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☆ 世眠と三宝の家出2;イメージした場所

『シリーズ設定が分からず、『浮雲九十九番地』シリーズを一作品にしている所です』の第4話と同じです。


「世眠、大丈夫!?頭、打ってない?」


三宝が、素早く立ち上がって横を見ると、世眠の下に何かがいた。


「え、人間?潰れてる?」


 三宝が、恐る恐る手を伸ばそうとした時、頭上から野太い声がした。


「坊らが捕らえたか!」


 三宝と世眠が、慌てて顔を上げれば、大樹が声を発していた。


「すまんのう、若い子の手を借りたのう」


 世眠と三宝は、わけが分からず、顔を見合わせた。


 「捕らえたって、何をだ?」


 「手を借りたって、何の事?」


 とりあえず、世眠は立ち上がって、人間の背中から下りた。


「こいつ、何で俺の下にいたんだ?」


 不思議そうな顔をして首を傾げる幼馴染を見て、三宝が呆れたように言った。


「世眠が、この人間の頭上に落ちたからでしょ」


 「ああ、そういうことか。俺の下敷きになったのか」


 世眠は、納得して周囲を見回した。


「ここ、でっかい森だよな?」


「うん、おっきい森!私たち、イメージした通りの場所に辿り着けたのよ!」  


 三宝が、満面の笑みで言うと、世眠も、段々と実感がわいてきた。


「俺たち、ちゃんと下界に着いたんだな」


「運命は、私たちに味方したのよ」


 子供たちの会話を黙って聞いていた森の大樹たちは、困ったように眉を下げた。

 そして、最初に二人に話し掛けた大樹が、再び口を開いた。


「坊ら、妖怪の子かのう」


 二人は、もう一度顔を上げて元気よく答えた。


「俺たち、保持妖怪だ」


「私たち、浮雲から落下して来たの」


 「俺、跡継ぎになりたくないから、家出して来たんだ」


「私は、その付き添いなの。私たち、浮雲小学校の一年生よ」


 その答えを聞いて、森の大樹だけでなく草花たちも、これは一大事だと内心は焦った。


 浮雲九十九番地を知らない者がいたら、そいつは妖怪ではない。 

 浮雲九十九番地を知らないイコール、おばば様を知らないという事だからだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆



「まあ、あなた達!抜群のタイミングで帰省してくれたわね!」



 九羽くわ十羽とわが玄関を開けると、長女の一羽かずはが歓声を上げた。


「僕、帰ろうかな」


後ずさった十羽に、九羽が、そっと耳打ちした。


「ここで逃げたら、後で三羽みつば四羽よつばに小言を言われる。そっちの方が面倒だから、とりあえず、聞くだけ聞こう」


 十羽は、愛らしい顔を歪めて頷いた。


 二人が中に入ると、一羽が、すぐさま切り出した。


「家出した子供たちを迎えに行って欲しいの。場所は、お盆の森よ」


 二人は、目が点になった。


「家出した子供って?」


 九羽が聞くと、一羽が、心底困った顔で告げた。


「高瀬川家の御子息と、下鴨本家の御令嬢、世眠と三宝よ」


「へーえ!あのお騒がせコンビ、ついに家出までしたの?」


 十羽が、おかしそうに唇を歪めたので、一羽が、ぎろりと義弟おとうとを睨んだ。


「面白がってどうするの!今朝は、大騒ぎだったのよ!?森の番妖怪ばんようかい・赤目守りが、西野小の先生たち、ベテランの奉公屋たちに知らせてくれたから、校長先生が九十九番地に連絡を下さったの。それで、初めて二人の居場所が分かったのよ。どれだけ気をもんだ事か!無事に下界へ辿り着けたのは、本当に運が良かったわ」


 二人は顔を見交わせた。これは、面倒な事に巻き込まれた。

 最悪のタイミングで実家に顔を出したのだ。 


「どうして、僕たちなの!?迎えに行くなら、普通は、各家の誰かでしょ?」


 十羽にしては、まともな事を言ったが、そこへ耳障りな声が割り込んだ。


「両家から僕たちに依頼が来たんだ。でも、僕も四羽も、任務があって行けないんだ」


「三羽!どうしているの!?」


 九羽が、声を荒げて義兄あにを見た。


「いちゃいけないか?」


「四羽!君まで帰ってたの!?」


 十羽は、苦虫を噛み潰したような顔つきで、もう一人の義兄あにを睨みつけた。


「君たちがいるって分かってたら、絶対に帰って来なかったのに!」


「だろうな、俺も同じ気持ちだ」


 四羽の言葉で、十羽が殺気だった。


「何それ!僕たちを馬鹿にしてるの!?」 


 十羽が、黒い死神の鎌を背から抜いたのを見て、一羽は、ぎょっとした。


「十羽!待ちなさい!屋敷を壊さないで!喧嘩なら、外でして頂戴!それから、家出少年と家出少女を連れ戻してからにして!」


一姉かずねえ、どうせ止めるなら、ちゃんと止めてよ」


三羽が唇を尖らせて言ったが、一羽は相手にしなかった。


「十羽、九羽、お願いよ。家出した二人を迎えに行って頂戴」


二人は、再び顔を見交わせた。


「ねえ、どうする?一姉かずねえのいる場所で、三羽と四羽に喧嘩を売ったら、叱られるよ」


 十羽が、小声で聞くと、九羽が、ぼそぼそと答えた。


「行くしかないよ。とりあえず、下界に行くだけ、行ってみよう。二人を連れ戻すかどうかは、森で決めよう」


「九羽が、そう言うなら、そうするよ」


浮雲九十九番地の最強兄弟にとっては、最悪の一日が始まったのだ。

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