【25】ユラン参上
「アリエス様! こちらです!」
アーネスト王国第四王女、アリエスを護る役目を担う近衛兵の一人がそう叫んだ。
アリエスは今、王城内の自分が暮らす宮殿──白羊宮から聖剣士たちが駐留する本城を目指していた。
近衛兵から、『本城が魔族の襲撃を受けている』との報告を受けたからだ。
「魔族の数はどのくらいなんだい?」
本城への道を急ぎながらも、アリエスは現状を把握しようと近衛兵に問うた。
「正確な数は判明していませんが、少なくとも、魔貴族が数体はいるそうです」
魔貴族?
魔貴族程度の敵が、王城を攻めていると言うのか?
王城内にはジェミニ姉さんやレオ兄さん……ロイヤルガードだっているのに、無謀すぎないか?
アリエスの頭の中に、そんな疑問が幾つも浮かんだ。
「ジェミニ姉さんや、レオ兄さんはどこにいるのかな? ロイヤルガードたちは?」
「ジェミニ様は城内で魔族と交戦中。ロイヤルガードもクロノス隊長を含めてメンバー全てがジェミニ様に付き従っています。レオ様は……城内にいる戦えない者を逃すため、避難誘導に従事しています」
「レオ兄さんは相変わらずだね……。それにしても、やはりおかしな事だらけだ」
アリエスの言う通り、城内にはアリエスを含め、
第一王女ジェミニ
第二王子レオ
ロイヤルガード隊長クロノス
国王アーネスト
皇級聖剣士が5人もおり、さらにロイヤルガードの様な優秀な聖剣士も揃っている。
魔貴族だけで王城を攻め落とすなど到底不可能であるため、アリエスにとっては魔族の行動が不可解な事この上ない。
無意味な行動としか思えないのだ。
アリエスには、アリシアのサーチによって齎された情報がない。
魔族の中に『魔王』が含まれている事を知らないのだ。
まあ、『魔王』が一体増えたとしても、先ほど上げた戦力があれば難なく迎撃出来るだろうが……。
「父様は戦いから離れて久しいから、戦力にはならないだろうけど……。ジェミニ姉さんだけでも十分対処できそうだね」
「ならば、レオ様の補助に向かいますか?」
「……いや。ボクの『抜剣術』が役に立つかもしれないからね。ジェミニ姉さんたちの所に向かおう」
アリエスが。近衛兵の一人とそんなやり取りをしていると──
アリエスたちは本城の庭園、ジェミニたちが交戦中の大広間の前までたどり着いていた。
そして、大広間の出入口に向かおうとしたとき──
『おお、アリが一匹紛れ込んできましたね』
アリエスたちの前に突然、長身の男が現れた。
「……魔貴族か」
男の姿を見た瞬間、アリエスがそう呟く。
傍目には人間の男にしか見えないが、感知能力に優れるアリエスは男の正体をすぐに看破した。
『その通り。私は魔貴族のソーン……。以後お見知り置きを』
「魔貴族なんかを知り置きたくはないけど……ねえ君、そこを退いてくれないかな?」
アリエスは冗談めかして言うが、魔貴族のソーンは──
『誰も通さない様に言われてるので……。まあ、さっさと死んでくださいな』
聞く耳持たないと言った様子で、アリエスに攻撃を仕掛けようとする。
アリエスの周りには近衛兵が三人……
魔貴族相手に、この三人は戦力として期待出来ないだろう。
実は、アリエスの近衛兵の中には高い戦力を持つ者が一人もいない。
それは、アリエスが
『強い力を持ってしまえば、ジェミニ姉さんやレオ兄さんに〝野心あり〟と勘違いされてしまう可能性がある』
となる事を恐れたためで、アリエスは敢えて自分の周りを〝必要以上の力を持たない者〟で固めていた。
近衛兵が戦力として当てにならないなら、皇級聖剣を持つアリエスならどうだろうか。
皇級聖剣は『魔王』すら相手取れると言われる聖剣である。
魔貴族が相手でも難なく迎撃出来るだろう。
しかし──
「ちょっとストップ!」
アリエスは、今まさに攻撃を仕掛けようとする魔貴族ソーンを、〝言葉で〟止めた。
『……何故、止めなければならないのですか? 命乞いでもしますか?』
「ボクは頭脳労働者なんだ。戦闘はからっきし。『抜剣術』も戦闘向きではないし。だから、見逃して欲しいんだけど……だめかな?」
『──死になさい』
魔貴族ソーンは『時間の無駄だ』と言わんばかりに、アリエスの言う事に聞く耳を持たず、攻撃を仕掛けた。
「だめか。こんな所で死ぬわけにはいかないのに……」
アリエスが、本気で死を覚悟したそのとき──
『アクセル』
そんな声がアリエスの耳に届いた。
『!?』
そして、魔貴族ソーンが「あっ」と驚く間もなく、
一撃で
魔貴族ソーンの首が胴体から離れた。
「ふー……」
長いため息を吐き、土煙を上げながらアリエスの前に現れたのは──
サブウェポンを構えるユランだった……。




