ACT・5
登場人物が何人かいますけど、一応こいつが主人公です。
ACT・5
*早間 庄宅
「ふざけんな!」
雨の降り注ぐ中、庄宅の居間から大きな怒鳴り声が聞こえた。
通常じゃ手に入るどころか、目にすることも難しい品物の報酬も貰える、眉つばではあるが願い事がかなう。
仕事の手伝いにしては破格すぎる内容だ。
しかし、美味しい仕事には裏がある。
その言葉通り、裏があった。
人を殺すという裏が。
「人を殺せとかなに言ってんだ!」
思わずちゃぶ台を叩き大きな音がする。
大声を上げちゃぶ台を叩くが、庄の視線の先、学生服の女の子鈴木 美里はうろたえずに庄を見つめる。
「いきなり来て神様がどうとか言い出したらこんどは人を殺せだと!
あんた頭がおかしいんじゃねぇのか!?」
「早山さん声が大きいです」
おかしいと言われた美里は苛立つ様子もなく、静かに言葉を返す。
「私はいたって正常です
むしろ早間さんがおかしいと感じていませんか?」
「はぁ?」
いきなり来て神様のバイト発言をし、殺人の手伝いまで言われ、そのうえで貴方がおかしいと言われて納得できる人などいない。
美里は立ち上がり、居間のカーテンを開ける。
雨雲に覆われて暗い外だが、窓に叩きつける雨が未だに雨がやまずに降り注いでいることを証明している。
「おいあんた、俺がおかしいとか何言ってるんだ」
「まだ雨降っていますね」
「おい、話を…」
「雨ってしょっぱいですか?」
しょっぱい…言われてから庄は自分が感じた異変を思い出す。
夕方から降り注ぐ雨は塩っ辛いのだ。
塩水、海水のように。
なのになぜか誰もおかしいとは感じていない。
ただの雨として感じているようだ。
「あんたも塩水のように感じるのか?」
自分以外におかしいと感じている人がいて、自分がおかしくなったわけじゃないと安心したが
「いえ、私には塩水のようには感じません
ただの雨、塩分が無い水のように感じます」
「んじゃなんでしょっぱいとかわかるんだ?」
「神さまから聞いていますから」
また神様
やはりこの女は頭がおかしいのだろう。
神様のバイトをしているとか殺人とか言い出す人がまともな人間のはずがない。
「はぁ…もういいよ
聞かなかったことにしてやるから帰ってくれ」
「まず説明をしますから」
「いいから帰れ!」
庄は玄関の方向を指さし、帰るように怒鳴りつけるが彼女は帰る気配がない。
「これ以上いるなら警察よぶぞ!」
見たところ非力な一般的な女のようで、常識のある子にも見える。
しかし、殺人と言いだした人は常識があるとは思えない。
そんな相手でも警察と言えば簡単な脅しになると思ったのだろう。
だが、警察と言われても帰る様子もなく脅しとしては無意味。
言葉だけでは意味がないと庄は判断し、携帯電話をちらつかせ警察を呼ぼうとする。
美里はこれ以上無駄と判断したのかはわからない。
美里は黙って立ちあがり
「…わかりました
それでは失礼します」
小さくつぶやくと、そのまま玄関に向かう。
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やがて、玄関のドアのしまる音が聞こえ、美里が出て行ったことを確認すると庄は安堵のため息をつきながらそのまま寝ころんだ。
「なんだったんだ…」
居間の時計に目をやると20時過ぎを指していた。
美里が来た時間が20時過ぎ。
時間がほとんど経っていない。
時計の電池切れだと思い、庄は携帯電話を開き時間を確認しようとしたが、電源が切れている。
仕方がないので、TVを点けようとしたがいくらTVリモコンを押しても画面には何も映らない。
TV本体の電源を押してもまったく反応がない。
(なんだよなんだよ
時計は電池切れで携帯も電池切れで、TVは壊れたのかよ)
とりあえずやることがないので再度寝転がる。
なにげに外に目をやる。
その時気がついた。
雨の音がしないのだ。
通常ならば、雨がやんだと思うだろう。
しかし、今もなお雨が激しく窓を叩いている様子が見える。
それでも雨の音が聞こえないのだ。
雨が降っているのは目の前で確認できるので間違いがない。
ただ、庄の家はごく一般的な一戸建てだ。
雨がふっていても音が全くしない、窓にあたっても音がしないなんてことはありえない。
現に20時前までは音が鳴っていなことは覚えている。
嫌な予感がした。
雨が降っているのに雨の音が聞こえない。
携帯電話で誰かに連絡を取ろうと電源ボタンを入れるが、画面には何も映らない。
同じ居間にある電話機から電話をしようとするが、『ツー』と言ういつもの音が聞こえない。
(なんだ…なんなんだ…)
明らかに異変が起きている。
たまらず窓を開けようとするが、開かない。
窓の鍵は外してあるのだが、押さえつけられたようにびくともしない。
『おにーちゃんどうしたの?』
後ろから聞こえた。
まるで、自分だけが答えを知っていて、知らない人を馬鹿にするような言い方で声が聞こえた。
『クスクス、おにーちゃんどうしたの?窓があかないの?』
庄は後ろを振り向くが、だれもいない。
声のみが聞こえる。
『おにーちゃん窓を開けたいの?開けたいんだよね?』
居間を見回すが、やはりだれもいない。
『開けてあげたいんだけど、今の僕には無理なんだ、ごめんね』
庄は声に対して返事をしていない。
ただ、勝手に声だけが聞こえてくる。
『おにーちゃんが力を貸してくれたら………アケラレルヨ』
とてつもなく嫌な予感がした。
開けられる、その言い方が無機質で感情の無い言い方に聞こえたからだ。
慌てて庄は玄関へ向かい、外に出ようとするが玄関の扉が開かない。
カギは間違いなく開けてある。
ノブも回る。
開かないのだ。
押しても引いてもドアは開く様子がない。
「なんなんだよこれ!どうなってるんだよ!」
『ニゲナイデヨおにーちゃん』
廊下から声が聞こえる。
たまらず庄はドアを蹴飛ばし始める。
ビクともしない、それ以上に音が外に響いている感じもない。
いくら叩こうが、蹴り飛ばそうが、内側にも音が聞こえないのだ。
『おにーちゃんチカラをカシテヨ』
「なんだよお前…なんなんだよ!」
殺される…
そんな予感がした。
姿が見えない相手、武器も見えない。
しかし、殺される予感がする。
本能が危険を感じるのだろうか。
その時、なにをやっても開く様子がなかった玄関の扉が開いた。
庄が玄関の扉に目をやると、そこには先ほど追い出した美里の姿があった。
美里は白い手袋をはめながら庄に対して微笑んだ。
「なんとかしますので、仕事手伝ってくださいね」
どうしようもない。
良く分からない。
他に手はない。
とりあえず自分の身が可愛い。
なんとかなるのであれば、助けてもらうしかない。
庄は無言で小さくうなずくと
「それでは仕事の手伝いお願いします」
美里は再度微笑む。
そして庄は思った。
…あぁ…また脅迫された……
玄関の扉の外では雨は強く降り注いでいた。
ようやく話が少し進んだ…かな?
出来る限り難しい言い回しをやめて簡潔にしてるつもりですが…どうでしょう






