第19話 身を引き締めて頑張ります
「ギルバート、噛んで。早く番にしてっ」
ハイネの声が頭に流れていく。やばい。仕事にならん。まじで。
発情期明けの仕事復帰なのに。
「大好き。愛してる」
「……いっぱいキスして」
「もっと好きって言ってよ」
鼻血出そう。ハイネ過多すぎてえぐい。
今日の朝だってそうだ。
「ハイネ、何してるんだよ」
鏡の前で後ろを向いて何かを見ようと一生懸命に苦戦していた。
「……ギルバートとの番の印見たくてさ」
可愛すぎる。なにそれ。俺は震えながらメイドに手持ちの鏡を持って来て貰う。鏡に映るように印を映せば、ぱぁっ、と目を輝かせて喜んでいた。
俺とメイドはその様子を見て、最初の頃のハイネを知っているせいか感動で泣きそうになった。
朝食では番になった、ということで料理人がお祝いというのことで豪華にしてくれていた。ハイネは嬉しそうに食べたあと、印に触れてにこにこと笑っていた。
「……可愛すぎる」
「え?」
「なんでもない」
こんな可愛い嫁が毎日見れるなんて、俺は毎日幸せ者だ。
なんであんなに可愛いのだろうか。俺の語彙力がおかしくなるレベルで。デレの量が異常だ。
「巣作り、良かったでしょ?」
俺の前にコーヒーが置かれる。
「はい、あれは破壊力すごかったです」
「今日はもう、仕事にならなそうだね」
「すみません」
レオニー隊長は笑って俺の書類を持っていく。
「代わりにさ、これ陛下に渡して来てくれる?」
「は!?」
「大丈夫、大丈夫。きっとオリヴィア様と庭園にいるから、気分転換代わりに行ってきて」
「うっ……はい」
書類を受け取り、扉を開けるとレオニー隊長がそうだ、と声をかけてくる。
「もし、イチャイチャしてたら帰ってきていいよ」
イチャイチャってどこまで!?
いや、外で!?
行くの怖いよ。レオニー隊長。
「ほら、行ってこい」
「……はい」
ここから庭園まではそんなに遠くはない。階段を降りて、一つ目の廊下を真っ直ぐ暫く進み、右へ曲がると着く。相変わらず綺麗な庭園は色んな花が咲いていた。
陛下はどこにいるのだろうか。庭園内を歩いていると声が聞こえた。
「オリヴィア……どうしてだめなんだ」
「だって、私まだ心の準備が」
うっわー、イチャイチャというかなんか雰囲気悪くね。大丈夫かよ。
あれ、でもこのシーンなんか漫画で妹が鼻息粗めに教えてくれたような。
「私はもう待てない」
アグニス陛下が片膝を付く。その手には小さな四角箱があった。
あれ絶対、指輪じゃん。確か、この二人がそういうの付け始めてこの世界でも広まったんだっけ?
あんま覚えてねぇから分かんないけど。いいなぁ、俺もハイネに渡したいな。好きな色の宝石内側に入れたりして。
「結婚してくれ。オリヴィア」
うっわーー!帰えろ。
そう思ったが、俺は陛下の執事に捕まってしまった。なんでだよ。
「……本当に私でいいの?」
「お前じゃないとだめなんだ。私が私でいられるのはオリヴィア、君のお陰なんだよ」
うわ、俺もそれ言ってみたいかも。
陛下はオリヴィアの手の甲に口付けを落とし、指に指輪を嵌めていく。
妹よ、兄ちゃんはいいシーンを見れているぞ。いいだろう。
「嬉しい。私……幸せになっていいのね」
「当たり前だ。私と一緒に幸せになろう」
二人は抱きしめ会い、キスをする。
うわ、人のキスシーンはちょっと見たくなかったかも。
ハイネに会いたいなぁ。
「それで、貴方はどうしてここに?」
小さな声でやっと執事が喋った。俺は執事に書類を渡す。
「これ、アグニス陛下に渡して欲しいんだ」
「承知致しました、陛下、どうぞ」
「ああ」
いつの間にか横に来ていたアグニス陛下が執事から書類を受け取る。
庭園の用意された席でオリヴィア様は嬉しそうに指輪を眺めている。
ハイネもあんな風に喜んでくれるだろうか。
「ちょうど良かった。お前に話があったんだ」
「俺にですか」
「ああ、イシュタルグ家は長男が家督を今後受け継ぐことになる。前当主と夫人は貴族としての資格を剥奪するこことにした。牢に入れたままにするかはまだ考えている」
いや、入れて置いて欲しい。
「それと」
アグニス陛下が俺をじっと見る。
「ダミアン・キルヴァンスは前当主、前夫人と共に斬首刑になった」
「……え」
首と胴体、切り離されちゃったじゃん。
アグニス陛下がため息をつく。
「あいつら地下牢を作っててな。オメガを監禁し、凌辱、売買などをしていた。クソな奴らだった。実質、キルヴァンス家は取潰しとなった……以上だ。俺は忙しいんでな、じゃあな」
陛下は書類を持ってオリヴィアに向かって歩いて行く。その顔は仕事の顔を隠し、愛で溢れていた。
ハイネを早く助けることができて改めて本当に良かった。
早く帰ってハイネを抱き締めたい。
執務室に帰った俺を待っていたのは、全て分かっていたような表情で笑顔を向けてくるレオニー隊長だった。
俺は身を引き締めて溜まった仕事を終わらしていった。




