

父は噛み付かれた時に、腕を振るったせいで、

近くにあったフライパンの油が腕にかかり、焼けてしまった。


この病気は感染する。

母は一時の正気を取り戻したが、「ころして」と父に告げた。

それ以来母の姿を見てはいない。


当時、僕に父はこういった。


「母さんは…その、少し遠くに行ったんだよ…し、仕事でね」


父は目を逸らしながら、気の毒そうにそういった。

焼けた腕には包帯がグルグルと巻かれて、中がどうなっているのかがわからない。

それからしばらくして、僕は父についていき、育った。

日本という国は、未だこの病気に悩まされている。

いいや、そうじゃない。


…日本全土が、もう…”ほとんどいない”。

いないというと語弊があるかもしれない。

正確には”いる”。

病気にかかった人々だけが。


ある日、父は言った。


「お前ももう立派な大人だ、素直に受け入れ、そして理解できる時だろうと思うから言う

母さんは、俺が殺した」


父はそういった。

半ば信じられなかった。

食人病が起こした父への噛み付きが、そのままイコール母の死に繋がるのを、

僕は少し時間をおいて気がついたからだ。


明人あきと、お前はいい子だ、素直な子だ…だから、俺が憎いかもしれない

ただ、俺には母さんを殺す理由があった、人殺しとして見てもらっても、

母を殺した憎き相手として見ても、俺はかまわない…ただ、

お前が、生きて、生きて、この希望を絶たれた世界で、

俺の息子として立派に、巣立つのを…俺は望んでいる」


父とは、今も二人で暮らしている。

59歳を迎えた父、そして20歳を迎えた僕。

父さんは、その僕を大人としてこの話をしたんだ、とわかった。


「…父さん」


「俺の腕の火傷やけどのおかげで、どうやら母さんの病気が移らなかったようだが、

この感染症は未だに続いてくだろう…この先何年、何十年も…そしたら、俺も寿命で死ぬし、

お前を守ってやることもできない、お前が20になったからこそ、この話をした」


「父さん、僕にとって母さんを殺されたのはどう思えばいいのかわからない…けれど、

この現状を見ると、僕も容易に父さんの母さんを殺した理由に想像がつくし、

それに生きろっていうのは、ずっと前から言ってきてるじゃないか」


「そうか…なら、もう…大丈夫だな」


父さんは、翌日…天寿を全うした。



登場人物


東堂とうどう 明人あきと

主人公

性格:正義感が強く、人に頼まれたら断れない。

特技:運動能力が高い

目的:日本で非感染者を探す


二階堂にかいどう しゅん

性格:臆病

特技:逃亡

目的:日本で行方不明になった仲間を探す



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