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雲ノ海  作者: 鏡 祐介
4/8

ACT・3

今回は少し長めですが最後まで読んでいただけたら幸いです。

 1日前



 白色と茶色のレンガで組まれた建物

 ぱっと見ると西洋の城を感じる作りだが、ところどころに瓦があったり障子がある。

 後から継ぎ足して作っていったのだろう、狛犬とスフィンクスの組み合わせたオブジェもある。

 城、と呼ぶにはミスマッチな組み合わせが多すぎる建物。

 この城の主の趣味で作られた建物らしい。

 正面入口らしき場所にさまざまな国の言葉で『ようこそ神殿へ』と記されていた。


 ------------------------


 城の中を急いだ足取りで歩く、肩まで伸びた栗色の髪の毛に某高校の制服を着た16、7歳くらいの少女、鈴木 美里(すずきみさと)

 余ほど急いでいるのだろう、会釈をする高官そうな老人や女中にも目もくれずに歩いていた。

 大きな扉の前で立ち止まると大きく深呼吸をし、ノックをする。

「どーぞー」

 なんともやる気の無さそうな声が中から聞こえると、美里は勢いよく扉を開けた。

 ちょっとしたパーティなら出来そうな広い部屋の机に男性が鼻をほじくりながら座っていた。

 20後半くらいだろうか、浴衣を着た男性。

 机の周りには散乱するワイン、日本酒、ウイスキーなどの酒瓶。

 美里は男性の机まで歩くと勢いよく机を叩き、

「神様!いったいどういうことですか!」

「んー?なにが?」

「今回の事件のことです!」

「あー面倒だけどよろしくー」

 鼻をほじくりながらやるきのない返事を返すが、美里は微笑みながら酒瓶を振り上げ

「せ・つ・め・い・してくださいませんか?」

「ちょ、タンマ、痛いじゃ済まないから!」

「説明してくれないと奥様を呼びますよ?」

「勘弁してください。ハイ」


 ------------------------


 神様は真面目な顔をして、書類を引出しから取り出す。

 数枚めくったところで美里に書類を渡し、

「時に美里ちゃんは日本の民謡を知っているかい?」

「え?えぇ、まぁ、盆踊りなどに使う歌ですよね?」

「そうだな

 色々な国の民謡があるが、今回は日本国の民謡が関係している」

「民謡が何か?」

 いきなり民謡の話など持ち出されてもさっぱりわからない。

 小、中、高校と平凡な成績な美里にとって、いきなり民謡と言われても学校で学ぶ民謡などあまり覚えておらず、一般常識レベルでしか覚えていない。

「まぁ聞いてくれ

 民謡とは地域の姿を現した歌や、安全祈願や作物豊作を願った歌などがあるんだが、簡単にいえば神に捧げる祈りの歌だな。

 その歌って別に神に届くわけでもないし、人間の自己満足な所が大きいんだが、たまに祈りの歌が強すぎてこっちの世界まで届くことがあるんだ」

 美里は自己満足という言葉に若干ムッとしたが、あながち間違いでもない。

「人間の世界の時間で言うと1800年くらい前、俺の祖父が神をやっていた時にはよく聞こえたらしいがな」

「最近は聞こえないのですか?」

「あぁ、さっぱりだな

 たまに聞こえたりもするが、どうやら民謡を歌いながら人間を殺して捧げているみたいだな」

「生贄…」

「だな

 まぁ、俺にとっちゃ迷惑な話だし、人殺して捧げたから願いをかなえてくれとか自分勝手な話なのだが」

「そもそも民謡と生贄は関係あるんですか?」

「なんだしらないのかい?生贄の時に歌う祈りの歌って民謡の一種なんだよ

 そうだな…日本国で言うなら、『かごめかごめ』かな?」

[かごめかごめ]

 誰しもが知っている有名な歌、民謡


 ~かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 

 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ? ~


 美里も子供のころに友達と一緒に歌って遊んだ記憶があった。

「つまりだ、生贄をささげて歌を歌うと祈りがこっちまで声が届くんだが、

 今回のは今までと事情が違ってね、祈りが今までより強すぎて人間の世界とこっちの世界のバランスが崩れてきている」

「バランス?」

「簡単にいえば異常気象やありえない現象が起きるし、人間の世界とこっちの世界の境目が消える

 そうなると転生待ちの人間や昆虫、動物までもが人間の世界に溢れかえっちまう

 当然牢獄の連中、つまり地獄の奴らもな

 それに、生贄をささげて民謡を歌い願う力が強ければ本当に願いがかなうかもしれない」

 昔の人は神に生贄をささげ、民謡を歌い、祈祷をした。

 神様が直接力を貸してはいないが、実際祈祷通りの願いがかなってしまうことが過去にいくつか例がある。

 原因は神様ですら不明だった。

「人間にそんなことが可能なのですか?」

「いいや、無理だな

 俺にだってそんなことは無理だ

 だがな、現実に起こっているんだ

 事実を受け止めてから調査する、それしかないんだよ」

「つまり、原因はまだ不明、と」

 美里は書類を数枚めくったところで、1番聞きたかった事を聞いてなかったことに気がついた。

「それで、なんで私が調査員にされたんですか!?」

 神様はいきなり声を荒げた美里にビクッとすると

「だーってさー、詳しく調査するなら人間の世界に行かないといけないじゃん

 俺達は人間の世界じゃ肉体を維持できないしさ

 今バイトに来ている美里ちゃんなら人間の世界から来たんだし、肉体も問題ないしー

 1番力が強い場所が日本国の関東地方みたいだしさ」

「それで私ですか…」

「そそ、頼むよー

 俺はこっちでも調査するから人間の世界まで手が回らないしさ

 それに大体人物の見当はついているんだよ」

「見当?さっき原因は不明と言ったじゃないですか」

 神様は何もない空中に手を伸ばすと1枚の写真が出現した。

 それをそのまま美里に手渡すと

「原因は、ね

 でもこの子の姿が頭に浮かんでくるんだよ

 たぶん、だけどこの子供が何か知っているかもしれない」

 写真には6、7歳ぐらいだろうか、綺麗なランドセルを背負ってはしゃいでいる男の子の姿が写っていた。

「この男の子…ですか」

「うん

 この子に接触して調査してもらいたいんだけど、殺しちゃっても構わないから」

「殺し…ですか…」

 いくらなんでも人を殺すとは簡単にできることではない。

 それが年端もいかない子供ならなおさらだ。

「世界の存続がかかっているんだよ

 1人の命と世界、どっちが大切だい?」

「それは…そうですが…」

「1人で救える世界かもしれないんだよ

 殺してもこっちの世界に来るし丁重に保護するよ」

 人間だからだろうか、まだ世の中を知らない少女だからだろうか、それでも美里は素直に殺します、とは言えない。

「最悪の事態としては想定しておきます」

「それと美里ちゃん1人じゃ厳しいだろうし、パートナーを選別しといたよ」

「パートナー?」

 先ほどと同様に空中から写真を1枚取り出すと美里に渡し

早間 庄(はやましょう)、美里ちゃんと同じ17歳だ」

「選別の理由は?」

「関東に住んでいて民謡に詳しくて、話しやすい同い年

 あと、理解者(スキニング)

「なるほど…

 でも、素直に協力してくれます?」

「何か報酬を用意するよ

 それと願い事1つなんでもかなえてあげようか」

 美里は写真と書類をまとめると

 ふぅ…

 ため息をつき自分が調査に行くことについて変更ができないと諦め

「こき使われる私の自給も上げてくださいね」

 神様は頭をかきながら難しそうな顔したが、

「元老院が決めたことだしなぁ…言うだけ言ってみるよ」

「出発はいつにしたほうがいいですか?」

「準備もあるから明日にしようか」

「わかりました

 では、明日出発いたします」

 美里は軽く頭を下げてから部屋を出る。

「よーろしーくねー」

 手をひらひらしながら気楽に神様が言い、美里はまたもやため息をつくのだった。


 ---------------------------


 某県・某所



 広さは8畳くらいだろうか、普通の部屋より若干広めだが、クマのぬいぐるみやウサギのぬいぐるみなどがタンスの上に飾っており、ごく一般的な子供部屋に見える。

 勉強机の上には新品同様の某中学校指定の手提げ鞄が置いてあり、数回しか使ったことがないように見えた。

 外は雨が降っており、時計の針は18時を指している。

 雨雲の影響もあって部屋は若干うす暗いが、部屋の照明は点いていない。

 部屋のベッドには、12、3歳くらいだろうか、肌は白く長い黒髪でパジャマ姿の少女がいた。

 ベッドの脇には車椅子があり、車椅子を必要とする生活を要いられていることが想像できる。

 少女は外をぼーっと見つめていたが、部屋が暗くなっていることに気がつくと、ベッドにある照明のリモコンを手に取った

 瞬間

『おねーちゃん遊ぼうよ』

 小さな男の子が遊びに誘うかのような声

 少女は声のした方向、机に目をやるが誰もおらず、うす暗い暗闇だけが広がっている。

『おねーちゃん遊ぼう』

 再度声がした。

 今度はベッドの脇、耳元で囁かれたと思うほど近くから声がした。

 少女は振り向くが、誰もおらず窓だけが目に映る。

「誰かいるの…?」

 不安な様子で自分以外誰もいないはずの部屋に言葉を投げかけるが、やはりだれもいない。

『遊ぼうよ』

 自分以外だれもいない部屋で声がする。

 不安になった少女は1階にいる、母親を呼ぼうとそう思った少女はベッドにあるブザーを鳴らそうと押すが、音が鳴らない。

 今体験している現象をTVの怖い話で見たことがあると思いだした少女は鳴らないブザーを諦め、大声を出そうとしたがうまく大声が出せない。

「あ…あ…あ…」

 口から出る声は小さく、大声には程遠い。

『お外は雨が降っているからゲームでもしようよ』

 声は少女の返答も待たずに話しかける。

 少女はありったけの勇気を振り絞りながら、震える声を抑え

「遊びたくても足が動かないの、ごめんね」

 最初に声のした机の方向に向かって声をかける。

 その方向で合っているかどうかはわからない。

『そうなんだ、だったら足が動けば遊んでくれる?』

「うん…いいよ…」

 TVで見た怖い話だとここで断れば殺されてしまう。

 遊ぶことを了承しても殺されない保障はないが…

『それじゃぁ…』

 すぅっと深呼吸をする音が聞こえたと思ったら


 ~なれ、なれ、柿の木

 ならずの柿をば、なれとぞ言うた

 千なれ、万なれ、億万なーれ

 うちの子のちぎっ時ゃ、畑の真ん中なーれ

 よその子のちぎっ時や、堀の真ん中なーれ

 十四日のもーぐら打ち~    (佐賀民謡「もぐら打ち」)


 声は楽しそうに歌い

『どう?おねーちゃん、足動く?』

 無邪気に問いかける声。

 神経はずたずたになって動かすことすら絶望的と申告された足。

 こんな歌で動けるはずがない、と思いながら少女は足に力を入れる。

 すると、絶望し、諦めていた足が動く。

「え…足が…動く…」

『これで遊べるね。おねーちゃん』

 ただの民謡で、歌で足が動く。

 信じられない、夢でも見ているのだろうか。

『夢なんかじゃないよ?足治ったんだよ』

 コン、コン

 突如部屋の扉からノックが聞こえる。

理恵(りえ)ー?入るわよ?」

 母親の声だ、先ほどまでの不安な気持ちが吹き飛んだ。

「こんなに暗い部屋のままでなにやっているの?明かりをつけないとだめでしょ」

 母親は部屋の照明のスイッチを入れるが、少女は先ほどまで喋っていた少年の声がしないことに気づいた。

(なんだったんだろう…

 夢…だったのかな…?)

 そう思いながらも足を動かしてみると、当たり前のように足が動いた。

「え…」

 動く…足が動く…

「理恵ったらどうしたの?」

「おかーさん!足が動くよ!」

 まさか、とおもいつつ理恵の足に目をやると動いているのが見えた。

 あわてて母親は娘の毛布を取り、確認すると足が動いている。

 医者の申告を聞き娘の将来が絶望的になって、毎日涙を枯らすほど泣いた日々もあった。

 だが、目の前で起きていることは紛れもない事実。

 信じられないが、原因もわからない。

 母親は娘を抱き抱え、病院に行って調べてもらおうと思い、机の上にある娘の診察券を手にした。

 診察券には須崎 理恵(すざき りえ)と書かれていた。




 家の外は雨が激しく降り注いでいる。

前書きとかぶっちゃけ苦手…げふげふ

作中の「もぐら打ち」は家内安全などの意味もあるそうです。


都合により来週はお休みします。

再開は9/11日前後かな…?

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