其の四・遠くて近い運命の糸
世の中には『プラス』の人間と『マイナス』の人間がいる。しかし『プラス』と呼ばれる者は殆ど存在しないと言ってもいい。人間の殆どは『マイナス』に属している。では、その違いは何なのか。
それはまずチハルを例にとって説明しよう。
『そういえば……さっきどうしてあの女の子、何もないところで転んだんですかね?』
聖は先ほどの家から少し離れたファーストフードの店にいた。注文したセットのおまけの玩具を確認しながら、チハルが聖の口を借りて呟く。
『痛そうな転び方でしたよね……』
チハルは生前、『超プラス』の人間だった。
人間は喜び、悲しみ、怒り等、様々な感情を発する際に特殊なエネルギーを発する。そのエネルギーをここでは『思念の力』と呼ぶことにしよう。
『プラス』の人間はその『思念の力』を常に体の周りに纏っているが、思念は感情の起伏によって膨張する。普通プラスの人間は感情の起伏と共に多少思念の膨張が見られるが、超プラス人間になると膨れ上がった思念が身体から抜け出ることがある。しかもプラスに属する人間はそれをコントロールすることが出来ない。
この『肉体から離れた思念』はそのままでは害を成さないが、他の思念と接触することで時折具現化し、害を成すという現象が起こる。聖はそれこそが超常現象や怪談の類の正体ではないかと思っている。
「……少々小細工をして転ばせました」
一方、聖はこれとは真逆の『超マイナス』の人間である。人間にはマイナスの力を持つ者がほとんどであるが、通常マイナスの人間はプラス人間や超プラス人間のように感情の起伏によって思念を膨張させることが全くない。しかしそれを超越した『超マイナス』の人間は少々勝手が違う。
『えっ、どうやったんですか?』
「……まあ、超能力みたいなものです」
藍原聖、西邑加南子、三笠芽衣は三人とも『超マイナス』人間に属している。彼女達は共に特殊な能力を持つが、それは超マイナスという性質ゆえのものだ。彼女達は通常のマイナスの人間には見えない『思念』を読み取ることが出来、また自分の『思念』をコントロールすることが出来る。
聖はフライドポテトをつまみながら言う。
「『思念』であの中学生の足を縛った……と言っても分からないでしょうね。つまりは片足だけ動かないようにしたので、自然とバランスを崩したんです」
『……なんだか凄いですね』
店の入り口近くで自問自答を続ける聖。彼女の力は『縛る力』。己の思念をコントロールして、形あるもののみならず、他の『思念』も縛り付けることが出来る。
聖は無表情に外の景色を見つめる。
「貴女と出会った時も、害のありそうなものならその場で縛り付けるつもりでしたよ」
『そ、そうなんですか……』
このとき、奇しくも聖のいる場所の反対側、店の奥の壁際の席にはげっそりした顔で新しく注文したコーヒーをすする芽衣の姿があった。口をつけたハンバーガーを投げ出し、真っ青な表情を浮かべている。まるで地獄を見たかのような顔だ。
芽衣はため息をついてコーヒーを飲み干した。
「サイアク……変なのまで引き寄せた……」
芽衣の力は『思念を読み取り、送りつける力』。超能力に分類するのならサイコメトリーとテレパシーに近い。しかし一つだけ欠点を言うならば、芽衣の力は少々不安定で、受け取りたくない思念を呼び寄せてしまったりすることがよくあるのだ。
芽衣は呻くように呟く。
「……でも、たっくんが何か変なのに関わってるのは分かったし……探さないと」
大きく深呼吸をして、芽衣は立ち上がった。残したコーヒーとハンバーガーを片付けると、上着を手にとって店を出る。
丁度芽衣が店を出ようとしたその時、向こうから一人の人間が店に入ってきた。芽衣より少し身長が高く、スラッとした姿をしている。ジャケットにジーパンという服装がとてもよく似合う。男だろうと、芽衣の無意識がそう察知したがそうではない。
店に入ってきたのは加南子だ。
「……」
加南子は店の中を見回した。席は空いていて、どの席にも座れそうな感じがする。加南子はとりあえず店のカウンターでコーヒーを注文すると、一人用の席に腰を下ろした。店内の丁度中央だ。
「……明日、か……」
加南子はポケットから携帯を取り出すと、そこに刻まれた日付を見つめながら呟いた。




