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「ルーヴェッフェンの第三王女殿下が?」

「視察にいらっしゃるのですか?」


 兄様の執務室に呼ばれた私とほのか様。兄様の言葉に私達は思わず顔を見合わせた。


「ああ、彼女はベルナールの学友らしくてな。彼に我が国の事情を色々と聞いて、実際に見てみたくなったらしい。こちらとしては断る理由もない」

「まあ……そうですわね」


 アデリア王国は辺り一帯では最も発展している国で、日頃から多くの視察、留学を受け入れている。もちろんルーヴェッフェンの第三王女の希望も受け入れるのが筋なのだが……


「ただ問題は、これが実質ほのかの初外交となることだな。前にほのかに言った通り、ルーヴェッフェンはただの小国ではない。クララもほのかをフォローしてやってほしい」

「はい、心得ております」 

「えぇ、もちろんですわ」


 陛下の言葉に私とほのか様は神妙に頷いた。陛下の言う通りルーヴェッフェンは規模こそ小さな国だが、『魔術の国』として独自の地位を築いている。


 国民のほとんどが魔術師で、魔術の研究も盛ん。その気になれば、1人で街1つ消し飛ばせる魔術師がゴロゴロいる国なのだ。


 幸い、かの国は優れた魔術を軍事方面に使う気はあまりないらしいが、それでも脅威は脅威だ。故にルーヴェッフェンといえば怒らせたくない国ナンバーワンの1つとして、昔から恐れられていた。


「それで兄様? 第三王女殿下はいつ頃いらっしゃるのですか?」

「あぁ、それが……2週間後だそうだ」

「ほ……ほとんど時間がないじゃないですか!? 兄様!」


 王族を迎え入れるとなればそれなりの準備がいる。どんな日程になるのか? と尋ねる私に兄様はやや疲れた表情で答える。兄様の返事を聞いて、私は思わず叫び声をあげるのだった。






 そこから2週間は、城中てんやわんやの日々を過ごした。それでもみんなの頑張りで、なんとか第三王女の到着までには万事を整えることが出来た。


「ルーヴェッフェン王国第三王女リーシアにございます。こたびは急な訪問を受け入れていただき感謝いたします」

「こちらこそ、遠路ようこそおいでくださった。アデリア王国、国王ルイスだ。我が国を代表してリーシア殿下を歓迎申し上げる」


 陛下がよく響く声でそう言うのに合わせて、私とほのか様も膝を深く折る礼をする。


 謁見の間を満たすのは厳かで静謐な空気。その後、陛下がほのか様と私を紹介し、続いてリーシア王女が随行の臣下を紹介する。


 一通りの紹介が終わり、ホッと一息ついた私。ところがそこでリーシア王女が発した言葉に、私は思わずピクリと眉を動かした。


「ところで陛下。ベルナール副魔術師団長はどちらへ?」

「ベルナールか。そういえば貴殿とは御学友だとか。本日はこの場に魔術師団長がいるため、ベルナールは警備の指揮に回っているのだが……彼に御用が?」

「いえ。ただ、久しぶりにまたお話が出来たらと。晩餐会の場に呼んでいただくことは?」

「ーーもちろん。ではベルナールも晩餐会に出席するよう手配をしよう」

「ご配慮感謝いたしますわ」


 流れるように決まる予定変更。もちろん懐かしい顔馴染みと話したい、という王女の気持ちはよく分かる。ベルナールからも第三王女に世話になった、という話は聞いていた。……とはいえ、それでもなにか特別な関係を匂わせる王女の素振りに、私の心はもやもやとどこか落ち着かなくなるのだった。






 そうして第三王女がいらして3日。私のもやもやは膨れ上がるばかりだった。なにせ第三王女が事あるごとにベルナールをエスコート役として指名するのだ。


「せっかくならよく知っている方に案内してもらいたいもの。ベルナールなら護衛としても適任だし」


 と言われれば、ベルナールとしても断るすべはない。昨日は城下の視察。一昨日は魔術師団の視察。


 ーー魔術が得意な王女様なら護衛なんていらないでしょう! なんてことを言うわけにもいかず、私はただもやもやを持て余していた。


「いくらベルナール様の御学友とはいえ、あの振る舞いはいかがでしょう。ねぇクララ様?」

「だいたい、この忙しい時期を狙ったようにいらっしゃらなくても良いと思いませんかーー」


「まあね……その通りだけど……仕方ないわ。あなた達にも世話をかけるわね」


 今夜は第三王女を歓迎するための舞踏会が開かれる日だ。舞踏会のためのドレスアップにはとかく時間がかかる。昼前から動いてくれている侍女たちには感謝だが、私自身は執務も出来ずちょっぴり手持ち無沙汰。思わず、第三王女の話題を口にすると、彼女たちも思うところがあるらしく、怒涛の愚痴が返ってきた。


 確かに彼女の言う通り、社交シーズン最終盤の今はなかなかに忙しい。もちろん私の誕生会は大きなイベントだし、その直前には魔術師団の魔術大会がある。その準備期間に国賓が来ては、彼女たちだってたまらなかろう。


「まあーー勿体ないお言葉にございます。ですが私達としてはむしろクララ様が心配にございます。それでなくても婚約者選びでお忙しいのにーー」

「えぇ、それなのにベルナール様ときたら婚約者の筆頭候補だと言うのにあの振る舞い! クララ様もガツンと言うべきでは?」

「……。ベ、ベルナールはまだただの候補者よ?」

「あらあら」

「そうでしたね、クララ様……」


 侍女たちの間でも、ベルナールの求婚者としての序列は上の方と認識されているらしい。もっとも昔から仕えてくれている彼女たちにとっては私の気持ちなどバレバレだろう。なんとも生暖かい視線が注がれる。


「とにかくーーベルナールは現状1候補に過ぎないし、第三王女殿下は国賓だわ。よそで滅多なことは言わないようにね」

「はい、クララ様」

「肝に命じますわ」


 侍女としてベテランの彼女たちは、時と場合というものをしっかり弁えてはいるはずだが、一応窘めておく。すると、キリリとした返事が返り、それから彼女たちはまた私のドレスアップに戻るのだった。



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