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「ではお尋ねします、星光の使徒よ。あなたはここに何をなさりに来たのでしょうか」
「決まってるわ。───タジ」
「ん? やるか? 窓の風、解くか?」
「その子を解放したらお願い」
「分かった。じゃ頼む」
言って、タジが腕に抱えたままだった光球をシフィに渡した。
「待たせてしまってごめんなさい。すぐに飛べるようになるからね」
渡されたそれをシフィは慈しむように撫で、目を閉じて額に球を押し当てる。
しばらくそうしていたかと思うと、おもむろに球を空中に投げ上げる。
精霊を封じ込めたままの球は、床に落ちることなく宙にぴたりと制止した。
「まさか……」
これからシフィがしようとしていることを察し、ウラトはゆっくりと首を横に振る。
本来なら物質を透過する精霊を閉じこめておけるのは、水晶球の表面に細かく彫った紋様の効力だ。
森林の伐採や自然発火でない山火事などで傷つき、消滅しかねないほどに弱った精霊を保護し休ませるために外界と遮断することが目的の術式だが、悪用すれば精霊を閉じ込めることが可能だ。
こういった品は高値で売りさばかれている。視認すらできなくとも欲しがる物好きも多いという。
「ありえない! 紋様は結んだんだ!」
結ぶとは、紋様を完全な封印にする、ということ。
保護の目的で使用する紋様の場合、休息し、力を取り戻した精霊が自ら出て行けるように紋様は未完成なままになっている。
保護の業務についている能力者ですら紋様の結び方は知らないのだ。
ウラトも、一度だけ見たことがあった紋様を研究・解析し、独自の理論を打ちたて、長年かけて編み出した結び方だった。
「割らずに……水晶を割らずに解放しようというのか!?」
それは、ウラト本人にすら不可能なことだ。
できるはずがない。そのはずなのに。
「術を……解除しようというのですか。割るのではなく!?」
「割ると、中の精霊に掛かる負担が半端じゃねぇからな」
「けれど……まさか」
「俺だったら割るしかない。細かいことは苦手なんでな。けどシフィには出来る。だから来たんだよ」
「どうやって……?」
「あ? シフィ、解除ってどうやんだ?」
「……」
「シーフィー」
「……集中させようとかって気遣いはないのね」
「だって、こいつが分かんねぇって言うんだよ」
クイッと親指で示されたウラトは、咄嗟に弁解しようとし、しかし気になることは事実なのでシフィの呆れたような冷たい視線を受け止めることにする。
おずおずとではあるものの続きを促すような表情に、シフィは浅くため息をついた。
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