2.「タイム・シビアー 」
吉見が協会に到着する1時間前。
協会の最上階に到着した、宮尾 紫は少しイライラしながら、残りのふたりの到着を待っていた。
昨日、会長から時間変更のメールをもらいふたりにもメールで伝えた。佐賀のほうはすぐに返事を返してくれたが吉見のほうは、いまだに返信してこない気づいていないのかと思い、何度か送っているが返信は無し。電話をかけようかとも思ったが、そんなことでかけるのも、何か気まずい。
だから、ひたすらメールを送り続けていた。もう、20通ぐらいにはなるだろう。そろそろ気づいてもおかしくないはず。
宮尾はスペクチャを上着のポケットから取りだし、メール作成画面を開く。文面の最後に 、
《返信しろ!》
と付け加えて21通目のメールを送信した。
宮尾はホッと息を吐くと、ソファーの横壁によりかかった。宮尾がいるのは、会長室の隣にある応接室。応接室なので、ソファーや小さなガラステーブルなどが用意されているが、座って休む気にはなれなかった。
座ってもすることはないし、なんだが落ちつかない。応接室にしてはこの部屋が広すぎるからだろう。宮尾は時間を確認する。
―あと、3分。もう何してんのよ。あのふたりは!
もう1度メールを送ろうとしたとき、エレベーターのドアが開き、茶髪の青年がニコッと笑顔を浮かべてはいってきた。
彼は佐賀 雷希。誰にでもフレンドリーで、ムードメーカー。少し癖のある髪の毛に、血色のいい肌、黒みかかったブラウン色の瞳が特徴的だ。顔立ちが良く、背もそこそこ高く、笑顔が似合う、好青年だ。だが、いつも軽い口調から真剣さに欠けているのが珠にキズだ。
エレベーターから降りてきた佐賀は、宮尾の反対側にあるソファーの頭に手をついてこちらに顔を向ける。
首から下げているチェーンのついた十字架のアクセサリーが胸元で光る。
「宮尾ちゃん、もう来てたんだね。」
遅れてきたという自覚がないのか、反省の色を全く見せない態度に、少しイラッとして、顔をしかめた。
「宮尾ちゃん、そんな怒んないでよ。僕だって、悪いって思ってるだよ?」
とうっすら、笑みを浮かべながら言う。
「とても、反省してるようには見えないだけど。」
「僕なりに、反省はしてるよ。」
と言いながら、スペクチャを取り出して操作し始めた。
―これ以上、この茶番を続けても無駄。
宮尾は呆れ顔で溜め息をつく。佐賀にはいつも、口で勝てない。先に熱くなってしまい、佐賀にあっけなく、いなされてしまう。佐賀はそれを楽しんでいるようで、それが余計に気に障る。でも、出会った当初よりはマシになった。慣れてきたんだろう。
宮尾はスペクチャを取り出して時間を確認すると、ちょうど9時になったとろだった。
―また、吉見ってば…。
スペクチャのメール作成画面を開き、素早く打つと、それを送信した。
吉見は時間にルーズだ。集合時間の一時間後に普通の顔をしてくる。それに対して宮尾はいつも、イライラしていた。
そのとき、会長室のドアがスッと開き、黒髪でセミロングの女性が現れた。
彼女は、会長の秘書の白鷺 湊穂。赤い縁の眼鏡の奥には切れ長の黒い瞳。肌が白く細身でスラッとしていて、美人だ。背は宮尾と同じぐらいで、黒がとにかく似合う人だ。今着ている黒のスーツもビシッと決まっている。
「失礼します。会長は所要のため面会時間を遅れさせていただきます。」
白鷺は淡々とした口調でそうつげると、一礼をして会長室に戻っていった。
「秘書も忙しいだね~。」
いつの間にか、ソファーに座っていて、手を頭の後ろで組んで背もたれに寄りかかり、くつろいでいた。
これから、依頼するというのにこの余裕だ。少しは緊張しないのだろうか。
「アンタは気楽ね。」
「気楽ねぇ。まぁ、何度も依頼受けてるしね。宮尾ちゃんも息抜きしたら?」
―確かに少し、気を入れすぎていたかな。
宮尾もソファーに座り、軽く息をついた。




