第3話 そこまでなるか?
事件は翌日の早朝、起こった。
朝の支度をしているとバタバタとした足音が俺の部屋を通り過ぎていく。
ああ、嫌な予感しかしない。
昨日の夕食まではハイネは大人しかった。
扉を開けてメイドを一人捕まえた。
「何があったんだ」
「その、ハイネ様の花瓶を割ってしまったようで……」
あいつの部屋に花瓶なんてあっただろうか。あんな暗い部屋に。
「……あ」
そういえば昨日、花やったわ。
まじか。ブチギレてんのか。
手、出してないよな。
昨日の今日で手を出すとは思えないが、怒鳴り散らしていそうな気がする。
メイドもメイドだ。なぜ、花瓶を落とした。朝から俺の仕事を増やさないでくれよ。
「何人も行く必要はない。行ったところで向こうが騒ぐだけだ。俺が行く」
俺は足早にハイネの部屋に向かった。
「ふざけるな!謝って済む問題じゃないだろ!」
「申し訳ありません!」
扉の向こうから聞こえる声は悲惨、としか言いようがない。
部屋をノックし、ハイネの部屋に入る。
窓際に置かれていたのであろう花瓶が割れて床に散らばっていた。花は無事に見える。
また新しい花瓶に入れ替えればいいだけの話だ。
ハイネを見ると俺の顔を見て、泣きそうになっていた。
「ハイネ、どうした」
「……こいつが窓際に置いておいた花瓶を割ったんだ!わざとだろう!」
「そんな!違います!」
「いーや!嘘だね。僕のことが嫌いだからわざとこんなことするんだ!」
いや、嫌いだろうけど怒られることをわざとやるわけないだろう。
俺だったら絶対しない。というより、締め切ったカーテンの内側にどうせ置いといたんだろう。自分が悪いじゃねぇか。
「はいはい、落ち着けハイネ」
メイドを見ると手を出されていないようだった。
ハイネの握られた拳を見る限り、耐えたのだろう。
とりあえず、メイドを外に出した。
「ハイネ、手を出さなかったんだな」
ハイネの手の内側にくい込んだ爪痕を撫でる。
すごい我慢したんだろうな。
「だって、昨日、お前が言ったんですじゃないか!」
「そうだな」
俺はハイネの頭を撫でる。肩を揺らして、ハイネは唇を噛み締める。
「子供じゃない!」
「はいはい」
俺はしゃがんでガラスをそっと退かし、花を助ける。まだ十分元気だった。何が問題なんだ。
「花は無事だな」
「そうじゃない!」
何がだ。分からん。なんだ、何が違うんだ。妹よ、助けてくれ。
「……あ」
花瓶の色に俺は気づく。
暗めの青は俺の瞳の色だ。
そういうことか。意外と可愛いところがあるじゃなちか。しかし、ここまで怒ることなのか?
「花瓶の色、俺の瞳の色だったんだな」
ハイネは小さく頷く。
こんな色の花瓶、どっから持って来たんだか。良く見つけて来たな。メイドに買ってきて貰ったのか?
「……今日、仕事が終わったら一緒に街にに出るか?」
「え、なんで」
「一緒に新しいの買いに行こう」
どうせ家にあるのを選んだって、気にいるものがなければきっといつまでもブツブツ文句を言うだろう。
だったら好きなものを選ばした方が早い。
「で、でも外に出るのは……」
家で蔑まれ、罵りまれて来て閉じこもっていたハイネにとってやはり難しいか。
部屋をノックされ、執事が入って来た。
「失礼します。ギルバート様、そろそろお仕事です」
もうそんな時間か。朝食も食べれないじゃないか。
「今行く。ハイネ、とりあえず別の花瓶に入れておこう。屋敷には色んな色があるからな。好きなものを選べばいい」
俺はハイネの肩を叩き、足早に部屋を出た。
「家にある花瓶、ハイネに見せてやってくれ」
執事にそう伝え、俺は騎士団の服を着て馬車に乗り込んだ。
帰ってからまた問題が起きませんように。
頼むぞ、ハイネ。
そして頑張れ、メイド達。




