第14話 無様な姿でいい
「こんな遅くにボクに会いに来てくれたの?嬉しいなぁ」
俺はルルの部屋にいた。充満した甘ったるいオメガの香りと香水と部屋の匂いが混じり、俺の鼻が曲がるくらい臭かった。
どうして俺はルルがいい、と思ったんだろう。いくら思い出しても分からなかった。
きっとどうにかして、ハイネから逃げたかったんだろう。
目の前の紅茶には手を出さかなった。イシュタルグ家と繋がっている可能性があったからだ。いや、確実に黒だろう。
タイミングが色々と良すぎる。
「ルル、俺はお前とは結婚しない」
「またそれ~?だってアイツは実家に戻されたでしょう?」
俺はルルの前に立った。ルルが俺を恐れて後ろに下がって行く。
やっぱり、コイツらは裏で繋がっていたんだ。
「なんで、知っている」
やっば、という表情をして段々青くなっていく。
「ルル、お前はこの家で迫害を受けているか?」
「いや、僕は受けてないよ」
ルルは、にこにこ笑う。
そうだろうな。こんな豪華でカーテンも開けて色んな雑貨が置かれている。買い与えられたものだ。普通の貴族として過ごせている。健全なオメガだ。確か、母親がオメガだったな。
今、こうしている内にハイネはどんな暗い部屋で過ごしているのだろう。早く助けに行きたい。
俺はルルに頭を下げる。
「すまなかった。期待させた。俺はお前と結婚できない。ハイネを愛しているんだ」
「なにそれ、でもボクも困るんだけど」
焦ったように俺に抱きついてくる。
「何が困るんだ?……何を焦っている?」
「あ、いや……別に」
目線を逸らすその先に高価な宝石が置いてあった。男爵の資金では買えなさそうな大きさだった。
「ルル、あの宝石、お前の家の資金では買えないよな。俺の仕事……何なのか覚えているよな?」
「それ脅しのつもり?ボクと不貞した君は今、崖っぷちだと思うけど」
ルルが鼻で笑う。自分が優位に立ったと思った奴ほど饒舌になる。
「ボクはいらないって言ったけど、くれたんだからいいよね?そもそも不貞を働いた君のことを誰が信じるの?」
「あの宝石の元を辿れば信じるさ。証拠があるんだから……このままだとこの家、俺が壊すぞ」
ルルが青ざめていく。
俺から離れて、震える手で自分の胸に手を置く。
「なんで今頃、アイツなの?ギルバートは嫌ってたじゃん!ボクのこと可愛いって、匂いもいいって」
匂いは絶対違う。臭い。香水とオメガの匂いが混じって甘ったるくてくどい。
「ああ、お前は可愛いよ。犬みたいで。だが、俺は猫がいい!それと匂いは……すまない。嘘だ、香水が強すぎて臭い。すまない」
「は?犬ってなに?ボクを犬?猫はアイツ?ふざけてんの!?しかもボクの匂い臭いって?」
乾いた音が部屋に響く。
俺は今日、何回叩かれるのだろう。
だが、この痛みはハイネが今抱えてる思いに比べたら全然痛くない。
「出てけ、ボクは人を臭いとか犬扱いする奴と結婚を約束していない!そんな奴を少しでも好きになったって広まったらボクの人生の汚点になる!」
ルルは俺に紅茶をかける。
「精々、あいつが新しい婚約者といる所を指くわえて見てろよ。バーカ」
「……そんなことはさせない。俺はあいつと離縁するつもりはないからな」
俺はハイネを過去に何度も何度も裏切った。立派な不貞だ。最悪な夫だ。俺とルルが二人で会って話をしている時、どう思ったんだろう。
なのに、どうして、ハイネは俺の手を取ったのだろう。聞きたい。そして謝りたい。
「この宝石は、預からせてもらう」
「勝手にすれば?もういらないし」
俺はその宝石を持ってベルトニー家を後にした。
ハイネ、早くお前に会いたい。あと少しだ。待っててくれ。
煌びやかなシャンデリア。赤い絨毯の上で楽しそうに踊る貴族達。王が主催の舞踏会はき急遽だったのにも関わらず豪華だった。
「急に舞踏会だなんて、なんでかしらね」
「私、ドレスもっとちゃんと仕立てたかったわ」
「もしかしたらご結婚が決まったのかしら?」
口うるさい貴族達がヒソヒソと鳥のように話をしている。
扉からハイネと知らない男が入って来ると、貴族達の視線が一斉に集まった。
「イシュタルグの悪魔よ」
「前の夫はどうしたの?」
「知らないわ。だって、悪魔でしょ?捨てられたんじゃない?」
「あの方、ダミアン様だろ。いいなぁ」
ハイネと一瞬、目があった。震える唇が何かを言いかけて諦めた。
俺は横にいたレオニー隊長と目線を交わし、ハイネの姿を横目に静かな廊下へと出た。
胸元のハイネの瞳と同じ色のブローチに触れる。
短いようで長かった。
「ハイネ、待っててくれ」
今、助けに行くから。




