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第5話:都合のいい世界

※この世界は、優しすぎます。

この世界では、失敗が起きなかった。


正確に言えば、「失敗しそうな出来事」が、必ず成功に転ぶ。


討伐依頼を受ければ、敵は想定より弱いか、偶然の隙を見せる。

交渉に臨めば、相手はなぜか譲歩する。

危険な選択をしても、結果は最善に落ち着く。


努力は、裏切らない。

勇気は、必ず報われる。


そういう世界だった。


王族の姫は、俺に想いを寄せていることを隠さなかった。

剣の稽古を終えたあと、よく中庭で二人きりになる。


「あなたは、ここに来てから……変わりましたか?」


「どういう意味で?」


「どこか、遠くを見ている時がある」


俺は、空を見上げた。

この世界の空は、やけに青い。


「前より、楽しくなった」


それは、嘘じゃなかった。


彼女は、安心したように微笑んだ。


騎士団の女団長も、俺を頼るようになっていた。

戦術の相談。

部下の育成。

時には、ただ酒を飲むだけの夜。


「あなたが来てから、団が変わった」


そう言われるたび、胸が満たされる。


――必要とされている。


それは、麻薬みたいな感覚だった。


だが、同時に、奇妙なことに気づき始めていた。


この世界には、「俺を拒む存在」がいない。

敵ですら、どこかで俺を引き立てる役割を担っている。


悪意が、薄い。

人の感情が、わかりやすい。


まるで――

俺が理解できる範囲に、すべてが収まるように設計されている。


夜、宿の部屋で一人になると、頭痛が起きる頻度が増えた。


鈍い痛み。

目の奥が、締めつけられる。


そのたびに、断片的な光景が浮かぶ。


白い壁。

機械の音。

誰かが、静かに泣いている声。


(……誰だ?)


考えようとした瞬間、痛みが強まる。


俺は、思考を止めた。


(考えなくていい)


(ここは、俺の居場所だ)


女神の声が、ふと脳裏に響く。


――あなたは、選ばれたのです。


――望んだ世界に、来たのです。


その言葉を、何度も反芻する。


ある日、王都で大きな式典が開かれた。

盗賊討伐、騎士団再編、王家への功績。


俺は、壇上に立たされた。


拍手。

歓声。

称賛。


姫の視線。

団長の誇らしげな表情。


胸が、高鳴る。


その瞬間――

激しい頭痛が走った。


視界が揺れる。


「……っ!」


耳鳴りの中で、はっきりと聞こえた。


「……意識レベル、低下しています」


知らない声。

いや――知っている。


「呼びかけに反応なし」


誰かが、俺の名前を呼んでいる。


(やめろ)


(今は、ここにいる)


俺は、必死に目を開いた。


世界は、何事もなかったように続いていた。

拍手は、鳴りやまない。


誰も、異変に気づいていない。


……いや。


一人だけ。


女神が、群衆の向こうで、こちらを見ていた。


笑っていない。


その表情に、初めて、違和感を覚えた。

※彼が信じているのは、世界か、自分か。

それとも――与えられた答えでしょうか。

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