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雲ノ海  作者: 鏡 祐介
7/8

ACT・6

今回はやたら説明が多い…

 ACT・6



 まず、神の奇跡について説明しよう。

 奇跡とは人間の常識や現代科学では到底起こり得ない現象のことを指す。

 神とは人間とはかけ離れた超人的な存在。

 なので、人間には不可能なことも神にとっては容易い。

 しかし、神の奇跡とはいえ、あらゆる不可能を可能にすることは不可能だ。

 生命を生み出すことは可能だ。

 元々存在する有から生を生み出すからだ。

 だが、無から生を生み出すことは不可能。

 水があれば氷を作ることはいくらでもできるが、空気中に水が完全に無ければ氷など生み出せない。

 それでも、通常の空気中から瞬時に氷を生み出せる点で言えば奇跡と呼ぶことはできるだろう。

 いくら神とはいえすべての物事や作業をやるには1人では効率が悪い。

 それらの手伝い、補佐などを行うのが神の使い、通称「天使」なのだ。

 作業効率を上げるために天使とはいえ、神に近い力を与えられている。

 神が作り出した天使に自分の力を貸す、言葉にすると理解できる内容だ。

 いくら天使が神の奇跡を与えられているとしても、限界はある。

 生命を操作できる奇跡は与えられていない。

 せいぜい身体能力の向上、小規模な空気・火・土・水と言った四大元素のコントロールくらいなものだ。

 天使は生まれながらにしてこの奇跡を実現することは可能だが、人間は不可能だ。

 人間とはあくまでも人と人の間に生まれた存在。

 だが、現在は無作為に天使を生み出すことが禁止されている。

 そのために人間を天使の代わりとして役職を与える。

 天使の役職に就くと、天使同等の仕事の任を与えられる。

 さらに制限付きとはいえ、天使同等の神の奇跡を使用できる白い手袋が与えられる。

 しかし、誰もが役職に就けるわけではない。

 最低条件がある。


 1:自分勝手な振る舞いを起こさない者。

 2:過去に殺人を犯したことがない者。

 3:文字の読み書きと内容の理解が出来ること。

 4:既に死亡しており、死後の世界に居る者。

 5:役職に就くと最低200年は転生不可を了承できること。

 他、年齢性別不問成り。


 特例とし、神が選定した「期間限定補佐官」又は「期間限定神様代理人」は上記の条件を不問とし、存命に関わらず人選は神様に一任する。

 追記:期間限定補佐官、期間限定神様代理人は通称「神様のアルバイト」とする。




 *早間 庄(はやましょう)


 目の前で何が起こっているのか理解ができない。

 今日はありえないことが起こる。

 塩水のような雨が降り、いきなり窓や玄関が開かなくなり、誰もいないはずなのに声が聞こえたりする。

 殺されると思ったときに先ほど追い出した女がなんとかしてくれると言った。

 最初見たときは手袋など付けていなかったが、今は白い手袋がはめられている。

 先ほどその手を声がする方向に向けると、壁が歪んだように見えた。

 いや、良く見ると壁ではなく、空気が歪んでいる。

 ふすま1枚くらいの大きさで歪んでいるように見える。

「ちょっと苦しいかもしれないですが、すぐ終わりますので」

 苦しい?

 声の相手に言ったのだろうかと思ったが、庄に対して向けられた言葉だとすぐに分かった。

 先ほどから空気が若干薄いのだ。

 まるで標高が高い山に登った時みたいに空気が薄い。

 先ほどまで聞こえていた声がいつのまにか聞こえなくなり、代わりに何かを叩くような音が聞こえる。

 誰かが壁を叩くような音だ。

 音は目の前、歪んだ空気から聞こえていた。

「しつこいなぁ…」

 鈴木 美里(すずきみさと)がぼやくが、音は一向に鳴り止む気配はない。


 1分…3分ほど経っただろうか、やがて音はしなくなり雨の音だけが聞こえてくる。

 異常が無くなったと判断したのだろう、美里は突き出した手を下ろす。

 すると目の前にできていた空気のゆがみが徐々に無くなり、やがていつも通りに戻っていく。

 それに合わせて空気が薄いと感じていた現象も次第に感じなくなってきた。

 美里は白い手袋を脱ぎ、スカートのポケットに入れながら

「なんとかしましたので、約束ですよ」

 言葉をかけられた庄はただただ唖然とするしかなかった。

「あー…礼は言う

 約束はまぁ、仕方が無いので守る

 だが、何があったのか説明してくれないか…えーと」

鈴木 美里(すずきみさと)です。

 とりあえず居間に戻りませんか?」

「あ…あぁ…そうだな」


 --------------------------------------


 居間に戻ると時計の針は20時半過ぎを指していた。

 秒針も問題無く動いてる。

 窓からは雨が激しく窓を叩いている音がする。

 なんらおかしなところは無い。

 先ほどまでが嘘だったかのようだ。

 庄は窓の鍵を閉め、カーテンを閉めながら美里に質問をする。

鈴木 美里(すずきみさと)…だっけ?

 さっきのが何か説明してくれないか?」

 美里は座布団の上に座りながら質問に答える。

「先ほどの謎の声についてはこちらでも判明していることはありません

 ただ、今回の雨について関係があることだけはわかっています」

 神様とやらに話を聞いていた割に何も知らない。

 意外な答えだ。

 神様と言えば全知全能とかすべてを見通すとか言う。

 会った時に神様と言っていたのを思い出し

「えーと神様…だっけ?」

「えぇ、神さまです

 私は神さまの元で代行を務めています」

 神様ならば、全部自分で何とかしやがれ、とも思うだろう。

 当然庄も同じ答えに行きつく。

「神様ならさ、自分で全部なんとかすれば?」

 その問いに美里はため息をつきながら

「…私もそう思います

 ですが、今回の事件の調査のために手が足りないとのことで私がここに来ました」

「なんであんたが来たのさ?」

「元々神さまや天使と言われる方々は肉体を持ちません

 私は生きている身でバイトとして選ばれたので肉体を持ちます

 肉体を持っている方が何かと楽だった…んじゃないかな…」

 そう言う美里の手が少し震えていた。

「だからあんたが俺のところに来たのか?

 そもそもなんで俺なんだよ?

 てか、さっき空気が歪んだようにも見えたけど何だよ

 さっき殺されかけた気もするけどなんで殺されないといけないんだよ」

 美里の手はいまだに震えている。

 恐怖による震え…ではない

 美里はいきなりちゃぶ台を叩くと

「あーあーあー!

 私だって好きでここに来たんじゃないんですよ!

 仕事なんですよ!

 お金もらっている以上仕事なんですよ!

 全部説明するから少し黙ってくれませんか!?」

 いきなり庄に対して美里は怒鳴りつける。

 どうやら今回の件についてはしぶしぶ了承した形のようだ。

 未だに美里はぐちぐちと「こっちだって時給629円でこんなのしたくないわよ」と呟いてる。

 その様子に庄は驚いたが

「あーすまない…

 とりあえず順を追って説明してくれないか…」

 美里は「あの酒好きで女好きのぐーたら神め…」とかなんとかぶつぶつ言っていたが、庄の問いに気がつくと

「あ、はい

 ではこれを」

 そう言って手提げ鞄から1枚の写真を取り出し、庄に差し出す。

 写真には6、7歳くらいの男の子がランドセルを背負っている姿が写っていた。

「この子供がどうしたんだ…?」

「今回の調査対象です

 今回の雨が塩水と化した事件の重要参考人として挙がっています

 最悪の場合は殺してもかまわないとのことですが」

 どうみても普通の少年にしか見えない。

 雨が塩水などと言うありえない現象を起こせるとは到底思えないが…

「そして、先ほどの声については先ほども言いました通り、未だに調査が不十分なためはっきりとはわかっていません

 ただ、生贄によってなんらかの力を得ることができる存在としては認識してます」

「生贄って人を殺して願いをかなえるとかそういうやつか?」

「えぇ、その生贄です

 なぜ生贄なのか、雨と少年の関連は未だにわかっていません」

「人を殺して願いがかなうわけねぇじゃん」

 この現代社会、生贄などと言うナンセンスな儀式が未だに存在してるとは考えにくいが、一部の古い宗教の民族間では行われている。

「それと、この雨については日本、関東地方のみで起こっている現象です

 原因のほうは不明ですが…」

 そういえば、ニュースで雨が降るはずがなかったのになぜ雨が降っているのか謎ということを、言っていたと庄は思い出す。

「いきなりのありえない雨らしいけど

 …まってくれよ、なんで塩水なんだ?

 俺以外は普通の雨として感じているみたいだが」

「塩水…らしいですね

 元は海水の水らしいです

 ですが、早間さん以外の人は普通の雨として感じるでしょう

 早間さんがおかしいわけではありません

 私たちがおかしいのです」

「は?海水?どういうことだ?」

「海水と言うことはまだ断定的にしかわかっていません

 そして、今回の雨は一部の人間を除き感じることができません

 一部の人以外は雨は『塩水ではないことがあたりまえ』と認知しています

 一部の人、雨を塩水と感じられる人は、異変を感じる、理解するという方々です

 我々はその方々を理解者(スキニング)と呼んでいます」

「つまり俺は理解することができるが、他の人は理解することができない人ということか」

「簡単にいえばそうです

 ですが、機械は物事を理解することに長けていますので今回の雨を塩水と認識してしまうみたいですが」

 機械は正直だ。

 出された物に対して回答を瞬時に用意する。

 機械には人とは違い、ありえないと認知することはできない。

 雨が塩水とはありえない、水だ。

 と認識する人間とは違い、機械はそのまま塩水と判別する。

「だけど、TVじゃ塩水とか言ってないぞ?」

「恐らく機械の誤作動や故障と思われているのでしょう」

 いくらなんでも雨が塩水などありえない。

 仮に機械が判別しても、故障に決まっている。

 塩水と感じる人が1人いても、真水と答える人が99人いれば真水が正しい答えになる。

「それで参考人としてこの子供ってわけか

 でもさ、神様ならパッとこの子供を見つけられるんじゃないのか?」

「無理です

 いくら神さまとはいえ、日本全員の顔と名前など把握しきれません」

 一応記録表は存在する。

 名前と住所が明記されている記録表が。

 しかし、いくら住所や名前が分かったところで顔などわかりもしない。

「まぁ、とりあえず未だにわからないことだらけってことはわかった

 しかしなぜ俺なんだ?

 理解者(スキニング)だからか?」

 先ほどの美里の話の内容から察するに、どうやら理解者(スキニング)は庄だけではなさそうだ。

 そうなると他にも理解者(スキニング)という存在はいるはず。

「早間さんは民謡をご存知ですよね?」

「それがどうした?」

 民謡は大好きだ。

 このことを友達に言うと変な顔をされる。

「民謡と生贄の関連性はご存知ですか?」

 普通の人ならばさっぱりわからないだろう。

 しかし、庄は普通の人とは違っていた。

「あぁ、しっている『かごめかごめ』とか有名だな」

 即答。

 流石に民謡好きは違うな、と美里は思い

「しかし『かごめかごめ』とかは未だに謎は多いし、民謡と生贄の関連がはっきり証明されてはいないぞ?」

「そうかもしれません

 ですが、今回の事件は関連性がはっきりしていることが分かっています

 その上で、理解者(スキニング)でなおかつ民謡にお詳しい方が早間さんだけしかいなかったようです」

 理解者(スキニング)だけなら何人かいるだろう。

 民謡に詳しいとなると話は別だ。

 せいぜいお年寄りか民謡を研究している人しか知らないだろう。

「あーそれで俺…か…

 まぁ、引き受けちまったもんは仕方がない

 やるだけのことはやるさ」

 意外とすんなりと納得して引き受けてくれたことに美里は驚くが、

「了承して頂けて助かります」

 そう言いながら軽く頭を下げる。

「それはそうとさっきの空間が歪んだように見えたが、あれはなんだ?」

 先ほどからの一番の疑問を美里に聞いてみるが

「神の奇跡です」

 軽く威張りながらさらりと、あたりまえのように答える。

「いやいや、神の奇跡とか…なんだそれ」

「正確には神の奇跡を制限付きで使用できる手袋のおかげです」

 そう言いながらスカートのポケットから先ほどの白い手袋を取り出す。

「この手袋をつけると、小規模ですが身体能力の向上、空気・火・土・水と言った四大元素のコントロールが行えます

 ただし、使用できる能力は1度につき1つまでですが」

「ん…?火を使出しながら水は出せないってことか?」

「理解が早くて助かります

 先ほどのは見えない相手に対して付近の空気を圧縮して壁を作りだしました」

「すげぇな…」

 信じられないことだらけだ。

 だが、不思議な現象を目の前で体験したので信じられずにはいられない。

 人に聞いた話ではなく、実体験なのだ。

 これ以上に信頼性があるのはないだろう。

「んでまぁ、仕事を手伝うなら最初に言っていた報酬はあるんだろうな?」

「手伝いを了承していただけたので差し上げます」

 庄は嬉しそうにしたが、子供の映っている写真が目に入ると

「でもよ、殺人って…やっぱさ…」

 庄はまだ高校生だ。

 将来もある。

 それ以上に人として殺人はどうだろうか。

「最悪の場合、です

 仮に殺人を起こしても証拠はなんとでもなりますし、死んでもあちらの世界では提唱に保護するとのことです

 私も子供を殺すなどと言うことはしたくありません

 できるかぎり回避はしたいのですが…」

「最初に殺しを手伝えって言っていたじゃんか」

「最初にそう言っておきませんといきなり拒否されるとこちらも困りますので…」

「所詮は悲しいお役所仕事ですか」

 そう言われた美里は深いため息をつく。

「とりあえずこの子供のことを調べる、ってことでいいんだな?」

 そう言われた美里はハッとして顔を上げ

「あ、はい…よろしくお願いします早間さん

 では行きましょうか」

 いきなり美里は立ち上がり、今にも出かけそうな様子だったが

「ちょい待て待て

 とりあえず最初どこにいくんだ?」

「あ、すみません

 こちらですでにこの異変の力を受けた人物がわかっていますので、その方に話を聞きに行きましょう」

「誰だそいつは?」

「隣町の須崎 理恵(すざき りえ)ちゃんです」




 夜と言う暗闇の中、雨だけは未だに衰えを知らず降り注ぐ。

今回は説明文ばっかでスイマセン

ちなみに作中の自給629円はある県で定められている最低賃金です。

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