第十四章 援軍
イースウェア軍の侵攻開始からの三日目(建国記念祭六日目)。ユルレモント地方と呼ばれるルディア王国西南の一帯は数日前まで祭りに浮かれ、にぎわいでいたことが嘘か幻かのように静まりかえり、わずかに響くのは悲鳴だけとなっていた。
他国とは違い妖魔がでないルディア王国はほとんどの町や村で堀も土塁も柵もないため、敵に攻め込まれたら抗う術はない。家を壊され、家族を攫われ、あるいは殺され、田畑を踏み荒され、食糧金品を奪われていく中、住民たちにできることはただ逃げ出すことだけ。
建国前からあるような大きな街ならば、かつての城壁が残っているところもある。地域の中心である同名の都市ユルレモントもその一つだが、人口の増加、街の拡大で城壁の外に広がる面積の方が多いのでは意味がない。
いや、意味がないだけならばまだよかった。しかし、市民は、城壁がある、衛兵がいる、逃げ込めば助かる、と考えユルレモントに殺到した。ただでさえ、祭りの最中で大きな街や都市には人が集まっている。その多くが南方の村々から上がる火の手を見て不安に駆られていた。
そこに町村の住民が逃げ込み、事実が知れ渡ってしまえばどうなるか?
ユルレモントの住民。祭りを楽しむために訪れた旅行客。興業に訪れた芸人、職人。逃げ込んできた人々。人。人。人。街全体ですら許容量を超えるその人の群が全体の数分の一しかない旧市街へ津波のごとく押し寄せた。
真夏のことである。毎年、祭りの熱気だけでも熱中症で倒れる者が必ずいるような気候の中、ミツバチの蜂球のように人々が群がり、押し合いへし合いするのだ。何人もの市民が熱さと暑さに倒れた。すぐに手当てすれば助かる者もいたかもしれない。しかし、自分が、家族が助かることに必死な者たちはその上を平然と踏みつけていく。熱死。圧死。轢死。パニックの所為で死んだ者だけでもかなりの数に及んだことだろう。
しかし、人々が縋り、逃げ込んだ旧市街も安全地帯などではなかった。ユルレモント地方はかつてオーリュトモス家が治めていた地域。当然その中央に位置するユルレモント城はオーリュトモス家の城であった時代もある。
時代が移ろい、城そのものは行政府として国に接収されているが、ヴェニティーにとっては庭のようなもの。区画整理や老朽化で城壁が欠けている部分も熟知している。ユルレモントの市街は蹂躙された人々の血で紅く染まった。
陥落させたユルレモント城の会議室で大隊長クラスを集めてヴェニティーが演説する。
「聞きなさい! 飛竜部隊隊が敵の本隊を足止め。クレプスケール南塔に三千を残し、道を確保。そして、私たちがこの街を橋頭堡として押さえました」
現状を確認していくヴェニティーの指揮官ぶりと凛とした声はかつてのブルトルマン遠征のときとは打って変って頼もしい。
しかし、集まった大隊長たちの視線は冷たい。
(チッ……奴隷風情が偉そうに)
(なんで娼奴の命令なんか聞かなきゃなんねぇんだよ)
(ゴキブリ野郎も何考えてんだかな)
愚痴にしてこぼす者、心で思うだけの者、違いはあれど集められた全員が同様の不満を抱いていた。不満に思うのも当然のことだ。イースウェア公国において奴隷は物であり、人ではない。奴隷の命令は、牛馬の命令と同義。まして、戦ともなれば己の命が懸っている。奴隷に命を預けたいなどとは誰も思わない。
しかし、そんな部下たちの冷淡な態度を意に介さずヴェニティーは続ける。
「とはいえ! 王国軍の本隊がいるクレプスケールの司令部からこの街まで騎馬隊ならば一日あれば駆けつけることができます」
西方軍が中央軍に援軍を要請したとしても、普段は分散配備されている中央軍が援軍を編成するだけで時間を要する。それにルディア王国は東西に長く伸びる国だ。編成された援軍が中央軍管轄地から駆けつけるのは足の速い部隊に限っても数日はかかる。
それよりは一日あれば援軍を送って来る可能性のある西方軍を警戒するべきだ、とルディア軍の内情に精通するヴェニティーは考え、叱咤しているのだが、
「でもよお、将軍補佐官殿」
部隊長の一人が気だるげに手をあげ、反駁する。
「ルディア軍は大敗北のせいで兵力が低下してて援軍なんか送る余裕はねえんだろ? 警戒なんてする必要ねえだろ」
この発言に他の隊長たちも同意の野次を飛ばす。
「たしかに、王国軍はずいぶんと少ないようです。ですが、ここは彼らの縄張り。いつ何時、どのような方法で攻めて来るかわかりません」
「それを予測して案内するのが補佐官殿の仕事ではないのですかぁ?」
「だよなあ、自分の仕事サボってエラそーに命令すんなっつーの」
「まったくだぜ、ギャハハハハッ」
ワッ、と粗野な嘲笑が室内に溢れる。
(……チンピラ共が)
ルディア軍で貴族派の下弛んでいた軍人たちを見知っているヴェニティーでさえイースウェア軍の無秩序さは目に余るものがあった。理由の一つにはローチが無能な将軍ということもある。しかし、それ以上に大きな要因は“人間”である士官が“兵器”である軍奴に命令を飛ばすだけ、というシステムだ。命令一つで確実に従えることのできる軍奴を相手に規律など必要なく、それが士官たちの間でも規律の存在を希薄にしている。
(落ち着きなさい……落ち着くのよ、ヴェニティー)
場末の酒場のようなヤジの中でも貴族の娘として生まれ育ち、身に付けた“仮面”を被り直して苛立ちを隠し、ほんのわずかに呼吸のペースを落として心を落ち着けていく。
(こんなクズ共に足を引っ張られるわけにはいかないのよ)
この侵攻の指揮官を任されるにあたって、三つ新たな命令を課せられている。
その一つが『勝利のために全身全霊を尽くすこと』。奴隷に指揮官を任せるという、良く言えば奇抜、悪く言えば暴挙を行うのだからこのくらいの保険は当然だろう。命令されている以上、手を抜くことはできないし、そもそも抜く気もない。
(ラズワルドに……本来私がいるはずの場所を奪ったあの女に相応の報いを受けさせる! そのために私は帰ってきたんだから!!)
冷静さと歪んだ復讐心で心を凍らせてから眼前にならぶ無能共の顔を見渡す。今までの発言、態度、階級、他の者の接し方、エトセトラ。それらをふまえ、貴族の娘として育った経験を加味して、
(アイツね)
幾人もいる男たちの中から一人に絞り込んでから
「ともかく、この場で私の命令はローチ将軍の命令と同義です。従わないならば軍規に則って厳罰に処します。それから、貴方」
キッチリと威圧的な上官の役割をこなしてから、最初に異議を申し立て、反攻の口火を切った男を見据える。
「話があります。ついて来なさい」
字面こそ上官としての命令ではあるが、それまでの威圧的な口調を薄めて、艶という含みを込めて誘う。
「いいぜ」
誘惑の視線を向けられた男は部下とは思えない横柄な態度で応じた。
会議室を離れ、士官の宿舎に割り当てた棟へと続く廊下を進む。人気のない一角まで来たところで歩みを止めて振り返り、有無を言わせず男の唇に唇を重ねる。ナメクジのようなローチの唇に比べれば、粗野ながら軍人らしく鍛えているこの男に口づけすることなど大したことではない。
「っはあぁ……ねえ、力を貸してくれない?」
「…………力ぁ?」
平静を装ってはいるが男の声からは先ほどまでの露骨な反抗心が薄れ、次への期待が滲んでいる。数か月前、まだ穢れを知らない生娘だったころではキス一つでここまでの効果は得られなかっただろう。しかし、皮肉にもローチに散々に教え込まれたテクニックが活きた。少なくとも主導権を握るための先制の一手としては十分に。
「そう。余所者の私は隊長たちから信頼されていない。ここに来るまで指示に従わないヤツもいたし、きっと中には反抗を企ててるヤツもいるかもしれないわ」
あえて膝を曲げ、大して身長差の無い男を見上げるような体勢で壁に押しつけ、片手を首に、もう片方の手を胸板に這わせながら甘く囁く。
「でも、貴方は違う。貴方は他の隊長たちを束ねる実質的なリーダーだわ。貴方が協力してくれればこの作戦はきっとうまくいく。そう思わない?」
「はっお前に協力してオレに何の得があるんだよ?」
「アラ、得だらけじゃない? まず、この戦いを勝利で納めれば軍功第一位は貴方になるわ。私はもちろん、そう報告するつもりだし、他の大隊長たちも異を唱えたりしないでしょうね。それに……」
男の胸板に豊かな双丘を押しつけつつ、
「……私にできる見返りはあげるつもりよ」
「はっ、お断りだね」
「アラ……どうして?」
「ゴキブリ野郎の娼奴に手ぇだしたなんてヤツに知られたら……」
ギリギリのところで誘惑に乗って来ないのは忠誠心――ではなく、処罰報復に対する警戒心だろう。しかし、その程度の返しは想定の範囲内。
「心配いらないわ。これも命令だもの」
「命令?」
男が怪訝に問う。当然だろう、まだ飽きていない娼奴を部下に使わせるほどローチの心は広くない。それに奴隷が消費物であるとは言っても、相当に高価な品であることも事実。勝手に他人の奴隷を使うこと厳罰に値する。
「今回、私は基本的な命令に加えて将軍から三つの命令を受けているわ。その一つが『勝利のために全身全霊を尽くすこと』。指揮が十分に機能しない現状を看過することはこれに反するの。でも、言い換えれば“指揮を機能させるためにできることをする”許可が下りているのよ」
「いいぜ、協力してやるよ」
「そう。良い答えが聞けてうれしいわ」
(フフフフ……痴れ者が)
顔に蜜のように甘い笑みを浮かべつつ、腹の中で剣のように冷たく嗤う。
どんな集団にもリーダー格の人物というのは必ず存在する。それは同じ階級の者同士でも然り。能力、実力、家柄、人間性、要因に違いはあるがそういう要さえ押さえてしまえば、その集団を従えるのは容易い。
しかし、それだけではない。
先ほどヴェニティーが口にしたことは事実。……だが、おそらくローチ自身が意図したことではない。つまり、一度関係を持ってしまいさえすれば、ヴェニティーはこの男の弱味を握ることができる。それはこの戦いの後、必ず活きてくる。
不意にそれまでされるがままだった男の腕がヴェニティーの背に回った。
「今はこれ以上はダメよ。誰かに見られたらお互い困るでしょう? 昼間はきちんと役割をこなしてちょうだい」
胸板を突き放すようにして男の腕から逃れて、距離をとる。
「チッ、しかたねえな」
ユルレモントでヴェニティーが巧みにイースウェア軍の手綱を握りはじめていたころ、ユルレモントから馬で半日ほど北上した地点にある町ではエバーたちがわずかな部隊を率いて避難誘導に当たっていた。
「押さないでください! 落ち着いてゆっくり行動してください」
メガホンを片手にエバーが呼びかけ、必死に町民の動揺を落ち着ける。
ルディア軍では少尉に指揮が任されるのは小隊まで。その構成は作戦内容によって多少人数が変動することもあるが、一小隊二十五人編成が基本。これはEランク妖魔を退治する部隊の構成である。
しかし、今エバーが指揮しているのはその倍五十人の兵士を指揮している。士官とはいえ、任官して間がなく、まして実際に部隊を率いた経験など無いエバーの手には余る大人数。
「お年寄りと子どもは優先して馬車へ。歩ける人はできるだけ歩いて下さい」
それでもエバーは懸命に避難誘導に励む。
本来、南塔陥落の時点でユルレモントに兵を集めて迎撃の拠点にするべきだったのだが、兵の不足と情報伝達の遅れからもともと用兵が不得手なサングリエ将軍は決断を遅らせてしまい、結果としてその要所が敵に占拠されてしまった。そこでサングリエ将軍は中央軍の援軍が来るまでの防衛線として五つの街を定め、ここに第二旅団から歩兵千、輜重兵千五百を割いて派遣した。
さて、一つの街に五百人規模で派遣されたなら、なぜ新米少尉のエバーは二小隊五十人の兵を率いて指して大きくもなく、街道からも外れたこの町で避難誘導にあたっているのか?
ありていに言えば嫌がらせである。
ローズとヴァイオレットはいくつかの理由から部隊長を任せられるだけの階級にある尉官たちを遠ざけ、その任命も仮のものに留めていた。もちろん、能力の有無や素行など本人たちに省みるべき点があるのだが、そういった者ほど他者の成功を嫉み、己の非を認めないもの。不運にもエバーの上にいた中隊長もそういう人物で、防衛線として定められた街からさらに数キロ南下したところにある小さな町への避難誘導を命じられた。しかし、そんな不幸の中にも多少の幸運は混ざってた。
「南から逃げ込んできた避難民含めて民間人すべての避難誘導完了したぜ、少尉殿」
「ありがとうございます、ドロレ曹長」
エバーの小隊に命じられたのは避難する住民の護衛。しかし、南方から逃げてきた者、年寄りやこどももいる集団を避難させるには馬車がいる。その役目を買って出てくれたのがこのドロレ曹長だ。ベテランの曹長らしい指揮ぶりで、自分の部下に指示を飛ばしつつエバーをフォローしてくれている。
「上官がかしこまっちゃいけねえって」
「すっすみま……」
「ホラ、まただぜ?」
こうして軽く肩の力も抜いてくれる。ドロレ曹長のフォローがなければここまでスムーズに指揮を執ることは不可能だったに違いない。
「では、出発し……」
「東に騎影! 数およそ百!」
出発しましょう、と指示したエバーの声が上空から降ってきた大声と羽音に遮られた。同行し、歩哨にあたっていた竜騎兵だ。
「軍旗は!?」
「掲げてません」
ルディア軍ならばグリフィンの紋章の軍旗、イースウェア軍ならば盾の上に杖と剣の交差した紋章の軍旗。友軍ならば掲げている。掲げていないということは――、
「敵兵!?」
なんで東から? という疑問を棚上げしてエバーは即座に命じる。
「曹長、避難を急いで! 護衛部隊は集合!」
「オイ、少尉……」
平地の戦いは兵の数で決まると言っても過言ではない。敵は百対してエバーの部隊は五十。熟練の指揮官が地の利を活かすことができれば勝ち目がないこともないが、新米でまだようやく指揮を執っているエバーではまず勝ち目はない。
「私たちが時間を稼ぐので曹長は避難を急いでください」
しかし、暗に、止めろ、と言うドロレ曹長を気圧すほどはっきりとエバーが命じる。エバーも勝ち目があるとは思っていない。だが、勝ち目が薄くとも時間を稼ぐことならできる。中隊の詰めている街はそう遠くない。持ちこたえれば市民とドロレたち輜重部隊を生還させることはできる、と短い間に判断したのだ。
それでも、本気か、と問うように見つめるドロレ曹長に対して頷いてみせる。
「了解。死ぬんじゃねえぞ」
後ろ髪を引かれるようにその場を後にしたドロレ曹長に「もちろん」とエバーは答えたが、勝算などない。
(姉様みたいに一人で百人くらい倒せれば別だけどね)
エバーが、訓練でローズが百人以上の部下を倒してなお平然としていたことを思い出し、自嘲気味に笑ったそのとき、複数の蹄の音が町に隣接する林から聞こえてきた。
「えっ?」
いくらなんでも早すぎる。歩哨の報告を受けてまだ一分と経ってないのだ。仮に竜騎兵が降下するのに気づいて速度を上げたのだとしても、馬を操るのが難しい林を突っ切ってこれほど早く押し寄せるなどあり得ない。
そして、エバーが驚愕から復帰する暇もなく、林の梢の間から一騎の騎影が踊り出てきた。梢の向こうから後続の枝葉を掻き分ける音が聞こえてくる中、騎上の人影が凛と通る声で名乗りを上げる。
「私は西方軍のラズワルド准将だ! 援軍を率いて駆けつけた。指揮官は誰か!」
エバーの召集で集まりつつあった小隊、撤退を始めていた輜重部隊、その馬車の上や町の北側へと駆けだしていた町民たちが動きを止める。一拍の沈黙。そして、喝采が上がる。
「オォォォッ」
「助かった!」
「これでイースウェア軍なんか怖くない」
口々に叫ぶ人々を見回し、ローズも安堵の息を吐く。
歩哨にあたっていた竜騎兵が降下したことに気がつき、軍旗をあげていない集団が誤解を招いた危険に気づき、同士討ちを避けるために迎撃準備が整う前に駆けつけたのだ。
「……助かったぁぁぁ」
一番頼りになる上官の登場に緊張の糸が切れたエバーがペタリと座り込む。
「指揮官! 状況を報告しろ!!」
喝采に負けないよう声を張ってローズが叫ぶが、当の指揮官エバーは腰が立たず動けない。何か応じるべきなのだろうが、腰が抜けて座り込んでいる姿を見せるわけにもいかない。剣を外して杖代わりにしようと考えたとこで、周りに駆けつけていた兵士たちが左右に割れてエバーの姿が見えるようにしてしまった。
「エば……コホン、ゴールド少尉状況を報告しなさい」
まさかエバーが指揮しているとは思わなかったのでローズも思わず普段の呼び方で呼びかけてしまったのを咳払いでごまかしてから言い直す。
何とか立ち上がったエバーが、クレプスケールの南塔陥落、ユルレモント城の占拠、街道沿いの要所五つの街を防衛線に定めたことなどを報告していく。
「五つの街を防衛線にして分散配備? ドーバートン少佐とティリアン大佐が同意したのか?」
などとエバーに問い質したところで上官たち間でどんなやりとりがあったのかなど本来ならわかるはずはないのだが、とても二人が認めたとは思えない作戦に問わずにはいられなかった。そして、一つだけ答えられる確かなことをエバーが答える。
「ティリアン大佐は敵襲の前日に過労で倒れられたとのことです」
「……なるほど、それでこんな展開の仕方をしているのか」
事情を聞いたローズは思わず額に手を当て嘆息する。おそらく、ドーバートン少佐は前面の敵に対するので手いっぱいで全体的な指揮でサングリエ将軍の補佐をするまで手が回らなかったのだろう、とあたりをつける。
「……こんなですか?」
「ああ、通常なら悪くない作戦だが今はマズい」
他の部下たちには聞かれないように騎馬を寄せながらエバーに囁く。
「なんでですか?」
被害の拡大を抑えるための防衛線の設定と部隊の展開をなぜローズが愚策のように言うのか、エバーにはわからなかった。
「兵法の基本を思い返してみろ」
「えーっと……」
兵法の基本と言われてもいくつかある。
まず、兵は拙速を貴ぶ。これはすでに後手をとっている以上どうしようのない。その中でできるだけ速やかに動いているのだから問題ないようにも思える。
次に思いつくのは如何にして主導権を握るか。だが、これも悪くないように思えた。奇襲を受け、先手を取られてしまった以上、いったん仕切り直して体勢を整え、援軍が来るのを待って攻めに転じる。エバーには手堅いように思えたが、
「戦力分散は厳禁だ」
「あっ」
「平地の戦いは数で決まる。地の利があるとはいえ平地同然の地形に敵兵五千に対し、二千五百の兵を派遣しても意味がない。しかも、五百ずつに分散配置など……敵襲を受けたらひとたまりもない。まして、半数以上が輜重兵で、市民の撤退までやっているのでは襲ってくれといっているようなものだ」
他にもいくつも問題はあるが、ここを踏まえていればこの危険は冒さなかったはずだ。
「でも……だったらどうしたら」
「それはこれから実演する。まずは分散した部隊を集める。反撃開始だ」




