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【11】王都に近付く影

 アーネスト王国の領地の最北端にある、ファルスの大平原。


 そこから南──王都のある方角に抜けると、綺麗に舗装された街道に出る。


 この街道は、王都へ続く最短の道で、魔物の出現も極端に少ないため、多くの商人や旅人が利用する街道だ。


 王都へと至るまでには、いくつかの街や関所などもきちんと設けられており、王都に近付くにつれて警備体制も厳重になっていく。


 「セリオス様。一番目の関所に到着しました」


 馬車の荷台に寝転び、天井を見上げていた聖人──セリオスは、従者らしき男がそう声を掛けてきた事に反応して身を起こす。


 「ああ、そうなんだね。それで、通れそうなのかい?」


 「……いえ、四年前にファルスで『死の魔王』なる〝小物〟が暴れたらしく……そこから警備が強化された様です」


 「王都から、一番遠い関所なのにかい? ご苦労な事だね」


 従者らしき男から報告を受けたセリオスは、馬車の荷台から降りて、関所の方に近付いていく。


 「セ、セリオス様……。あまり近付いては、貴方の姿を見られてしまう恐れが……」


 「フードを被っているし、大丈夫さ。それに、僕の存在が知られたところで何の問題もないよ」


 男の忠告を無視し、セリオスは関所の門──固く閉ざされた鋼鉄製の門に、右手で触れる。


 よく見れば門だけでなく、内と外を隔てる関所の壁も、分厚い石造りで強固……それが地の果てまで続いていた。


 不審者の侵入どころか、大型の魔物ですら侵入を許さない堅固な外壁だ。


 「おい、貴様何者だ! その手を離せ!!」


 セリオスの無遠慮な振る舞いに、門番の男が二人、苛立たしげにセリオスに近付いて行く。


 王都から最も遠い関所とはいえ、無頼の徒の侵入を防ぐための場所だ。


 門番も、それなりの猛者が担っている。


 筋骨隆々といった感じの門番たちは、見るからに優男なセリオスを恐れる事なく、無防備に近付く。


 「離せと言っているのがわから──」


 「無闇に触れない方がいい。〝子供たち〟よ……」


 門番の手がセリオスに触れようとした瞬間、その手が既の所でピタリと止まる。


 「……あ」


 セリオスの瞳が金色に輝き、その瞳で見つめられた門番たちは……セリオスから目が離せなくなった。


 そして、次第に魂が抜けたかの様に呆けた顔になり、虚空を見上げたままで静止する。


 「僕たちを通してくれるかい?」


 セリオスがそう言うと、門番たちは──


 「「はい……」」


 と、ほとんど同時に返事を返し、左右に避けて門前を開けた。


 セリオスは門番たちの動きを見て、満足気に頷くと、門に置いた右手に、軽く力を込め──


 バンッ!!


 木製の小扉を開く様な軽快な音を立て、〝鋼鉄製〟の扉が最も簡単に開く。


 本来であれば、数人掛かりでやっと開く事ができるほど堅固な扉をだ。


 「さあ、通ろうか……。ああ、僕たちが通った後は、君らの好きにしていいからね」


 「「……はい」」


 依然、呆けたままで気のない返事を返す門番たち。


 ……この門番たちは、セリオスたちをむざむざ通した事実に気付く事もなく、そのまま日々の職務をこなすのだろう。


         *


 正規のルートを通り、ゆっくりと歩みを進めるセリオスたちとは逆に、魔剣士──ソリッドは、道なき道を進んでいた。

 

 ソリッドが、セリオスたちの動きを警戒しつつ、見つからぬ様に離れた道を選択しているからだ。


 「やはり、骨が折れますね……」


 平原を走り抜け、小川を飛び越え、はたまた崖を乗り越えて、強引に王都への道を進んでいく。


 これでは、時間が掛かり過ぎる……。


 セリオスたちが牛の歩みだったとしても、このままでは、一足先に王都に着けるかどうか……。


 だが、セリオスに無闇に近付いて、再び鎖で拘束されれば今のソリッドに抜け出す術はない。


 「あんな化け物……例え神人だとしても、どうにかなるモノなんですかねぇ」


 セリオスとグレン──その両方と戦闘経験のあるソリッドは、二人の戦力を分析し勝敗を予想しようとしていた。


 しかし、冷静に考えればソリッドとの戦闘において、その両者はまるで本気を出していない。


 ソリッドはその戦闘で、両者が「底知れない強さを秘めている」程度の事しかわからなかったため、考えるだけ無駄だと頭を振った。


 「まあ、〝彼〟を信じるしかないのでしょうが……。『魔剣』に魅入られてまで、人間のために動くなんて思いませんでしたよ。これも、〝姫様〟のためと割り切るしかないのでしょうね」


 聞いている者もいないというのに、ソリッドは愚痴めいた言葉を呟く。


 そして、


 ガサ ガサ ガサ──……


 ソリッドが、ある小さな森を突っ切ろうとしたとき、そんな音が耳に届いたかと思えば──〝巨大な魔物〟が数体、ソリッドの前に立ちはだかった。


 どうやら、この小さな森は〝野生の魔物〟の生息地になっている様だ。


 この世界においては、自然発生した魔物──いわゆる〝野生の魔物〟というのは、存在自体が珍しい。


 本来、魔物というのは『魔貴族』や『魔王』が使役する眷属的なモノで、意図的に生み出される存在だからだ。


 ただ、力を持った魔族……例えば『魔王』などが死亡した際に、残留した魔力が原因で発生する〝瘴土〟……


 これによって自然発生した魔物が繁殖を繰り返し、群れを作る事も稀にだが起こる。

 

 この森は、そういう場所なのだろう……。


 「急いでいるというのに、たかが上級種の魔物のごときが……。まったく、面倒ですね。同じ〝闇の創造神へドゥン〟の加護を受けているというのに、私に敵対しますか。所詮、知能も持たぬ低俗な存在という事ですね」


 そう、吐き捨てるように言うと、ソリッドはサブウェポンを鞘から引き抜く。


 「体力の消耗を考えれば、『抜剣術』は使えない……。まったく、面倒だ」


 面倒、面倒、と繰り返すソリッドだったが……戦闘を開始しようとする際に見せた表情は、


 何故か、楽し気に歪んでいた。


         *


 「古き友(ソリッド卿)は無事に、〝束縛〟から抜け出たようだね……」


 第一の関所を抜けた後、セリオスは再び馬車の荷台に寝転び、片目を閉じて天井を見上げていた。


 セリオスの閉じられた黄金の瞳は、遠く離れた場所で魔物と対峙するソリッド姿を正確に捉えている。


 いわゆる、千里眼──遠視の瞳。


 セリオスの黄金の瞳は、様々な特殊能力を発現する〝聖眼(せいがん)〟と呼ばれる特別な瞳だ。


 「放っておいて、よろしいのですか?」


 セリオスの隣に控えていた男──黒色のローブを纏い、口布で顔を隠した男が言う。


 声の感じから、年齢は若い男の様だった。


 「ふふ。そのために、『わざと緩めに〝拘束〟』したんだ。それくらいやってもらわなければ、〝僕の物語〟に絡む資格はないからね」


 セリオスは、閉じていた瞳を開け、〝遠視の眼〟を解除すると──楽し気に笑う。


 「貴方の〝物語〟ですか……。王都の中心でバル・ナーグの封印を解くなどと……本当に良いのでしょうか?」


 「今更、良心の呵責に苛まれているのかい? 『王国貴族に復讐したい』と言い出したのは君たちだろうに。僕はただの〝協力者〟に過ぎない……。楽しそうだから君たちに協力したんだ。その事を忘れてないかい?」

 

 「いえ、ただ我々は、誰彼構わず殺してしまいたいと考えている訳では……」


 ローブの男は、バル・ナーグを王都で復活させる事に難色を示している様だった。


 その事から、王都でのバル・ナーグの復活は、セリオス独自の考えである事がわかる。


 「だからこそのソリッド卿だろう? 彼が、王都に差し迫る危機を伝えてくれるはずだ。そうしたら、少なくとも市民は街から避難するはずじゃないかな? 街を守る、貴族たち(聖剣士)はそうもいかないだろうけどね……」


 「はあ、そう上手くいきますかね?」


 セリオスの考えに、ローブの男は半信半疑といった様子だ。


 そんな、ローブの男の様子に──


 「別に、失敗しても良いんじゃない? 生き残るチャンスは与えた訳だし……それで死んでしまったら、彼らがそれだけの存在だったと言う事だよ。これも、〝子供たち〟に与える〝試練〟だ」


 「……試練」


 聖人セリオスは、まるで自分が──〝人間に試練を与える神〟であるかの様に……簡単に人間を切り捨てる発言をする。


 人々の平穏な暮らしを、無理矢理に乱そうとしているにも関わらず、それが〝試練〟だと平気で語るのだ。


 「そうだ。試練と言えば──他の 魔族(やくしゃ)には声を掛けてあるんだろう?」


 「滞りなく……。難色を示す者もいましたが、従わぬ者は始末しました」


 「いいね。王都(あちら)には神人が複数いる。〝並の魔族〟では相手にならないだろうけど、頭数がいればそれなりに勝負ができるだろう」


 「レベル(シックス)はどうなさるおつもりで? あれだけは、我々ではどうする事も……」


 「6星の相手は僕が引き受けよう。と言うよりも、そうするより他ないだろうからね」


 セリオスたちは、そんなを会話を交わしつつ、王都への道を進んでいく。


 ──歩みは遅くとも、阻むものはない。


 その歩みは、着実に王都に近付いていた……。

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