5.「アンセヴァリー・タイズ」
協会をあとにした吉見たちは白いワンボックスカーの車内にいた。八人乗りの車内では2列目に吉見と佐賀、助手席に宮尾といったかたちで座っている。
本来ならば隊員は専用車を利用して、依頼者のもとへ向かうはずなのだか、なんらかの手違いで手配されていなかったのだ。
そこで知り合いの中年男性―三谷賢吾に送ってもらうことにしたのだった。
「なぁ、おっさん。まだ着かねぇのか?」
吉見は斜め前の席、つまり運転席に座っている三谷に不服そうに視線を向けた。黒髪で短髪。サイドを少し刈り上げている。顎に短く生えたひげと少し肉のついた体。典型的なおじさんタイプの三谷はミドル州の都市内にあるビル内に小さな個人経営の事務所"三谷探偵事務所"を開き、探偵として依頼を承っている。吉見は三谷とサンクションズ入隊前からの付き合いで一時期、三谷の事務所に居候していたことがあった。今は腐れ縁なのか何かと会うことが多く、情報収集など、サンクションズの仕事を手伝いをしてもらっている。
「そうだな。あと、15分ぐらいしたら着くぞ。」
―長い、暇だな。
専用車であれば、暇潰しになるようなものがあるのだか、今は三谷の愛車の中。することもない。やけにゆっくりと時間が過ぎる。時間にルーズな吉見だか、なにもせずただ時間が過ぎるのを待つは嫌いだった。
「なぁ。もっと早く着かねぇのか?」
「あのなあ、そんな急かすな。人にも車にも自分のペースってもんがあんだよ。」
「だからって、遅すぎんだろっ。」
吉見は運転席のシートに手をかけて軽く身を乗り出した。
「ああっ!吉見うるさい。アンタは静かに待てないの!?」
「なんだよ。お前には関係ねぇだろ。」
「関係あんのっ!アンタが煩いせいで、依頼内容が全然っ頭に入って来ないじゃない!」
宮尾は上半身だけを吉見のほうに向けるかたちで詰め寄ろうとした。しかし、シートベルトのせいで、ある程度までしか詰め寄ることができなかった。
吉見はいきなり詰め寄り、怒ってきた宮尾に威圧されなにも言えずに体をシートに戻した。
「アハハ。吉見は宮尾ちゃんに勝てないね~。」
「うるせぇ。」
「うるさいのはアンタでしょ!」
「だから、お前には関係ねぇだろ!」
「うるさいのはお前らだ。」
再び喧嘩しそうな二人に三谷が一喝する。お互い睨みあったあと、諦めたようにシートに身を預けた。
「ああ、そうだ。今日はどんな依頼なんだ?」
ふと、投げ掛けられた質問に答えたのは佐賀だった。
「護衛ですよ。なんでもそこの一人娘が命を狙われているみたいなので。」
まるで当然のようにさらっと言う。
―そんなこと書いてあったっけか?
吉見はスペクチャを開くと人指し指で画面をスクロールさせる。車に乗る前にさらっと確認しただけなので、見落としているかもしれない。
―ない?
もう一度確認するがそのような記載は一切なかった。
「なぁ、なんで分かるんだ?」
「ん。何が?」
「その一人娘が命を狙われいるってどこにも、書いてねぇからさ。」
「アンタも少し頭使いなさいよ…。」
「そうだな。宮尾ちゃん言うとおりだ。」
ため息混じりに言う宮尾に対して、三谷は軽く笑っていた。
どうやら吉見以外は理解しているらしい。
「俺は頭使うのは苦手なんだよ!いいから教えろよ。」
「推測だよ?」
佐賀がいい放った言葉に吉見はポカーンとする。
「だって、おかしいじゃん。大富豪のミランバール家だよ?ただの護衛なら、僕たちじゃなくもいいんだよ。でも、これがもし娘の命が懸かっているとしたら…?」
少し笑みを浮かべた佐賀は一呼吸おいて、更に続けようとしたの「もういい。」と遮った。
そこまで言われれば、さすがの吉見にも理解出来た。単純なことに気付かなかった自分に気恥ずかしくなり吉見は髪をガシガシと掻き、窓の外に視線を向けた。
その様子に少し面白くなって3人は軽く笑い合った。




