7・エリアスの告白 ~エリアス視点~
エリアス視点です
次のお話は1時に更新で完結します
騎士君が診療所を出て行った後、リサは僕に一言、言ってから血相を変えて外へと出て行った。普段の僕ならば何か急ぎの用事があるのかと思うけど、今日一日のリサの様子はおかしかった。
例えば、いつも通り笑顔だけどどこか儚げで影があったり、薬の調合を間違えたり、リサには悪いけど跡を付けさせてもらった。そして、騎士君とリサが橋の上で何かを話し始めたのを遠くの物陰から観察する。
「ここからだと声が聞こえない」
橋の近くには隠れるところがないため、2人には簡単に近づけない。別に僕が普通に行って話に加わっても良いけど、さっき診療所を出て行ったリサを思い出すともしかして、僕に聞かれたらまずい事なんじゃないかなって思う。
「でも、気になる」
僕の位置からだとリサは後ろを向いていて表情が見えない、一方、騎士君の顔はこちらを向いていてよく見える。だから、その表情でどんな話をしているのかと推測していると、かなり真面目な話をしているようで、騎士君の顔つきが険しかった。
「仕方ない」
僕は耳に全神経を集めてそこにちょっとした魔法を加える。すると、騎士君とリサの会話が聞こえてきた。内容はリサの過去について、どうやら、リサは自分の過去を思い出したらしい。
それは、とても嬉しい事なのに喜べない自分がいることに気が付いた。だけど、話をよく聞くうちにリサは人ではなく黒の反逆者によって造られた人造人間だと喋り出した。正直、驚きで声が詰まる。
しかし、そんな中、騎士君はとある質問をした。
「なぜ、エリアスさんには言わなくてオレに言ったんだ?」
「それは、騎士さまは私と出会ってからずっと私の親族を捜してくれていて、優しい騎士さまですから、このままずっと言わないでいると、ずっと捜してくれます。だから、その、優しい騎士さまを縛りたくはないと言うか、えーと、上手く言えないのですが」
リサらしい答えだと思ったけど、まず最初に騎士君じゃなくて僕に言ってほしかった。今更、自分がリサの一番になれてなかったのかと悲しくなり、少し騎士君に対して嫉妬した。そうだよな…騎士君は今の今までリサの為に資料を漁ったり聞き込みをしたり、それに比べ僕は。
「私が黒の反逆者に造られた人造人間って分かれば、きっと、エリアスさんに嫌われる。ううん、違う。私は」
落ち込んでいると耳を疑うような言葉がリサから聞こえた。それと、同時にリサの声が震えているのにも気付く。
「エリアスさんの優しさに甘えてずっとあそこに居ようとしたんだ。卑怯だよね」
その瞬間、僕はリサの元へとゆっくり歩き出していた。
「リサ」
いつものよりも甘く囁くように名前を呼ぶと白い頬と綺麗な目を赤くして泣きじゃくるリサがいた。そして、なんでここにいるのと言う表情で僕を見上げている。
「エリアス…さん」
ぎゅっと力強く抱き締めて僕はリサに言いたいことを言う。
「リサ、卑怯なのは僕の方だよ」
目下にあるリサの目を見ながら話すのは少々苦しい。なぜなら、リサの純粋で綺麗な黒い瞳を見ていると自分の心の中にあるドス黒い感情までも見透かされていそうで。でも、今はそんなことは関係ないか。
「エリアスさんは卑怯なんかじゃないですよ。だって、エリアスさんは善良で優しくて」
「優しいなんて誰が言った?」
少し、意地悪に微笑むとリサの目が大きく開かれる。その目には驚きと困惑、様々な感情が混ざっていると分かった。そうだよな、リサはあまりこういう僕を見たことないんだよな。そう、知らないなら知れば良い、これから全て教えるから。
「さっき、診療所で騎士君がリサの記憶が戻るようにもう一度治療したらどうだと言っただろ」
リサは声を出さない代わりに頷いて反応してくれた。目はまだ潤んでいて、月明かりに照らされて目の中に細い三日月が入っているようにも見える。
「あの時、僕はリサにやらなかった。そう、躊躇ったんだよ。もし、記憶が戻ればリサは遠くに行ってしまうそんな気がしてさ、だから、僕は押し黙ってしまった」
それに、と僕は付け足してリサに言う。
「心の奥底では記憶なんて戻らなければ良いなんて酷い考えもあった」
これにはリサも戸惑っているようで口から微かに空気が漏れていた。
「記憶が戻らなければリサはずっと僕の隣にいてくれると思って。ほら、僕の方が卑怯だろ?」
自嘲気味に微笑んだ後、僕は一番言いたかったことをリサに伝える。騎士君は空気を読んでくれているのか静かにしている、本当は誰もいない場所で言いたかったな。でも、言うなら今だ。
「リサと出会ってから僅かで僕はリサが好きになったんだ。だから、僕はリサが何者であろうとも嫌わない。いや、嫌いになれないんだ」
リサが息を飲む。またも目から大粒の涙がこぼれてきたので、僕はリサの頬に手を添え親指の腹で拭う。すると、リサはポツリポツリと心情を吐露する。
「私もエリアスさんが、好きです」
透き通る声が囁いたのは告白。衝動的にリサの柔らかい唇に自分の唇を押し付けたかったけど、それはまた後で。教会の中でしようか、あぁ、そこまで我慢出来ないな。
とその前に騎士君に一つ頼みがあるんだった
「騎士君、ちょっと頼みがあるんだけど」
「なんですか?」
「話を聞くに今、リサは国の騎士から追われている身なんだよね?」
「まぁ、実際には。あぁ、そいうことですか」
流石、騎士団団長。理解が早い、そう僕が騎士君に頼んだのは。
「人造人間リサはこの世からいなくなった。いるのは、リサ・クロリットだ」
目の前には仕事が増えたと嘆く騎士君、目下には名前の意味を知り顔を赤くするリサいた。