第8話 だめだ、やめて、お願い side:ハイネ
朝、目を覚ますと体が重だるかった。僕はこれを知っている。
「ごめん、ヒート来たかも。ギルバートが聞いてきたら体調悪いって伝えて。あと入って来ないようにして」
僕はベッドの上で丸くなる。噛まれたいところから熱がじわり、と広がっていく。ギルバートに迷惑かけたくない。
だって、ギルバートは僕のこと好きじゃない……はず。
「……好き」
大好き。出会った時からずっと。
息が荒くなって、ギルバートの物が欲しくなる。
「……ギル、バート」
シーツに顔を押し付ける。何日かすればこの熱は引いていく。耐えろ。
なのに外が少し騒がしい。メイドが誰かを止めているようだった。
まさか、そんなわけない。
来ちゃだめだ。
来て欲しい。
開けちゃだめだ。
開けて欲しい。
「ハイネ、入るぞ」
「入るな!絶対に入るな!」
僕は扉を睨んだ。今、ギルバートに抱かれたくなかった。
だって、好きな人には自分のことを好きになってから抱かれたい。男のくせに乙女みたいなこと言ってって思われるかもしれない。
いいじゃないか、夢見たって。
なのに、どうして入って来ちゃったの?さっき仕事行ったじゃないか。
僕の目の前には理性を失いかけたギルバートがいた。
「あ、ああ……いやだ……ギルバート」
「なんで言わなかった」
「だ、抱かれたくないんだ」
ギルバートはベッドの下にいる僕の腕を掴んだ。その瞳に優しさは全くなくて、僕を抱きたいという欲しか見えなかった。
抱き上げられ、ベッドに押し倒される。
「いやだ!ギルバート、だめだっ」
「うっせ」
逃げようとする僕の手首が捕まれ甘噛みされた。アルファの匂いが勢いよく僕を包み込む。
あ、僕、だめかもしれない。
でも、これだけはだめだ。
「ギルバート、お願いだ。首を噛むのだけ……耐えて、お願い。絶対に噛まないで」
「……なんで」
「好きな人に噛まれたい」
ギルバート、好きだ。大好きだ。
貴方がこんな発情期のせいで僕と番になってしまったら、本当に心から好きな人と出会った時に辛いことになる。
そして、僕は怖い。
発情期でギルバートを手に入れて、後々捨てられるのが怖い。
頬にいつもより熱を持ったギルバートの手が置かれる。
ああ、キスされる。あんなに欲しがったキスなのに、嬉しいはずなのに、僕は嬉しくなかった。
「……っ」
そこから広がる熱が、ギルバートの匂いが僕を襲う。何かが切れる音がした。
「……ギルバートが欲しい、ちょうだい」
むちゃくちゃに抱いて欲しい。
目を覚ますとギルバートは僕の横にいなかった。
今日は発情期になってから3日目だ。
昨日は何も覚えていない。きっと欲望のまま求めていた気がする。だけど、覚えていることがある。ギルバートは僕の首を噛みそうになった。だけど、自分の腕を噛んで耐えていた。
きっと痛かったはず。だって血が出ていた。
僕がきっと、壊れた理性の中でうわ言のように噛まないで、と懇願したからだ。本当はすごく噛まれたかった。だって好きな人の番になれるんだよ。
「うぅー……」
シーツに顔を埋める。泣いてもいいよね、もうギルバート来ないもんね。
「入るぞー」
僕の涙は引っ込んだ。
「ギルバート!?」
「なんだよ。んー、まだヒート中か。大変だなー」
僕の頬に触れるギルバートの手は消毒の匂いがした。
匂いを辿れば腕には包帯が巻かれていた。きっとその下には痛々しい歯型があると思うと僕の胸がズキリ、と音を立てて傷んだ。
「ほら、軽食持ってきたぞ」
「あ、ありがとう」
ギルバートは僕を座らせ、パンを一口くらいの大きさに切ると口に運んでくれた。歯に僅かにギルバートの指が当たる。それだけで嬉しくなる。
「体、だるいだろ?食べさせてやるから、あ、喉乾いてるよな」
ちょっと下向いて、と 僕の顎下に布を置いてカップを傾ける。
零れた雫が下に落ちないようにコップと布をくっつけているようだった。
「飲み物くらい、自分で飲めるよ」
「ヒート中は甘えろよ」
な、と笑って人差し指で頬を撫でられた。
ああ、好きだ。好きすぎる。
なんでこんなに優しくするんだろう。貴方は僕のこと嫌いだろう?
「……っ」
ギルバートの匂いがすごくが強く感じる。おかしい。今日は3日目なのに。
首がちり、とまた熱くなった。体がまた疼きだした。
「あれ、な、んで……匂いが」
「……抱いて欲しい」
僕はいつもはこんなこと言えない。
きっと発情期だからだ。そうだよ。しょうがないよな、発情期なんだから。僕がこんなこと言っても何もおかしくない。
「ハイ、ネ……っ」
ベッドにギルバートを押し倒す。
「早く、欲しいよ……ギルバート」
僕はここぞとばかりに発情期を使って、ギルバートを求め続けた。




