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星を待つ月  作者: とうか
一章 
6/31


「何でしょう……」


 初めて見る現象に思わず腰を浮かせかけたウラトを目だけで制し、唇を笑みの形に緩めたタジが答えを与える。


「来たんだよ、俺より足の遅いお仲間が、な」


「っ!? 星光の……」


 再度腰を浮かせかけたウラトが目を向けたのは、先刻タジによって蹴り破られた窓。

 今はガラスの代わりに風が空気を止めて暖気の流出を防いでくれている場所。

 再びそれを破ってくるのではないかと凝視したウラトを見たタジは大笑いした。


「ははははははっっ!! シフィがンなとこから来るわけねぇだろが! あの面倒くさがりが、無駄なパフォーマンスなんざしねぇって!」


「つまりその破れた窓は、あなたの無駄なパフォーマンスの産物なのね?」


 その声の主は、ごく普通に扉を開けてやって来た。

 頭からすっぽりと防寒具に身を包んでいるが、雪に濡れた様子はない。


「よ、シフィ。遅かったな。やっぱり雪をよけながら来たのか」


「生憎タジみたいに鈍感にできてないのよ」


「…………」


 タジは、面倒なことするなー、と軽く笑って言っているが、それを聞いていたウラトは驚愕した。

 雪をよけたと言うことは、風の力で作った膜に包まれて移動してきたか、吹き付ける雪に宿る精霊に請うて避けてもらうか、いずれかだろう。

 どこからそうして来たのか分からないが、それは並大抵のことではない。

 この吹雪だ。精霊の力も満ちている。

 それに反する行為など、熟練の能力者でも視界の確保がせいぜいではないだろうか。

 現に自分も、視界と体温の確保だけを何とかするのが精一杯だった。まだ明るく、雪の勢いも弱いうちのことであったのに、だ。


「これほどの力を……手に入れた、と?」


「あ、馬鹿っ……」


 ぽつりと洩れ出たウラトの言葉に、タジが少し慌てた様子で待ったを掛けるが、既にシフィの耳にはしっかりと届いていて、少しばかり険のある声が掛けられる。


「何を話したのよ、タジ」


「いや、シフィの武勇伝を少しな。……悪かった」


「……別に、構わないけど。じゃあこの人は、タジや私が使徒だって知っているのね?」


 それなら隠す必要はない、と。

 目深く被っていたフードを取り払い、防寒着を脱ぎ捨てる。

 体にぴったりとした黒の上下、その上からさらに白の貫頭衣。腰を絞る帯だけが装飾性を感じさせる、いたって簡素な装いだ。

 しかし、その目、その髪。

 人間がこれほどまでに華やかな色彩を有せるのかと疑いたくなるほど、どんな宝石よりも華美だった。

 何より、肢体も、肌も、腰にまでまっすぐ流れる髪も、どこか怜悧な印象に並んだ顔立ちも。タジの言葉を借りるなら「でたらめに美人」だ。


「私は、星光の使徒ラヴィン・シフィ。あなたの名前を伺っても?」


「……ウラト・タイネと申します」


「ウラト? ウラト・タイネ……。ああ、ここ十年くらい査定に来ない要注意人物に名前が挙がってたわね、たしか」


 能力者には、年に一度の査定が義務付けられている。

 国への登録と並ぶ、能力者の二大義務だ。

 査定の場にはその人物がどのような力の使い方をしているか、大まかにではあるものの読み取ることのできる能力者がいるため、犯罪に関与する者は寄り付かなくなる。

 そのことから、査定に来ないだけで要注意人物として捕縛の対象とすらなるのである。


「十年もよく逃げたわね。不毛だけど、大したものだわ」


「陽光の使徒は、名を聞いても気が付かれませんでしたが」


 揶揄するつもりはなく口にした言葉だが、シフィが返したものは無言での微笑み。

 それは、むしろどこか誇っているようで。


「……なるほど」


 その笑みを見て、気付く。

 陽光は、事柄を明らかにするもの。

 己の目で見て知ることが、陽光の使徒のあるべき姿。

 たしかに自分は、前情報など一つも得ていないままのタジに捕らわれたのだ。

 それを踏まえれば、タジがこぼしていた「身体の方が賢い」というシフィの言葉も、信頼に裏打ちされているものなのではないかと思える。




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