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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第二章 〜リリア・リアーネの物語〜
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【ニーナ・フロイツ・フォン・ダリア】

 「おい、あの話聞いたか?」


 「何だよ……あの話って? 最近は色々あり過ぎて、何の事だか分からないよ」


 「アーネスト王国の現国主──アリエス女王陛下の話さ」


 「おい! 王国の事を無闇矢鱈に話すのは御法度だろう……。罰せられても知らないぞ」


 「罰せられるって……誰にだよ? 御触れが出たは出たけど……『意味がわからない。女王は気でも触れたのか』ってみんな話してるぜ?」


 「……仕方ないのさ。アリエス様は〝魔女アリアの誕生〟……。そして、〝魔竜バル・ナーグの復活〟で前国王だけでなく……殆どのご兄弟を亡くされたんだ」


 「そう、それだよそれ! 〝魔竜バル・ナーグだ!」


 「あん? あの忌々しき〝厄災〟が何だってんだ……? 口に出すのも悍ましいよ」


 「アリエス陛下が遂にバル・ナーグ討伐に乗り出すらしい」


 「……そうか。遂にそう決断されてしまったのか……」


 「何だよ、嬉しくないのか? 遂に〝厄災〟から解放されるかもしれないってのに」


 「お前……馬鹿だなぁ」


 「な!? 何が馬鹿だってんだ!」


 「アリエス陛下と生き残った聖剣士だけで……バル・ナーグに勝てるわけないだろうに」


 「何でそんな事が言えるんだよ? アリエス様は〝皇級聖剣〟なんだ。『魔王』だって討伐した事があるんだぞ」


 「お前は〝三番目の厄災〟──〝魔竜バル・ナーグ復活〟後に兵士に登用されたんだろ……? 俺は、今は王城の門番なんてやってるが、元々は聖剣士だ」


 「何が言いたいんだ……? 俺だって、役立たずだって自覚はあるぜ? 何て言ったって、俺は所詮〝下級聖剣〟だ……」


 「それなんだよ……。お前には悪いが、『下級』が聖剣士や王城の門番に登用されるなんて、〝三番目の厄災〟前なら考えられない事だ」


 「……」


 「〝二番目の厄災〟……『魔女アリアの誕生』で王国は崩壊……。それに続いて、まだ復興も終らない内に〝三番目の厄災〟まで発生したんだ。その所為で王国──いや、この大陸の人間は殆ど死滅してしまった……。戦力になるなら、『下級』に縋り付くのも厭わないほどに……王国は衰退しているんだ」


 「……お前だって、滅多な事を口にしてる。反逆罪に問われるぞ」


 「……もう良いよ。どうせ、バル・ナーグにやられて皆んな死ぬ……。あぁ、〝魔女アリア〟を恐れて聖剣士を辞めたのに、意味がなかったな……」


 「だから、何でそうなるんだよ? アリエス陛下が……討伐隊が勝利するかもしれないだろ? 魔王だって倒したんだから……」


 「お前、さっきから魔王、魔王って言うけどさ……。魔王如き(・・・・)と〝厄災〟を一緒にするなよ」


 「……は?」


 「それに、アリエス陛下は〝皇級聖剣〟だが……。それでも〝厄災〟の相手なんて絶対に無理だよ」


 「だ、だって……『皇級』だぜ!? 俺よりも等級が二つも上なんだ……。それでもダメなのか?」


 「アリエス様の姉君……ジェミニ様を覚えているか?」


 「ああ……歴代の──〝皇級聖剣〟の主で〝最強〟だって言われた王女様だろ? 確か、15年くらい前にご病気で亡くなられた」


 「それが、実は違う……。ジェミニ様は〝二番目の厄災〟……『魔女アリアの誕生』の際、魔女と戦って命を落とされた……。あのときは、市民の混乱を避けるために、公にそう報告されただけだ……。お前はこの前まで〝平民〟だったから知らされていないんだ……」


 「へ……?」


 「そのときは、優秀な聖剣士も多く存命だったし、王族の方々もいらっしゃった……。ジェミニ様と険悪だった、〝皇級聖剣〟のレオ様だって協力して戦ったんだ……。でも、まるで相手にならなかった」


 「……」


 「俺もその戦いに参加していたが……いや、あんなのは戦いじゃない。一方的な〝虐殺〟だ……。俺は、魔女のあの真っ赤な瞳を思い出すと……今でも恐ろしい……。震えが止まらない……。同じ〝厄災〟なら、バル・ナーグだって同じだろう……? 俺たち人間は、隠れて暮らすしかないんだよ……。グレン様……グレン・リアーネ様がご存命なら……。ちくしょう……何で……何でだ……? 何で、神は我々にこれほどまでに過酷な試練を……」


 「お、おい! 急にどうしたんだ!? お、落ち着けよ!」


 「俺は、奥さんも死んじまって……残ってるのは娘だけだ……。俺は死んでもかまわん……。でも、娘だけは……。娘はどうなるんだ……?」


 「おい、離せよ! 痛いって!」


 「娘を故郷に逃さないと……。王国はもう安全じゃない……。安全じゃないんだ……。家に帰らないと……」

 

 「どこにいくんだ!? おいってば!」


         *


 「待ちなさい……。勝手に持ち場を離れないで」


 私は、フラフラと城門から遠ざかって行こうとする男を、肩を掴んで引き留めた。


 男は振り返り、私に対して何か言いたげな表情になるが……急にハッと我に帰った様な顔になり、肩を落とし言った。


 「貴方は……ニーナ様……」


 そう、私はニーナ・フロイツ・フォン・ダリア──妖精(エルフ)族の王女だ。


 「貴方は門番なのでしょう? 勝手に持ち場を離れてしまったら、誰がお城を守るの?」


 人間族の事はよくわからないけど……


 たまたま聞こえて来た門番たちの話が不穏で……


 聞いている内に、門番の一人が勝手に持ち場を離れようとしたため、思わず引き留めてしまった。


 たまたま話が聞こえて来たのだ……断じて、盗み聞きをしていた訳ではない。

 

 エルフは耳がいいからね!


 「〝耳長(みみなが)〟の貴方に、私の気持ちは分かりません……」


 「……かなり混乱している様子ですし、侮辱には目を瞑りましょう」


 耳長(みみなが)とは、人間族が私たちを呼ぶときの蔑称だ。


 私たちには、妖精(エルフ)族と言う立派な名称があるのに……失礼な話だ。


 まあ、彼らに比べて私たちの容姿は〝抜群に優れている〟ため、人間族に見た目をどの様に揶揄されても、嫉みにしか聞こえない。


 それに……あの人──傭兵のあの人は、人間族にも関わらず、私たちを〝完璧な種族〟だと言ってくれた。


 あの人は違いのわかる人だ……人間族なのに。


 ……とても好ましく思う。


 ああ、その話は置いておいて──


 「貴方が不安になる気持ちもわかりますが、魔女のときとは違い、今回はエルフ族(わたしたち)も協力するのです。心配せずとも、大丈夫ですよ」


 「……耳長の言う事など信用できません。それに、貴方は〝貴級聖剣〟なんでしょう? エルフの王族なのに……」

 

 ……何だこいつ。


 失礼にも程があるでしょうが。


 〝あの人〟の爪の垢でも煎じて飲むがいい。


 「わ、私たちエルフ族は、聖剣の等級なんかに拘らないんです! 個人の優秀さは、聖剣の位だけでは計れませんから!」


 聖剣の等級で全てが決まるなんて、ナンセンスだ。


 私は、人間族のそういう所が嫌いだった。


 見た目を気にし、何事も形から入る……


 私たちと同じ、知性ある生物とはとても思えない。


 ──あの人はそうじゃない。


 〝下級聖剣〟なのに、他の人間にないものを一杯持ってる人だ。


 「お、おい!? それはあまりにも失礼だぞ!」


 「俺が忠誠を誓ったのはアーネスト王家にだ。耳長にじゃない……。一応、敬称は付けるがな」


 ぶん殴ってやろうか……こいつ。


 『隠剣術』を使えば、こんな奴一捻りだ。


 「と、とにかく持ち場に戻りなさい。貴方が心配しているのは、王国軍の戦力でしょう? 今回は大丈夫ですって……」


 「何を根拠に……。アリエス陛下に忠誠を誓う身ですが、あのお方が〝厄災〟に勝てるなどとは……とても思えません」


 忠誠を誓う相手を堂々とディスるなんて……本当に人間族ってわからない。


 「今回の討伐戦には、神人シリウス・リアーネ様も参加するそうですよ……? 傭兵のあの人は後方支援なので、私と一緒です……。えへ」


 神人──シリウス・リアーネ様の活躍は、アーネスト王国からかなり離れている『エルフの里』にも届くほどに有名だ。


 同じく神人であった……今は亡きグレン・リアーネ様の妹君で、〝人類最強〟。


 今までに、多くの〝王位の魔族〟──『魔王』を討伐したことがあるらしい。


 「……シリウス様が? 今は療養中で、とても戦える状態ではないと聞いていますが?」


 「今回は、無理を押してでも参加すると決められたそうです。神人が参加するというなら、貴方も少しは安心できるでしょう?」

 

 神人の存在は、人間族にとって……いや、この世の全ての〝戦う者〟にとっての希望だ。


 ──勿論、エルフ族にとっても……。


 神人の存在がなければ、エルフの王(お父様)も人間族に協力などしなかっただろう。


 「お、おい! 聞いたかよ! シリウス様が参加されるなら、きっと大丈夫だよな!? だって、〝神級聖剣〟だぜ!」


 「あぁ、神人が参加するなら、あるいは……」

 

 クソ生意気な門番の男にも、僅かに希望が戻って来たらしい。


 ……王女なのにクソはないわよね。


 ど生意気な門番に訂正します……。


 「エルフ族が信用できないなら、シリウス様を信じてお待ちなさい。それに、ことバル・ナーグに関しては、我々エルフが用意した〝秘策〟もあるので大丈夫です」


 ど生意気な門番と、付き添いの門番は私の言葉に納得したのか、門の警護に戻って行った……。


 ど生意気野郎は私に謝罪は愚か、頭すら下げていかなかったけど……。


 ……それから間も無くしてだ。


 討伐隊が、〝魔竜バル・ナーグ〟との戦いにおいて……


 なす術なく敗走してしまったのは……。

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