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【27】ロイヤルガード隊長、クロノス

 一概に『魔王』と言っても、その能力や戦闘力は様々で、全く同じ個体というのは存在しない。


 それは魔貴族も同様で、まるで人間の様に一体一体違いがあり、個性に溢れている。


 『魔王』の中でも、一番の個体差が出るのは、その魔力や戦闘能力で──


 例えば、グレンが討伐した『不死の魔王』やユランが討伐した『蹂躙の魔王』などは、比較的弱い個体で低位……


 皇級聖剣の主であれば、単独撃破が可能な相手である。


 ジェミニは『不死の魔王』に対して惨敗したが、あれは能力の相性が悪かったからで、相性次第では、皇級聖剣士単独でも十分に討伐が可能な相手であったはずだ。


 逆に、ミュンとリネアが討伐した『不浄の魔王』などは、中位程度の強さを持っており……


 中位(これ)に対するとするならば、『抜剣レベル』によるだろうが、少なくとも皇級聖剣士2人程度の戦力が必要になるだろう。


 では、いわゆる〝強い個体〟──上位の魔王が相手だとすると、どうなるのだろうか……。


 答えは簡単。


 〝王国にいる皇級聖剣士では倒せない〟と言うのが正解だ。


 ……いや、そういう言い方をすると語弊があるかもしれない。


 より正確に言うとするならば、〝皇級聖剣士が10人も集まれば討伐は可能〟である。


 しかし、王国に存在する皇級聖剣士が10人に満たないと言う現状から考えれば……実質、皇級聖剣での討伐は不可能と言う事になる。


 まあ、少人数では倒せないと言っても、それは真正面から馬鹿正直に力比べをした場合で──


 しっかりと作戦を立てて挑めば、少数でも『上位の魔王』に勝利する事も十分可能であるかもしれない……。


 皇級聖剣とは『王の力』を持つ聖剣──そのくらいのポテンシャルは秘めている。


         *


 「あぁぁぁぁ!!」


 ジェミニが雄叫びに近い唸り声をあげ、眼前の敵に突進する。

 

 目の前にいるのは、間違いなく『魔王』。


 それも、中位以上……。


 上位に近い戦闘力を持った『魔王』だ。


 相手が放つ圧倒的なプレッシャーが、それを如実に物語っていた。


 ジェミニが『抜剣』の加護を得て放つ渾身の一撃は、魔貴族の影の盾を容易に貫き、下位の魔王相手なら一撃で致命傷を与えるほどの威力を持つ。

 

 ジェミニとて、『不死の魔王』に敗れてから、今まで遊んで暮らして来た訳ではない。


 努力の末、『抜剣』もレベル5に到達している。


 しかし──


 ガウンッ!


 ジェミニの、決死の覚悟で挑んだはずの一撃は、魔王の身体に触れる事もできずに──


 見えない何かに、(いと)も簡単に弾かれた。


 「穿て! 穿て! 穿て! ここで貫けぬなら、余は今まで何のために……」


 ガウンッ!


 ガウンッ!


 ガウンッ!


 何度攻撃を仕掛けても、一向に魔王の身体には届かない。


 それどころか──


 『君がこの国の王様? 冴えないただのオジサンだね』


 その魔王は、目の前で自分に攻撃を仕掛けてくるジェミニを完全に無視し、アーネストの方を見ていた。


 まるで眼中に無し。


 煩わしいとすら思っていない様子だった。


 「そ、そんな馬鹿な事が……。ジェミニ様でも、まるで歯が立たないなんて……」


 大広間に集った貴族の一人が、絶望した表情でそう口にした。


 ここに居並ぶ他の貴族たちも、動揺が隠せず、恐怖から皆カタカタと身を震わせている。


 それは、王を守護する精鋭──ロイヤルガードの面々も同じだ。


 「彼奴が、キャスの言っていた〝王国の危機〟か……。なるほど、確かにとんでもない強敵の様だな……」


 アーネストはそう言うと、聖剣の柄を握る。


 『お、ヤルのかい?』


 連続して攻撃を仕掛けているジェミニを無視し、その魔王は、アーネストが戦う意志を見せた事に対して嬉しそうに笑う。


 アーネストが、『抜剣』を発動させようとしたそのとき──


 「やめておけ、兄者」


 それまで、押し黙って状況を傍観していたロイヤルガード隊長クロノスが、アーネストを静止した。


 「戦いから離れて久しいだろう。それではまともに戦えんぞ。それに、アレはかなりの強敵──マトモに戦えん兄者は足手纏いだ」


 コッ コッ コッ


 クロノスは、アーネストにそう言い残し、今だに狂った様に攻撃を仕掛けているジェミニに無造作に近付いていく。


 そして──


 グイッ──……


 ジェミニの襟首を掴むと、そのまま後方に引き倒した。


 ジェミニは不意を突かれ、床に尻餅を付く。


 そんな状態にあっても聖剣を離さないのは、流石ジェミニと言った所か……。


 「……叔父上」


 「熱くなりすぎだ。頭を冷やせ」


 クロノスはそう言ってジェミニを嗜めると、改めて魔王に向き直る。


 「先程から反撃せずに黙って見ているのは、余裕の表れか? 余程、自分の強さに自信があるらしい」

 

 『ん? 俺に言ってるの? まあ、君の言う通り俺は強いからね。何でも好きにやると良い。見逃してあげるから』


 「……ならばそうしよう」


 クロノスはそう言うと──


 『抜剣レベル5── 『剣舞』を発動──使用可能時間は50分です──カウント開始』


 『抜剣術』を発動させた。


 『抜剣術』が発動された瞬間、クロノスの周を囲む様に、4本の巨大な──成人男性の身の丈ほどもある宝剣が出現する。


 宝剣の出現を確認した後、クロノスは、大広間に居並ぶ者たちに向かって叫んだ。


 「各々、自分の役割を果たせ! 先ずは、目の前の敵を殲滅する! これは正々堂々の戦いではない! 全員でかかるぞ!」


 クロノスの怒号に近い声に、大広間に居並ぶ面々は、一度だけビクリと身体を震わせ──


 覚悟を決めた顔付きになり、戦闘体制を取った。


 『えー、全員で来るつもり? ざっと見ても40人くらい居るよね? 俺は一人なのに、ひっどいなあ』


 魔王はそんな状況になっても、少しも焦った様子を見せず──


 ゆっくりと、右手を上に掲げた。


 『君らくらいなら、俺一人でも問題なく鏖殺出来るけど……流石にめんどい。と言う事で、ウェルカムですよお前たち』


 魔王がそう言った瞬間、魔王の後方に黒い扉がいくつも出現し──


 その全てが一斉に、バタンと音を立てて、開いた。

 

 すると、その中から、

 

 魔貴族らしき魔族が、10体ほど現れる。


 それだけならば、ここに集まった者たちもむしろ奮起して戦いに挑んだだろう。


 しかし、クロノスを除く全ての者が、〝ソレ〟を見て完全に戦意を喪失した。


 20人以上いる大貴族たち──


 その半数ではあるが、精鋭揃いのロイヤルガードたち──


 皇級聖剣士であるジェミニ──


 そして、国王であるアーネスト──


 その、居並ぶ全ての者たちを絶望させたのは……


 魔貴族の後に扉から現れた、たった2体の魔族の存在だった。


 異常なほど、膨れ上がった魔力を持つ魔族──


 間違いなく『魔王』クラス……


 それも、魔力量から言って、中位程度の強さを持っている事は間違いなかった。


 ここに来て、魔貴族10体と魔王が2体……


 全員を絶望させるには、十分な相手だっ

た……。


         *


 「……チッ」


 あまりの状況の悪さに、クロノスは苛立った様子で舌打ちする。


 「怯むな! どの道、コイツらを何とかしなければ……王国が滅ぶぞ」


 クロノスは、恐怖に足が竦んでいる一同を叱咤するが、もう、誰もクロノスの言葉など聞いていなかった。


 いや、皆頭の中が真っ白で、聞き取れていなかったと言うのが正しい……。


 『驚いたかな? 俺は『空間魔術』が得意なんだー。凄いでしょ? カッコいいでしょ?』


 おどけた様に言う魔王の言葉に、召喚された2体の魔王たちが反応する。


 『さすがさずが……。尊敬』


 『うんうん、私たち魔王は基本的に群れて行動しないけど……その凄さなら、アタシも納得』


 先に反応したのが、大柄な体躯の魔王。


 そして、後から反応したのが女性型の魔王だ。


 『おお、そうだ。このまま戦っても、俺たちが勝つのは目に見えてるし……それじゃあ、つまんないよね? 君らにチャンスをあげる』


 上位の魔王はそう言うと、クロノスを見てニヤリと笑う。


 『そこの、やる気満々の君が俺に勝ったら、〝俺とここにいる者たち〟はこの国から手を引こう。一対一の真剣勝負だよ! 君ら人間は、そう言うの好きだよね?』


 まるで、ゲームでも楽しむかの様に、上位の魔王はクロノスにそんな条件を出す。


 所詮は魔族の言う事……信用など出来るはずはないが──


 「……いいだろう」


 その条件を飲むクロノス。


 と言うよりも、現状を打破するためには、クロノスがその条件を飲むしかない。


 飲むしかないのなら、あれやこれやと考えを巡らせても時間の無駄。


 ……まあ、クロノスが勝利しても、魔王が約束を守る保証は無いのだが……やるしか道はない。


 『──使用限界まで残り40分です』


 「さっさとやろう。こちらにはあまり時間がない」


 そう言って、クロノスは上位の魔王から大きく距離を取り──


 近くにいたロイヤルガードの一人に、密かに耳打ちする。


 「おい。お前は、戦いが始まったら密かにここを出て、アリエスとレオを連れてこい。いや……今更、皇級が多少増えたところで変わらんか……。アイツらには事態を伝えるだけでいい。それよりも、グレン・リアーネを連れて来い。それで解決する」


 などと、こっそりと指示を伝えていたが──


 『コソコソしなくてもいいよん。誰でも好きに呼んできたら? 俺は、グレン・リアーネの噂なんて信じてないんだ。何が『グレン・リアーネがいる王国には手を出すな』だよ。そんなに強い奴なら、逆に戦ってみたいね。と言う事で、行きたいなら好きにどうぞ。ただし、一人だけね。獲物が減るのは嫌だし』


 上位の魔王はそんな事を言い出した。


 その言葉を受け、ロイヤルガードの一人は大広間を後にしたのだった。


         *


 『さあ、いつでもどうぞ!』


 上位の魔王は、クロノスにハグでも要求する様に無造作に両手を広げた。


 完全にクロノスを舐めている。


 それも当然。


 同じ『皇級レベル5』であるジェミニが、まるで歯が立たなかった相手なのだから……。


 「叔父上!」


 「クロノス!」


 『勝機の無い一騎打ち』に挑もうとするクロノスを心配してか、ジェミニとアーネストが、ほぼ同時に声を上げる。


 「……」


 クロノスは『心配ない』と言う意味を込めて、左手を軽く上げた。


 そして、その左手を下げ、サブウェポンを引き抜くと──


 一足飛びに、上位の魔王に突撃した。


 そのまま切り掛かっても、上位の魔王の張った防壁に攻撃が阻まれてしまうのはジェミニのときに実証済みだ。


 それでも、クロノスは無謀な突進を止めない。


 その理由は──


 クロノスは、上位の魔王の眼前まで迫ると、周りに浮いていた4本の宝剣の内の一つに指示を出す。


 『──宝剣のIは防壁を切断する──』


 クロノスがそう指示を出した瞬間、宝剣が一人でに動き出し、上位の魔王に向かって切り掛かる。


 そして──


 バリンッ!!


 宝剣の刃が、上位の魔王の防壁を難なく切断した。


         *


 クロノスの抜剣レベル5『剣舞』の効果は、使用者の周辺に4本の宝剣を召喚すると言うものだ。


 この宝剣は、使用者の周りを着いて離れず、使用者が指示を出した時のみ、指示通りに動く。


 この宝剣は、ただの物理攻撃を行うための剣ではなく──


 〝条件を出した対象のみ〟を切断するための剣である。


 4本の宝剣それぞれに、別々の対象を選ぶ事ができるが、最初に決めた対象を変更する事は出来ず、選んだ対象しか切断する事ができない。


 さらに、選ぶ対象はかなり限定したものでなくてはならず、『敵を切断』など、抽象的な対象を選んでしまうと、ペナルティもある。


 対象を切断できるかどうかは、使用者の技量に依存する。


 例えば『首を切断』などの様に、限定した対象を選んだとしても、相手が強すぎれば切断出来ず、〝切断出来ないものを選択した〟とみなされ、ペナルティが発生する。


 そして、そのペナルティとは──


         *


 「よし!」


 クロノスは、上位の魔王の防壁が切断され、消滅するのを確認すると、次なる行動に移った。


 『──宝剣のIIは左腕を切断する──』


 クロノスの指示で、防壁を切断したものとは別の宝剣が動き出し、上位の魔王の左腕に切り掛かった。


 しかし──


 バギィ!!


 激しい破砕音を立てて、宝剣が粉々に砕け散る。


 これがペナルティ。


 『切断出来ぬものを切ってしまった』宝剣は、粉々に砕け、抜剣を再発動するまでは復活する事はない。


 「ち……。腕すらも切断出来ぬか。どうしたものかな……」


 残る宝剣は3本……。


 クロノスは、勝機を見出せずにいた。

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