第2話 お盆の森で、劇の練習 2
奏は、ナレーションなので、特に着替える必要もない。
しかし、瀬奈の指示で、黒子の衣装を着せられた。
「ねえ、何で、黒子なの?僕、ナレーション役だけど」
奏は、至極真っ当な質問をしたが、わけのわからない返答を貰った。
「存在感を消す為だから、仕方ないの」
「顔は隠さなくていいわよ」
知世が、優しさをみせたが、奏は、嫌味をこめて言った。
「ありがとう。こんな劇、観たくないけどね」
こういうわけで、奏は、黒子の衣装を着て、化け枝に座って台本を読む事になった。
その姿は、まるで忍者のようだった。
《むかし、むかし、大きなお城に、ちょっぴりチャライお妃様と、可愛らしい白雪姫が、仲良く暮らしていました。でも、或る日、二人は喧嘩をしました。その原因は、お豆腐です》
『朝食シーン 食卓と椅子 』
この設定の為に、男子は、わざわざ小守寮から、食卓と椅子を運んで来たのだ。
ウッドテーブルとウッドチェアは、思いのほか重たくて、四人とも汗だくになった。
女子は、昨夜のうちに、お豆腐を作っておいたので、それを持って来た。
舞台セットは、瀬奈と結花が、二人でした。
「お母さま、わたくし、絹ごし豆腐の方が、美味しいと思います」
龍絵が、少し気取った口調で言った。
龍絵は、アニメの白雪姫の衣装を真似て、黄色いワンピースを着ていた。
本番は、アニメ通りの衣装に決まっている。
縫っているのは、衣装係の知世で、知世は、普通に白シャツとデニムだった。
ことりは、「狡いよ」と責めたが、知世が、にっこり笑って言った。
「衣装係は、身軽に動ける服がいいの。ずっと立ちっ放しの鏡と違うから」
ことりは、一瞬言い返そうと思ったが、すぐに止めた。
(性格悪い子に何を言っても無駄だからね)
「豆腐はなァ、昔から木綿って、決まってンだよ。おまえ、そんなことも知らねえのか?」
木の葉が、踏ん反り返って言い返した。一応、これは、台本通りである。
木の葉は、断固として嫌がったが、龍絵に頼み込まれて、お妃様の衣装に着替えた。
練習は、紫色のワンピースなので、まだマシだ。
本番の本格的な衣装を思うと、木の葉は、頭が痛かった。
「でも、お母様、冷奴には、絹ごし豆腐だと思います。だって、冷たいプルプル感が引き立って、最高に美味しいです」
龍絵が、不服そうな顔をして主張した。
すると、木の葉が、目を吊り上げて反論した。
「木綿が合わねえって、誰が決めたンだよ。冷奴でも湯豆腐でも、どっちもいけるのが、木綿のすげーとこだろ!」
「絹ごし豆腐は、湯豆腐にしても、とても美味しいですよ。木綿豆腐は、箸で割った時、その断片に、絹ごし豆腐よりも醤油が染みます。お醤油は、多くの塩を含みます。塩分の取り過ぎは体によくありません。お母様には、絹ごしが丁度です」
龍絵も、頬を膨らませて負けじと言い返した。
「いや、木綿も絹も、どっちも同じだろ。そもそも、塩分て何だよ。今は、豆腐の話をしてンだろ」
木の葉が、顔をしかめて口を尖らせると、龍絵が、すまし顔で言った。
「はい、お豆腐の話です。でも、お母様は、いつも、お豆腐にお醤油をかけ過ぎですから。この際にと思いまして」
「は?かけ過ぎィ?どこがだよ」
木の葉が、鼻で笑うと、龍絵が、厳しく指摘した。
「ご自分のお皿をご覧ください。真っ黒ではありませんか」
「うぐっ」
真っ黒に染まった豆腐を見て、木の葉は、一瞬、言葉に詰まった。
しかし、すぐに踏ん反り返って言い返した。
「塩分の取り過ぎ?気にならねえから、問題ねえよ」
《結局、二人の意見は噛み合わず、白雪姫が、家出をしました。
困ったお妃様は、秘宝の鏡に、命令口調で尋ねました》
『鏡の枠』
これを運ぶのも、男子の役目で、よいしょよいしょと引っ張るように持って来た。
「おい、鏡ィ。おまえ、絹ごしと木綿、どっちが美味しいか答えろよ」
木の葉は、両手を腰に当てて命令した。
「随分と乱暴な物言いですね。あまり気に入りませんが、まあ、良いでしょう。私は、何でも答える鏡ですからね。ですが、鏡ですので、食べ物は食べません。他を当たって下さい」
ことりは、率直な意見を述べた。
鏡役という事で、ことりは、木の葉と同じ、紫色のワンピースを着せられたが、苦情は言わなかった。
もう、どうでもよくなっているからだ。
「おい、答えになってねーじゃねーか。おまえ、ほんとに魔法の鏡か?」
木の葉は、腹を立てて、鏡に八つ当たりをした。
「だいたい、白雪姫は、どこ行ったんだよ。あいつがいねーと、豆腐が食えねーんだよ」
《朝食の準備をするのは、白雪姫の役目だったので、お妃様は、戻って来て欲しかったのです。別に、寂しいからとか、心配で、という理由ではありませんでした。チャラい上に、薄情なのです。魔法の鏡は、面倒くさくなってきたので、お妃様に一つだけ、アドバイスをしてやりました》
「白雪姫の居場所は知りませんが、森の奥に、豆腐好きの木こりがいます。名は、赤目守りと言うそうです。豆腐の事なら、何でも知っています。尋ねてみてはいかがでしょう」
「ああ?木こりだァ?ったく、何で、森の奥まで行かなきゃなんねーんだよ、かったりー」
木の葉は、行く前から匙を投げたが、鏡に怒られた。
「あなたが森へ行かないと、お話が先へ進まないから、早く行って下さい」
「はあー。ったく、分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」
木の葉が、なげやりに言うと、鏡は、満足げに言った。
「はい、そうして頂けると、大変助かります。私は、元々、森の配達屋ですからね。いつまでも、荷物を放っておくわけには、いきません。森の動物たちが、私を待っていますから。正直、いつまでも、あなたの相手をしている暇は、ありません」
《そういうわけで、お妃様は、いやいや森へ出掛けました。
一方その頃、白雪姫は、仲良しの木こりの家を訪ねていたのです》




