14 清子とマック
今日もマクドナルドに寄って帰る。
月に一回、いや、最近は二週に一回はお世話になっている。夜遅くまで営業しており、安く、何より中毒性がある。定期的に無性に食べたくなるのだ。
帰り道にあるというのも大きな要因だ。今日は思い切ってビッグマックセットを注文した。明日も仕事だけど、一応金曜日ということで、一週間頑張った自分への労いだ。サイドメニューはポテト、飲み物は無論コーラ。
社会人になるまで、夕飯にファストフードというのは、なんだか良くないことだと思っていた。
実家に居たせいもあるだろう。だが、社会人になってから、栄養の観点は二の次となり、圧倒的手軽さに身を委ね、すっかりファストフードに寄りかかる食生活になっている。今では何の罪悪感もなく、夕飯をファストフードにできる。手軽に腹が満たされればそれで良いのだ。
ポテトを食べながら、SNSを見る。彩乃の投稿が目に止まった。手の込んだ美味しそうな夕飯の写真だ。旦那さんと食べるのだろう。手作りなのだろうか、デザートのケーキまで写っている。今日は結婚記念日とのことだ。私の手にはマックのポテト。左右には若いカップルと受験生。
この前のことを思い出す。彩乃と演劇を観た帰り、二人でマクドナルドに行った。あの時やたらはしゃいでいた彩乃は、数年ぶりだと言っていた。あれから二週間もたたず、私はここにいる。
あの時、私はしょっちゅう来てると言うと、羨ましいと彩乃は言った。私にとってそれは皮肉に響いたが、本心なんだろうなとも思った。
悪意なく人を傷つける類の言葉。無邪気であるが故にやり場のない嫌悪感。私の方がどんなに羨ましいか。専業主婦。優しい旦那さん。自炊や行き届いた掃除ができる余裕のある暮らし。
コーラのストローを回す。氷のガラガラとした感触。彩乃の投稿にハートは付けず、ポテトを食べる。むしゃむしゃと無心に、ひたすらにポテトを食べる。
せめて若菜のように定時で帰れたら、どんなに良いだろう。心はどんどんくさくさする。
マクドナルドは美味しい。どんな私にも優しい。
金曜日の夜。くたびれたマクドナルド。人々を励ますかのように、夜にしては陽気な音楽が流れ、私を取り囲む。
しかし、それは一層心の寒さを際立たせる。気付くとポテトは残り僅かで、それらはすっかり冷め、しなしなとしてきている。
カップルは居なくなり、受験生と私だけが窓に面したカウンター席で、夜の窓ガラスに映っている。
私は、黙々と問題を解く受験生に比べ、なんと間の抜けた顔をしていることか。こんなに悲しいのに、虚しいのに顔は全くの平穏。途端に自分の感情すらわからなくなってくる。
足早に外に出た。涼しくなってきた空気にからめとられ、上着を着てくれば良かったと後悔する。背中を丸めて歩き出すと、スマホがブルッと震えた。
「今度ご飯に行きませんか?」
先日こっそり始めたマッチングアプリでマッチした人からのメッセージだ。途端に心がふわっとする。単純なのだ、結局。
落ち込む時も喜ぶ時も一瞬の出来事に左右される。こんなに急に喜べるのなら、まだ大丈夫。私は頑張れる。メッセージをやり取りする人がいるだけで、こんなに嬉しいだなんて。
明日は久々に服でも買いに行くかと考えてみる。考えるだけなら自由だ。実行に移さなくてもいい。実際買わずに終わる可能性も高い。でもそんなことを考えられたということは、気持ちが、前に向かっている証拠だ。それで良い。口角が上がっているのを感じる。私は今、喜んでいる。
SNSで、デート用の服をリサーチしようとかなんとか考えているうちに、家に着いた。私は単純だ。それで良いのだ。秋の夜は月が明るい。




