其の弐・今は亡き少女の語りごと
やっとやる気になって下さったんですね、聖さん。嬉しいです。ええと……一度説明をして欲しいんでしたっけ。はい、じゃあ生前の私について説明させてもらいますね。
私は、生きているころはチハルと呼ばれてました。といってもずっと昔なんですけどね。え?ちゃんと説明を、ですか。ええと、明治時代あたりだと考えて下さい。亡くなった後、世の中がどう変わっていったのかよく分からないので、説明もしにくいんですが……あ、はい、なるべく頑張ります。
私は18歳で亡くなりました。季節は春です。桜が咲く少し前、ですね。もともと体が弱くて、生まれた頃からお医者様に『今年が山場』って言われ続けてたんですけど、母や父が一生懸命御参りや祈願をしてくれたおかげで18歳の春まで生きることが出来たんです。え、藪医者ですか。でも長く生きていられたのは感謝していますよ。
私はずっと長屋の和室で過ごしてきたんですが、15歳を過ぎた頃には歩き回れるくらい回復しました。もしかしたら完治するかも、なんて皆思ってたんです。私もそのうちの一人でしたよ。
あの頃、家の外に出ることが許されて……。私、初めて外の風景を見て、とても感動しました。四季の風景なんて窓の中からしか見たことがなかったから。
夏の若葉の色、秋の夕焼けに染まる紅葉、冬の冷たくて澄んだ空気、そして春のあの桜……。春は特に好きでした。隣の空き家に桜の老木があって、それを見に行くのが楽しみだったんです。蕾が膨らむのを毎日毎日飽きもせずに眺めて、満開になったときは声をあげて喜びました。わーい、わーいって。驚いた父と母が駆けつけるくらいでしたよ。ふふっ。あの時は楽しかったなぁ。
でもお話の終わりはなんとなくわかりますよね?……そうです。病が再発して、次の春を迎えることが出来ないまま……。ありがちですか?そうかもしれませんね……。自分の好きな季節に死ねる人なんて、本当に運のいい人だけですし。
……はい?あ、要点を言わなければ解決してもらえませんよね。たしかに。すみません。
聖さんの言葉を借りると、今の『私』は外に出られることが出来たころの『思念』です。それが何かの拍子に具現化してしまったようで……。
私は桜の季節に死ぬことが出来ませんでした。病気が再発したときは死の覚悟をしていたんです。でも一つだけ心残りがありました。それはあの桜の老木です。……あの老木が今年も咲いてくれるのか、凄く不安だったんです。手入れは誰もしていなかったようなので。あの桜が咲くところを見ることができれば、私の心残り何もありません。
……簡単、ですか?わぁ、それなら安心してお任せできそうです。聖さんを選んで良かったですよ。実は聖さんみたいな……ええと、『超マイナス人間』でしたっけ?……そうゆう感じの人が他にも何人かいて、どの人にしようか困ったんです。一人はちょっと近づきがたい美人で、もう一人は格好良い男の人で……なんだか平々凡々の私には近づきがたいので、聖さんに決めたんです。え、いえ、決して地味そうとかそうゆう基準で決めたわけじゃないです。まさかとても派手好きな方だとは思っていなかったので……。
え?明日から探していただけるんですか。嬉しいです、ありがとうございます。え?……今日はダイガクのニュウガクシリョウを揃えなければいけない?なんだか大変ですね、最近の女性って。
それじゃあ、私も手掛かりになるようなことを思い出してみようと思います。……明日、頑張りましょうね。




