【3】 聖剣鑑定 受けず
未だに記憶の混乱はあったが、ユランは何故か未来の記憶を得ていた。
未来の記憶……。
〝回帰前〟の記憶だ……。
(未来予知──にしては具体的すぎるし、すでに体験し終わった様な感覚……どうやら私は過去に戻って来たらしい)
ユランはそう結論づけた。
自分に起こった現象を上手く説明できながったが、これから起こる事の記憶がはっきり頭に残っている。
「ユ、ユランくん……そろそろ離してほしいな……」
ユランに抱き締められたままだったミュンが、顔を真っ赤にしたまま、消え入りそうな声でそう言った。
「あ! ご、ごめん」
ユランは慌ててミュンの身体を離す。
回帰前……忘れかけていた少女の顔を思い出し、嬉しくてつい抱き付いてしまったのだ。
「皆さん、聖剣は授与されましたね」
そんなやりとりをユランたちがしている間にも、『聖剣授与式』は普通に進められていた様で、神官が授与式の終わりを宣言する。
「これより『聖剣鑑定』の儀式を行います。希望者は別室へ移動してください」
『聖剣鑑定』とは──その名の通り、神から与えられた聖剣の等級を鑑定する儀式だ。
特別に用意された道具を使うことにより、聖剣の等級が正確に分かる。
──逆に言えば、鑑定を受けなければ正確な聖剣の等級は絶対に分からないと言っても良い。
実際に聖剣を使用すれば、その威力からある程度の予想は出来るのだが……。
『聖剣鑑定』は強制ではないが、費用もかからず簡単に行える為、特別な事情がない限りは受けるのが常識だ。
「ユランくん、『聖剣鑑定』だって。受けに行こうよ」
ミュンが促すが、ユランは──
「わた──僕はいいよ。用事を思い出したから……先に宿に戻ってるね」
その申し出を断った。
「え!? 鑑定を受けないの?」
ミュンが驚いた様にユランに問う。
「うん。多分、〝意味がない〟と思うし、時間が勿体無いから」
そう言って、ユランは教会の入り口に向かって走り出す。
側から見ても分かるくらい、ユランの表情には焦りの感情が色濃く出ていた……。
「あっ──!」
ミュンが引き止めようとするが、ユランの足が思いのほか早く、伸ばした手は空を切る。
(鑑定しても『下級聖剣』だろう……そんな事よりも、私にはやらねばならない事があるのだ)
心配そうに見つめるミュンを置いて、ユランは早々に宿に戻って行った……。