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其の弐・残された想い


 世の中の人間には『プラス』と『マイナス』がある。何がプラスで何がマイナスなのかは分からない。それは霊能力と呼ばれるものかもしれないし、オーラとか思念と呼ばれるものかもしれない。それともそれは魂から浮かび上がる生気かもしれない。

 だが世の中の人間は全て『プラス』と『マイナス』に分けられるのは確かだ。それは聖の弁である。


「今年ももうすぐ見納めかぁ……」


 例えば桜の老木の幹に座る少女は『プラス』の人間である。平凡な顔に平凡なプロポーション、平凡な口調……。全て平凡という一言で言い表すことの出来そうな彼女だが、実はプラスの人間の中でも珍しいとされる『超プラス』人間である。


「……ちょっと寂しいね」


 月明かりが照らす桜の花を見つめる少女。その体を白っぽい光がまるで膜のように覆っている。


「実はね、遠くの大学に決まっちゃって……来月から寮に入るんだ」


 世の中の人間は少なからず『ミスト』を持っている。大小の違いはあるが、それは誰もが必ず持っているもの。それは人間の感情によって膨れ上がり、時に脱皮のようにミストのみが残される場合もある。

 ある瞬間の、残された悲しみや苦しみの感情を『ミスト』と呼ぶ。それは加南子の弁である。


「……でもまた来年のこの時期には見に来るよ」


 少女の言葉に悲しむように、桜の木が揺れる。揺れるたびに花びらがハラハラと舞い落ちて、根元は桜色の絨毯に変わっていった。

 上の方にあるしっかりした枝の上に、二つの目玉が浮かんでいる。少女には見えていないが、目玉はじっと少女を見つめていた。まるで親しい友人との別れを惜しむように。


「……」


 世の中の人間の中には一瞬の感情を『スピリット』として残してしまう者がいる。それは生霊という言葉に近いかもしれない。しかし普通ならば感情は目に見えないし、形にもならない。それが他の、憎しみや悲しみという辛く苦しい別な感情と交じり合うと、時折それが具現化することがある。

 『スピリット』は強い思念を持った感情であり、それはおそらく幽霊の正体と言えるかもしれない。それは芽衣の弁である。


「……来年も綺麗に咲くといいね」


 少女は立ち上がると、花吹雪を背にして歩き出す。桜の老木はその背中をじっと見つめていた。

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