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三羽と四羽、そして七羽《なな》side


 「まあ、あなた達!抜群のタイミングで帰省してくれたわね!」


 一羽かずはの歓声は、二階にまで響いた。

 その明るく弾む声を聞いて、三羽みつば四羽よつばは理解した。

 一体誰が帰省したのかを。


十羽とわ九羽くわだな」


 四羽が、吐き捨てるように言うと、三羽が苦笑して断言した。


「みたいだね~。一姉かずねえは、二人に頼むよ」


「だろうな。お気に入りだもんな、俺たちより強いから」


 四羽は、舌打ちして自室を出た。続いて、三羽も階段へ向かったが、一羽たちの話し声は、二階からでも聞き取れた。

 

「家出した子供たちを迎えに行って欲しいの。場所は、お盆の森よ」


「家出した子供って?」


 九羽の声がして、三羽が首を傾げた。


「あの面倒くさがり屋が、ちゃんと聞いてる。珍しいね」


「高瀬川家の御子息と、下鴨本家の御令嬢、世眠と三宝よ」


 一羽の困り切ったというふうな声音を聞いて、四羽が肩をすくめて言った。


一姉かずねえには申し訳ないな」


「へえ!あのお騒がせコンビ、ついに家出までしたの。どうして、僕たちなの!?迎えに行くなら、普通は、各家の誰かでしょ?」 


「面白がってどうするの!今朝は、大騒ぎだったのよ!?森の番妖怪ばんようかい・赤目守りが、西野小の先生たち、ベテランの奉公屋たちに知らせてくれたから、校長先生が九十九番地に連絡を下さったの。それで、初めて二人の居場所が分かったのよ。どれだけ気をもんだ事か!無事に下界へ辿り着けたのは、本当に運が良かったわ」


 十羽の声には、二人ともカチンときたが、一羽に叱られたので、ひとまず怒りは静まった。

 しかし、十羽にしては、まともな問いをしたので、事情を説明した方が良いと三羽は判断した。


「僕たち、任務があって行けないんだよ」


「三羽!どうしているの!?」 


三羽が、十羽の質問に答えると、九羽が声を荒げた。

その声に我慢がならなくなった四羽が、階段の上から見下ろすように口を挟んだ。


「いちゃいけないか?」


「四羽!君まで帰ってたの!?」


 今度は、十羽が苦虫を噛み潰したような顔つきで、四羽を睨みつけた。

そして、更に四羽を怒らせたのだ。


「君たちがいるって分かってたら、絶対に帰って来なかったのに!」


「だろうな、俺も同じ気持ちだ」


「何それ!僕たちを馬鹿にしてるの!?」


 十羽が、黒い死神の鎌を背から抜いたのを見て、一羽が、慌てて声を上げた。


「十羽!待ちなさい!屋敷を壊さないで!喧嘩なら、外でして頂戴!それから、家出少年と少女を連れ戻ってからにして!」


一姉かずねえ、どうせ止めるなら、ちゃんと止めてよ」


三羽は唇を尖らせて言ったが、一羽は相手にしなかった。

そして、一番下の兄弟たちに真摯に頼んだ。


「十羽、九羽、お願いよ。家出した二人を迎えに行って頂戴」


 顔を見交わせた二人が屋敷を出るまでは、双子も黙っていた。


「あいつらが来てくれて良かったね、一姉」


 四羽が言うと、一羽が目を吊り上げた。


「嘘おっしゃい!そんな事、一ミリだって思っていないでしょう?」


「二人とも落ち着いて。助かったのは事実でしょ?」


 三羽が仲裁に入ろうとすると、バスルームから出て来た七羽ななが、先に険悪な空気を軽くした。


「ねえ、お盆の森って聞こえたけど、赤目守りって、どんな妖怪なの?」


 バスローブを着込み、ほかほかと湯気を立てながら、ぽわぽわと喋る弟を見て、三人は毒気を抜かれた。


「そうね、七羽には、まだ教えた事がなかったわね。赤目守りはね、赤い目をした森の妖怪なの。特徴はね、おかっぱ頭で、小豆色の浴衣を着て、赤い下駄を履いてるわ。くりくりした目で、いつもニコニコしてるから、とても愛らしいのよ」


「お歯黒だけどね」


 三羽が忘れず付け足したが、一羽に睨まれたので首をすくめた。


 「森で出会ったら、とびきり美味しい牡丹餅を献上する決まりなの。その時に、頭を下げて忘れず言うのよ。『あなた様のおかげで森は安泰です。どうぞお納め下さい』ってね。今度、お盆の森に連れて行ってあげるわ」


 一羽が説明し終わった時、双子は、いつの間にか部屋に戻っていた。


「困った子たちね」


 一羽が、ぽつりと呟くと、七羽が、どこか切羽詰まったような問い方で尋ねた。


「兄さんたち、誤解してると思う。姉さんが、自分たちより十羽と九羽を信頼してると思ってる。本当は、そうじゃないよね?」


 その不安げな問いに、一羽は、背を向けた。


「さ、昼ご飯を作らなくちゃ。七羽は、ちゃんと髪を乾かすのよ」


「姉さん!!違うよね!?一番頼りにする理由は、罪悪感が原因だよね!?兄さんたちの事も、同じに信頼してるよね!?」


 キッチンへ向かう姉に大声で問い掛けたが、答えは貰えなかった。


「姉さん、どうして答えてくれないの?」


 肩を落とした七羽を、二階から、じっと見つめる小さな目があった。


「きっと罪悪感じゃないよ。強いからだよ。特別なんだよ……」


 八羽はつが、悲しげに呟いた。


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