表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/153

【18】ミュン&リネア 開戦前

 リリアの指示通り、ミュンたちは繁華街を訪れ、そこに潜入したであろう魔王を探していた。


 聖剣教会の信徒たちに事情を話し、避難指示を出し終わったアリシアも同行している。


 アリシアは聖女の資格を持つ者……


 『回復』の神聖術なども得意なため、怪我人を救助するため各所を回るつもりで、手始めにミュンたちに同行していた。


 それが、ノノにとっては〝不幸中の幸い〟だったと言えるだろう……。


 「アリー、早速で悪いけど……何とか出来そう?」


 『不浄の魔王』を吹き飛ばしたミュンは、床に倒れたまま僅かに痙攣しているノノにチラリと視線を向け、アリシアに問う。


 そう言っている間にも、すかさずサブウェポンを引き抜き、警戒体制を取った。


 目線は、飛んで行った『不浄の魔王』の方に向けたままだ。


 そんなミュンの問いに、アリシアは、


 「うん、それは大丈夫だよ。心臓を綺麗に抜き取られてるのが幸いしたね……。身体が〝死に気付く〟のに時間が掛かってるみたいだし……」


 そう返答しながら、ノノの身体に『回復』の神聖術を施していく。


 「ただ、無くなった心臓を一から再生しないといけないし、並行して生命維持の『回復術』をかけ続けないといけないから……それなりに時間がかかるよ? その間、姉さんたちの補助もできないし……この()を助ける事ってそんなに重要?」


 純粋な疑問だったのだろう。


 人類の救い主……〝聖女〟らしからぬ発言だが、アリシアは、「(ミュンたち)を補助するために(ノノ)を見捨てるべき」と暗に言っているのだ。


 アリシアは、〝身内〟に対して無条件に天秤が傾く傾向にあり、〝他人〟に対しての優先度が著しく低い。


 わかり易くいえば、アリシアの中での優先順位は、


 身内>(越えられない壁)他人>自分


 と言った感じだ。


 「アリーの考え方を否定するつもりはないけど……今は、お願い」


 普段はユラン絡みの事で、おちゃらけてばかりのミュンの真剣な様子に、アリシアも渋々といった様子で、


 「姉さんたちがピンチになったら、すぐに中断するからね」


 と、〝実質上〟ノノを見捨てる宣言をした。


 何故、そうなるのかと言うと──


 『痛くは無いけど、酷いなぁ……。大事な一張羅が汚れたじゃないか』

 

 『魔王』相手に、ミュンでは太刀打ちできないと分かっているからだ……。


 『不浄の魔王』は、ミュンの開口一番の強打に対して、まるでダメージを受けてておらず平然と歩いてくる。


 それどころか、既に薄汚れてボロボロの衣服が、さらに傷んでしまう事を心配していた。


 ミュンたちなど、歯牙にもかけていない様子だ……。


 「私が時間を稼ぐから、リネアは『抜剣術』の準備をお願い……。この戦いは、貴方の『特級聖剣』の力にかかってるんだから」


 ミュンの言う通り、ミュンが持つ『貴級聖剣』では『魔王』クラスの魔族にダメージを与える事は出来ない。


 抜剣レベルが相当に高ければ話は別だが……現在のミュンは『レベル4』。


 結果は言うまでもない。


 ただ、リネアの『特級聖剣』は、レベル4以上の『抜剣』さえ可能ならば、威力は『神級聖剣』並である。


 勝機は十分にあると言えるだろう。


 ……あくまで『抜剣』できればの話ではあるが。


         *


 リネアの『特級聖剣』の『抜剣(レベル4以上)』発動には、特別な〝三つの条件〟が必要となる。


 1……相手から明確な敵意を向けられる事


 2……1の条件を満たした状態で、レベル3までの『抜剣』を使用せずに、聖剣の柄を握り続ける事


 3……1、2の条件を満たした状態で、規定時間経過する事


 これらを、全て完璧に満たさなければ発動できない。

 

 さらに、準備段階で発動する抜剣レベルを選択する必要があるため、途中で用途に応じて『抜剣』を切り替えることも出来ないと言う……何とも使い勝手の悪い『抜剣』であった。


 しかし、今の状況下ではそこにしか勝機を見出せないため、無茶だとしてもミュンたちはリネアの『抜剣』に賭けるしかなかったのだ。


         *


 「ミュンが旦那様ユラン以外の事で……ここまで怒るなんて。私は感動した。一寸の虫……いや、〝一介の変態にも五分の魂〟……。幼馴染として、全力で力を貸す」


 「……アンタ、後で覚えてなさいよ」


 『魔王』を目の前にしてそんな事を言い出すリネアの胆力も凄いが、ミュンもそれにキッチリと言い返していた。


 この二人にとっては、リリアが感じた『戦いを前にして緊張』などと言う感情とは無縁なのだろう……。


 「じゃあさっそく……。ミュン、後は任せた。私を護ってね」


 「きゅるるん」と効果音が出そうなほど、媚び媚びの笑みを浮かべ、リネアが言う。


 「……」

 

 ミュンは、心底嫌そうな様子で顔を顰めるが、


 『やる事はキッチリやる』


 と言った様子で、リネアを背にして『魔王』と対峙した。


 すると、リネアはすかさず──


 「へい! そこのダサい格好の男の人! センスないね! お母さんに買ってもらったの?」


 『不浄の魔王』に対して、そんな事を叫んだ。


 自分に敵意(ヘイト)を向けるための発言だが……。


 「アンタ……それって、まさか悪口のつもりなの? 相手は『魔王』よ。そんな安い挑発に乗る訳が──」


 ミュンがリネアの発言に、呆れた様に言うが──


 『この格好のどこがダサいんだごらぁ! ボロボロだけど、遠い昔にママに買ってもらった大事な服だぞ!!』


 『不浄の魔王』が涙目で叫び返した。


 「乗っちゃったよ。それに、本当にお母さんに買ってもらったんだ……。ていうか、『魔王』にお母さんなんているの?」


 「ふふ……。相手の痛いところを的確に突く。計算通り……V(ブイ)だね」


 「絶対に偶然でしょ……」


 ミュンとリネアがそんなやり取りをしていると、突然、リネアの聖剣から無機質な声が響く。


 『条件が整いました──抜剣の使用レベルを選択してください』


 「レベル4」

 

 リネアが聖剣の声に、そう返答すると、無機質な声は続ける。


 『承認──レベル4使用可能まで──30分です──カウント開始』


 そう言った以降、リネアの聖剣は何も発する事はなく押し黙った。


 ただ、聖剣全体が、淡い金色の光を放っている。

 

 『てめぇら、俺のアイデンティティでもあるこの服を馬鹿にしやがって……。絶対に許さねぇ』


 さっきまでの落ち着いた様子は形を潜め、『不浄の魔王』の口調は荒々しく、粗暴なものに変わっていた。


 「いやいや、馬鹿にしたのはリネアでしょう。私は良いと思うわよ? お母さんに買ってもらった……ぶふぉ! ……おほん。その一張羅」


 『ぶっ殺す』


 『不浄の魔王』は、怒り心頭に発するといった様子で、右手を天に掲げて叫んだ。


 『ゴードン! シルバリエ! ここに来て、こいつらを殺せ!!』


 ズゥン!


 『不浄の魔王』の叫びと共に、天空から二つの影が降り立った。


 その衝撃で地面が砕け、大きなクレーターの状のクボミができる。


 「なに……コイツら……」


 そこに立っていたのは──


 〝全身金色の大男〟と、〝全身銀色の痩身の女性〟であった。


 『コイツらは俺の眷属だ! テメェらを殺すな! 俺が出るまでもねぇ!』


 『不浄の魔王』がそう宣言すると、それに応える様に、金ピカの大男と銀ピカの女性は──


 【おやおや、主殿……。この様な人間臭い場所に我々をお呼びになるか】


 【まったく、まったく……。人間が放つ悪臭は美容に良くないと言うのに……】


 金ピカ──ゴードンは、鼻をつまみながら……


 銀ピカ──シルバリエは、頬に手を当てながら答えた。


 「眷属って事は……〝魔物〟って事よね? 何で普通に喋ってるの? 知性があるって事?」


 事の重大さに、一番最初に気付いたのはミュン。


 ミュンの頬に一筋、タラリと汗が伝った。


 『俺は、他の『魔王(バカ)共』とは違う。〝雑魚〟を量産なんてしねぇ……。やるなら、目一杯力を込めた〝最強の眷属〟だ。こんな器用な事、出来る奴は少ねぇけどな』


 自慢気にそう語る『不浄の魔王』に、ミュンの後ろで、それを聞いていたリネアが言う。


 「あれだけ怒っておいて……手下に任せるなんて……。格好だけじゃなくて──」


 バッっと、ミュンが手を差し向けて、リネアの発言を遮る。


 「リネア、これ以上『魔王(ヤツ)』を挑発しないで」


 ミュンは、腰を低くして『抜剣』の体勢をとる。


 「あの魔物……恐ろしく強いわ。多分、私よりもずっと……。これ以上何かされたら、本当に手がなくなる……」


 このとき、ミュンは初めて焦った様な表情を見せるのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ