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シュルエナ大陸について語るとするなら、まず挙げられるのが貴色の不思議についてだろうか。
コトランゼは赤、ルオーニは黒、サイニャは金。
王家直系の者の髪と瞳には、必ずその色が現れる。
降嫁した者、傍流の者の子孫には、血の濃い薄いに関係なく現れないため、尊ばれ、貴色と呼ばれるようになった。
それゆえ、コトランゼは赤の国、ルオーニは黒の国、サイニャは金の国と称される。
貴色は王家直系を示すもの。けれど、各国に一人ずつ例外がいる。
それは『使徒』という、師と弟子という形で色を受け継がせていく存在。
吟遊詩人は、シュルエナ大陸を『光の奇跡に溺れる大陸』と謳う。
奇跡とは、精霊の恩寵。
精霊とは、世界を構成する自然に宿る、形なき精神体の総称。
人間とは存在を異にし、交わることは決してないはずの彼らだが、シュルエナには精霊と触れ合う力を持つ者が多く生まれるのだ。
他国に生まれることも皆無ではないが、その割合や力の強さは歴然としていた。
精霊と触れ合い心を交わし、火を水を風を大地を───個人の得手不得手や力の差はもちろん存在するが───自然を意のままに動かす奇跡を有する者たちは、俗に『能力者』と呼ばれる。
突風を吹かせる者もいれば、空中から水を作り出す者もいる。
自然現象にまつわる現象を起こす者もいれば、一見そうは見えないものもある。
一つのことしか出来ない者もいれば、多くの種類の力を使う者もいる。
そんな『能力者』の頂点に立つ存在が『使徒』だ。誰よりも深く誰よりも厚い精霊の愛情を受けるその身の尊さから、『光の子』と呼ばれることもある。
光とは、太陽。月。星。
赤の髪と眼を持つ陽光の使徒。コトランゼに生まれる。
黒の髪と眼を持つ月光の使徒。ルオーニに生まれる。
金の髪と眼を持つ星光の使徒。サイニャに生まれる。
全ての精霊と心を交わし、全ての精霊を力とする奇跡。
精霊に選ばれた存在なのだと人は言い、精霊が地上に遣わせた存在なのだと人は言う。
そんな彼らに与えられる色と王家に伝わる色が同じだということは、三王家に精霊の加護がある証拠だと考えられている。
精霊に愛される力を持つ者が多く生まれ、精霊の加護を享ける王家が治める三国の母体、シュルエナ大陸。
今日もどこかで、吟遊詩人が歌い謳うことだろう。
シュルエナ大陸。
それは、『光の奇跡に溺れる大陸』だ、と。
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