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6 女子会後 若菜の場合

 カウンターキッチンにしなければ良かった。

最近そんなことばかり考えてしまう。料理をしながらリビングの様子が見られるから、子育てするのに良いと思っていた。今でも基本的にその考えは変わっていない。

が、見たくないものも見えてしまう。料理をしていても、食器を洗っていても、ソファに寝転び、テレビを付けながら、スマホで動画を見ているパパが目に入る。ニヤニヤ笑って、目の前の息子、裕太が何か言っても「ん」と空返事をするだけで、何もしてやらない。

最近、毎日のように押し寄せる怒りの波がまた湧き上がってきた。またしても手元の皿を投げつけたくなってくる。

「ねぇ、裕太の相手してよ」

 こんな、言いたくもない台詞を皿の代わりに投げかける。

「ん」

 またお得意の空返事である。そんなに面白い動画なのか、息子とどちらが大切なのか。

私の苛立ちの気配を感じ取ったのか、裕太がぐずり始める。それでやっとパパはスマホから顔をあげ、

「どうちたんでちゅか」

 と裕太をあやし始めた。私の怒りはふっと落ち着く。しかし、それが一時的なものに過ぎないこともわかっている。

「何で私ばっかり」そんな何千回と心の中でパパにぶつけた台詞をまた心で反芻している。

世の中の夫婦は一体どうなっているのか。こんなにも皆大変な思いをしながら日々を送っているのか。そんな風には見えなかった。とてもじゃないけど、こんなに大変だと分かっていたら結婚なんてしなかった。

昨日の飲み会で清子は結婚したがっていたけど、そんなに良いものではない。よく考えると結婚後、幸せそうな人ってあんまりいない。

でも結婚する前は、なぜか幸せそうな姿ばかりが目について、羨ましくて、羨ましくて。

結婚すれば自分も幸せになれるんだと盲信していた。

今なら分かる。幸せそうに見えていた夫婦達もきっと各々問題はあって、でもそれを表に出していなかっただけだ。

自分達は幸せであると言い聞かせながら、円満な夫婦像を世間に提示する。

それに私はまんまと騙されたのだ。確かに注意深く見渡せば、私と繋がりの深い人々は割と男女関係なく配偶者への不満や結婚の後悔を少なからず口にしている。これが現実なのだ。

でも、結婚するまではそんな事実は目に入らず、都合の良い側面だけを見て、私は結婚すれば幸せになれるのだと、意味もなく信じていた。

昨日の女子会で愚痴り過ぎたことを若干後悔していたが、ここまで考えが行き着くと、あれで良かったのだという気になってくる。

清子には、結婚の辛さをちゃんと教えてあげなければ。結婚前の私がそうだったように、今の清子にはほとんど伝わらないかもしれない。

結婚し、いっぱいいっぱいになるまでは分からないかもしれない。

人間はいつだって耳ざわりの良い情報ばかり信じたがるから。それでも言っていこう。

なぜだか、それが世の中に対しても、清子に対しても、いや、何より自分に対して誠実であるように思えた。

自分は幸せだと取り繕いたくない。これで良かっただなんて、思い込みたくない。今の不満を不満のまま発することが、将来の幸せにつながる気がする。飲み込むことを美徳としたら、永遠に幸せは訪れない。

こんな偉そうなことを考えても、結局パパに対しては諦めてしまっている自分がぬっと頭をもたげる。伝えたいのに、伝わらない。変化の見込みのないパパにかける言葉はない。

せめて、裕太はそうならないように育てよう。家事も教えて、将来結婚しても奥さんと支え合っていけるように。思考をぐるぐる巡らせた結果、息子に家事を教えるという辺鄙な所に行き着いた。なんだか腑に落ちないまま、若干のもやもやをかかえ、皿洗いは終了した。

いい加減夫とちゃんと向き合わなければ。これが正しい帰着点だろう。

「裕太をお風呂に入れてよ」

「はいはい」

 お風呂だけは割と進んでやってくれる。こういう小さなことに、もっと感謝できれば何か変わるのかもしれない。

自分が変わる必要もありそうだ。

麦茶をコップに注ぎ、ソファで一息つく。SNSで夫の愚痴を投稿している人を見かけ、少しスッとした。

それでも、何か行動しなければ。そんな気持ちになった夜だった。

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