第13話 どうしてこうなった
俺はハイネの顔が見れず、屋敷に戻れずにいた。隊長のいない執務室は静かだった。
「どうすれば良かったんだよ」
妹よ、お兄ちゃんに教えてくれ。お前なら俺になんて言うんだ。
天井を見上げる。おばちゃん達はなんて言うだろうか。
過去に彼女の相談をしたことがあった。結局別れたけど。
やっぱ言っていたことは「ちゃんと面と向かって話しな」だったかな。
「面と向かって話したけどなぁ」
殴られてもいいから抱き締めれば良かったのか?
「諦めちゃったなぁ」
バタバタ誰かが走る音が聞こえる。ノックをされ、許可も出していないのに誰かが入って来た。
執事だった。ハイネがまたやらかしたのだろうか。
「ハイネ様が」
また誰か殴ったんだな。そうだろう。あの猫はやっぱり寂しがり屋だな。俺がしっかり謝って理由を話して、二人で部屋でひっそりデザート食べながら話して、またちゃんとやり直せばいい。
「屋敷を出られました……その、離縁、するそうです」
頭が真っ白になった。
「どういう、ことだ」
自分でも驚くくらい低い声が出た。何なんだ、この血が沸騰するような怒りは。
ハイネは俺のだ。俺の嫁だ。俺だけのオメガだ。
誰にも渡さない。渡したくもない。
「ハイネ様に番の印がないのと、ギルバート様とルル様の件で不貞だから、と離縁を取り付けたようで……」
ハイネはそれで出て行ったのか。俺のせいで。やばい。頭がどうにかなりそうだ。
今すぐイシュタルグの家に行って、ハイネを取り戻さなくては。
でも、どうやって。俺はまだ疑われている。いや、やってきたんだ。それを。俺は裏切ったんだ、ハイネを。
「ギルバートー!ご飯持ってきたよー!一緒に食べよー!……あれ?何、この空気」
レオニー隊長が入って来た。
今はそれどころじゃないんだ。
その首、今すぐ捻り潰したい。
「……ちょっと、隊長に向かってその威圧はないんじゃない?」
レオニー隊長から笑みが消える。
あんたに構ってる暇ないんだよ。ハイネが出て行ったんだよ。連れ戻さなきゃ。
「何があったの?」
「そ、そのイシュタルグ家の方々がハイネ様をその」
「あー、やっぱ動いたか」
俺は足早に部屋を出ようとした。しかし、それはレオニー隊長によって阻まれてしまった。
「待って、まだ行ってはだめだよ。炙り出すんだ」
「……ハイネを使ってですか?」
あの毒まみれの中にまた漬けるというのか。ハイネが戻って来られなくなる。
「それに、お前はルル・ベルトニーと話をつけろ。それが先だ」
「なんで知っているんですか」
レオニー隊長からアルファのフェロモンが威圧が俺を殴る感覚がする。
「私の情報網を甘くみるなよ。あいつを助けたいなら、まずはそっちをどうにかしろ。どうせ不貞だ、なんだといちゃもん付けられたんだろ」
「でも、ハイネは今、苦しんで……」
レオニー隊長が俺の襟首を掴む。初めて見る怒りの表情は恐ろしかった。
「苦しめているのはお前だ!なぜ、もっと早く番にしなかった!なぜ、離縁したいと思った!なんで、オメガの苦しみを理解してやらなかった!」
過去の俺がやって来たことはクズだ。ハイネがいるのにルルに会って、仲を深めて結婚しようとしていた。
「……だが、お前は変わった。そうだろう。あのイシュタルグの悪魔と呼ばれていたヤツを、お前が暗闇から引き上げたんだ。変わりたいならやれ!」
突き飛ばされ、俺はよろけて床に尻もちを着いた。
無様だと思った。アルファとしてのプライドはなかったが、何が折られた気分だった。
「まずはルル・ベルトニーをどうにかしろ。話をつけろ。イシュタルグ家は不貞どうこう言っている。これでは王も動けない。わかったなら、早く行け!」
「はいっ」
妹よ。兄ちゃんは、やっちまった。まだやり直せるよな。
ハイネを失いたくないんだ。




