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其の壱・麗しき少女の憂鬱



「……」


 ある春の夜の深夜過ぎ。少女はハンドバックを片手に家の門を開けた。

 赤く染めた長髪に整った顔立ち。睫毛は長く、濃い化粧をしていないにも関わらず、唇は赤い。立っているだけでも絵になるような麗しい美女。

 美しい顔立ちをした少女は、目の前に現れた旧家の日本庭園を歩きながら、大きくため息をついた。何処の家も寝静まったこの時間帯に、居間の電気だけが細々と灯っている。それを見た瞬間、忘れていた苛立ちが燃えカスに火をつけるように少女の心に蘇ってきた。

 赤っぽい髪をかきあげて、三笠みかさ 芽衣めいは玄関を開けた。すると待っていたかのように居間から見慣れた姿が現れる。


「あ……おかえりなさい。芽衣さん」

「……ただいま」


 芽衣はぶっきらぼうにそう呟いて、ブーツを脱いだ。

 居間から現れたのはパーマっけのある髪を後ろで纏めた40ほどの女だった。芽衣と比べると美人ではないが、内気そうな顔つきで日本女性らしい淑やかな雰囲気を持っている。

 彼女はさっさと自室へ戻ろうとする芽衣の背中に、慌てて声をかけた。


「芽衣さん。その……夕食は……」


 おそらく寝てしまった家族に気を使っているのだろう。小声で呟く彼女に芽衣は苛立った表情で振り返る。


「……食べてきた」

「そ、そうですか。……あの、でもなるべく夕食に出しなさいって、お父様が……」

「……」


 女の言葉を無視して芽衣は階段を上がっていく。おそらく後ろでは困った表情を浮かべているだろう。しかし芽衣は振り返ろうとはしなかった。

 階段に足をかけるたびに、闇はどんどん深まっていく。芽衣の心もまた苛立ちと共に闇の中に沈みこんでいくようだった。

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