3.「フォゲット・マイペース」
応接室についた吉見を待っていたのは、ブラウン色の髪でミディアムしており、赤みかがった瞳が特徴的な宮尾と、うっすら笑みを浮かべて、ソファでくつろいでいる佐賀だった。
二人とも吉見と同じ隊服を着ており、会長からの依頼を受けるためにここに来たのだった。
吉見がエレベーターから降りるとすぐに、不機嫌な顔した宮尾が詰め寄ってきた。
「遅い!!アンタどこで何してたのよ!!集合時間はとっくに過ぎてるだけど!!」
「しょーがねぇだろ。時間変更なんて知らねぇし。それに、俺だって…」
吉見に反論の余地を与えまいと宮尾がすぐに続けた。
「言い訳無用。大体、メール見ないアンタが悪いのっ!依頼ある日ぐらいみなさよ!!」
「あのなぁ…」
―俺に一言ぐらい言わせろよ…。
「はいはい。ストップ、ストップ。今日はそんぐらいにしておきなよ。僕たち依頼にきたんでしょ?この続きはあとでやればいいじゃん♪」
佐賀はいいあらそっている二人の仲裁に入ると、二人の肩をポンポンと軽く叩く。
―それもそうだ。コイツと言い合うためにきた訳じゃない。
宮尾はまだ、なにか言いたそうにしていたが、諦めたように軽くため息をついた。
宮尾にしては素直なほうだろう。いつもであれば、佐賀に対して2、3言とぶつけてあ後一発、脳天かみぞおちに喰らわせていただろう。コイツが素直なのは、自分の非を認めているからだ。本来の目的を忘れて、感情的になってしまった自分が嫌なのだろう。宮尾は他人にも自分にも厳しい。自分には特に厳しいのが、宮尾のだ。
―そのせいで、いつもうるさいだよな。
宮尾が「何よ。」としかめっ面で聞いてきたが、それに吉見が答える前に、白鷺が現れた。
「会長がご到着いたしました。どうぞ、中へお入りください。」
白鷺に諭されるように3人は会長室へ入っていった。
会長室に入ると、目の前に会長のデスクがあり、その後ろはガラス張りになっていて、都市を一望することができる。綺麗に整頓されたデスクの向こう、その景色を眺めるように立っている20代前半ぐらいの男性がいる。銀色の長い髪を後ろで束ね、吉見たちとは違うデザインの隊服を着ている。会長はサンクションズのトップで、全ての隊員の管理や責任は会長が請け負っている。
「会長、お連れいたしました。」
白鷺が丁寧に頭を下げて言うと、会長は横一列に並んだ吉見たちのほうを振り向いた。髪色とは対称的なコバルトブルーの瞳が、こちらに注がれる。
「よく来てくれたね。それで、今日は何の用だい?」
ゆっくりとした口調で言いながら、椅子に座った。3人が呆れ顔をしているのをよそに、会長は不思議そうな顔をしている。
―忘れてた。
会長は超がつくほどの忘れんぼうで、約束を破るのが当たり前だ。何度も同じようなことがあったのでもう、定番化してきている。また、非常にマイペースで、予定通りに行かないことが当たり前だ。時間にルーズな吉見でさえ、呆れるほどだ。今回の時間変更と会長のマイペースのせいだろう。
白鷺が会長のもとに寄ってきて耳打ちをすると、会長はゆっくりと頷いた。
「悪かったね。僕のほうから呼んでおいて忘れてしまうなんて。で、今回の依頼なんだけどね。君たち、ミランヴァール家ってしっているかい?」
首をかしげる二人に対して、声をあげたのは意外にも佐賀だった。
「イースト州を中心に色々な施設を経営している、ヴォルガ=ミランヴァールのことですよね?」
「よく知っているね。そのヴォルガ氏からの依頼でね。君たちに彼の一人娘の護衛をしてもいたいんだ。」
―護衛か。久しぶりだな。こんな仕事は。
最近は組織の潜入や、内戦の仲裁など依頼ランクが高いものが多かった。依頼にはランクがあり、1~10に段階分けせれている。吉見たちが普段受けているのはランク7以上のものが、ほんどんどだった。今回の依頼はランク2~3ぐらいものだ。
―今回は楽かもな。
会長はゆっくりと手つきで、引き出しから何か紙切れを取り出した。それは写真のようで、デスクに置いて吉見たちに差し出した。
「この子が、ヴォルガ氏の一人娘…。」
宮尾が髪を耳にかけながら言う。
その写真には、綺麗な修飾が施された水色のドレスを着た金髪の少女が写っている。
「会長、具体的に俺たちはどうすればいいんだ?」
「それはね。あちらに全部、任せているから心配ないよ。君たちには、まずミランヴァール邸に向かってもらえれば、ね。」
そう言って、立ち上がった会長は白鷺に合図する。白鷺は、少し大きめのタブレットを取り出すと、何か操作し始めた。すると、吉見のスペクチャが震動した。
「皆様のスペクチャのほうに、今回の依頼の詳細をお送りいたしました。各自、ご確認ください。」
スペクチャを開くと、確かに依頼の経緯や、内容、地図まで載っていた。
「それじゃあ、いいかな。第一護衛班『 ユースティティア』。」
会長は一旦言葉を切ると吉見、宮尾、佐賀の順に見渡す。
「君たちの活躍、期待しているよ。」
と、笑顔で言った。
『ユースティスティア』は吉見たちのチーム名で、サンクションズ協会で最初に作られたチームでもあった。
「はい!!」
3人の返事は重なり合って、会長室全体に響いていた。




