第9話 これ、独占欲だよな
あー、フェロモンやっべーよ。あれは無理だよ。なんか全部吸い取られた気分だよ。
発情期中のハイネに何度も体を求められた。
ハイネと食べる軽食を持ちながら俺はため息をついた。
「今、何日目だ?」
指を折って数える。6日目だった。一週間くらい続くらしいからそろそろ終わりが見えて来ていて、本人も受け答えはしっかりしている。
ーーー好きな人に噛まれたい。
ふと、初日に言われた言葉が頭を過ぎる。
「好きな人、ねぇ」
俺は自分の腕の包帯を見る。番になるためには首を噛むのは必須だ。しかし、ハイネに噛まないで、と懇願までされてしまった。
あの時、噛みたくて仕方がなかったが耐えられず自分の腕を噛んだ。ありえんくらい、めちゃぬちゃ痛かった。
「好きな人、いるってことだよな」
え、俺、もう不倫されるの?
あんなに赤くなって恥ずかしがったり、発情期落ち着いて来たのに抱いてくれって言ってくるのに?
一回、その好きな奴に会ってみたいもんだ。
ノックをして、部屋に入るとハイネがベッドの上で眠っていた。相変わらずカーテンは閉まっているが、一角だけ開けられたままだ。
新しい花が飾られた花瓶がある。
「……大事にしてくれてんだよな」
ハイネのことがよく分からない。俺は軽食をベッドサイドに置いて、ハイネの横に座る。
指先で前髪をちょいちょいと動かし寝顔を見下ろす。
可愛いんだよなぁ。俺はハイネのことどう思ってんだろうな。
「わかんねぇな」
パチリ、と目が覚めたハイネと目があった。見る見る赤くなっていくハイネは飛び起きて、ベッドに丸くなった。
ああいう反応するのに、好きな人いるってどういうことよ。ハイネが俺と離縁して、知らない誰かと幸せになってその横で笑っているハイネを想像をしてみた。
「……うわぁ」
もやっ、とした物が胸に広がり少しだけ苛立つ自分がいる。
あれ、待てよ。漫画の中でギルバートと離縁した後、誰かと結婚してなかったか?
思い出せない。だいぶ重要なことなのに、ハイネは誰と結婚したんだ。
もっとちゃんと読めば良かった。待って、俺振られるの?
「ギルバート?」
「あ、ああ……朝食持って来たから食べよう」
俺は食堂で貰ってきたパンをちぎってハイネの口まで持っていく。恥ずかしそうに目が伏せられ、パンを食べる。
僅かに触れたハイネの唇に俺は、自分に異変を感じた。
やっべ、何これ。めっちゃドキドキする。色っぽすぎんだろ。
ハイネから目を逸らし、自分の口にもパンを入れる。
調子狂うなこれ。
「ハイネ、うまいか?」
「うん」
俺はハイネの首が目に入る。せっかくここまで可愛い猫になって来たのに、ぽっと出てきた男に取られるのか。
やっぱ噛んじまえば良かったな。
「……まじか」
俺は口元を覆った。
これ、独占欲だ。アルファだからなのか?
発情期のハイネを抱いたからなのか?
それとも、俺のことを好きそうな感じ出してるのに、拒絶されたから?
分からん。前世の時、彼女いた時こんな感情抱いたか?
「ねえ、ここ痛い?」
ハイネが包帯を巻かれた腕に触れてくる。
「……まあ、ちょっと」
「ごめん。あの時、変なこと言って……」
「いや、別に……好きな人がいるのか?」
なんでこんなこと聞いているんだろうか。答えなんて聞きたくないのに、おかしいだろ。
「うん」
少し照れくさそうに言うハイネに少し苛立った。俺という夫がいるのに別の誰かを見ている。
「それ、誰」
「……え」
ハイネの顔が赤くなって、顔を背けられた。
やばい、めっちゃ苛つく。ハイネの腕を引いて自分に寄せた。
「悪いけど、その人忘れて旦那のこと大事にしてくんない?それ、浮気だから」
「え、ちがっ」
「違わないだろ」
俺はハイネの顔を無理矢理上げてその唇に口付けをした。
「……っ」
ハイネの顔が驚きからみるみるとぐしゃぐしゃな顔になって、目から大粒の涙が零れていく。
そんなに、嫌なのかよ。嘘だろ。
「……悪かった」
俺はハイネをそっと抱きしめた。
離縁、した方がハイネのためなのだろうか。
でも、離したくない。そう思った。




