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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第二章 〜リリア・リアーネの物語〜
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【25】VSソリッド

 ユランは、手足を拘束され、身動きの取れなくなっているグレンを一瞥する。


 そして、左手に持っていたカンテラの男の首を、無造作に床に投げ捨てた。


 「何者なんだ……お前は。リリアは何処にいる?」

 

 そんなユランの様子を見て、グレンは声を低くして、威嚇する様に言った。

 

 初めの内は、リリアだと思っていた相手が別人だった事に驚いていたグレン。


 しかし、すぐに気持ちを切り替えたのか、今はリリアの所在を気にし、そちらに気を張っている様子だ。


 「俺が誰かなんて、今はどうでもいいよ……。まあ、そうだな、俺のことは『リーン』とでも呼んでくれ」


 ユランは、グレンに対して素っ気ない態度で返答すると、着用していた女性物の服を脱ぎ捨てた。

 

 その服の下からは、動きやすそうな軽装が現れる。

 

 そして、ユランは懐を(まさぐ)ったかと思うと、そこから、きちんと折り畳まれたフード付きのローブと白い仮面を取り出す。


 側から見れば、その軽装のどこにソレらの品を収納していたのかと疑問に思うだろうが……この『収納術』に関しては、ユランが回帰前の傭兵時代に身に付けた技術だった。


 本来は、武器──暗器を仕込むための技術なのだが……。


 ユランは、取り出したローブと仮面を素早く装着し、残った敵──部屋の出入り口付近に立つソリッドを見据えた。


 「外に、どれだけの人数が残ってるかわからないが……。この部屋で残っている敵はアンタだけだな」


 右手に持っていたナイフをソリッドに向かって突き出し、ユランは言う。


 このナイフは、カンテラの男から奪った物で、お世辞にも質が良い物とは言えなかったが──人間の命をとるだけなら十分な代物だ。


 回帰前の世界で傭兵として活動してたユランは、魔族だけでなく、人間の命も数え切れないほど奪ってきた。


 今更、殺人(それ)に罪悪感を覚える事などないし、必要があれば誰であろうと躊躇なく殺す。


 〝今のユラン〟はそう言う人間だった……。


 「おやおや、コレは驚きました。妹君(いもうとぎみ)が偽物だったなんて……。やはり、重要な仕事をゴロツキ共に任せたのは間違いでしたね」


 ソリッドはそう言うと、楽しげに笑う。


 予想外の出来事が起こったと言うのに、困惑するどころか、ソリッドはこの状況が楽しくて仕方がないといった様子だ。

 

 ユランの正体がわからずに警戒しているとはいえ、今はリリアという人質もなくなり、グレンは解き放たれた状態に等しい。


 グレンが本気になれば枷などすぐに破壊し、自由に行動できる様になるだろう。

 

 ソリッド自身も、そんな現状を理解しているはずなのに、神人グレン・リアーネを前にしても余裕の表情を崩さない。


 自分の実力に余程自信があるのか、それとも……。


 「それにしても、貴方は何者ですか? 一見、子供の様に見えますが……そんな訳はありません。おそらく、小人族(ミニアス)でしょうか……?」


 ソリッドは、ユランの全身を見回して興味深そうに言った。


 ソリッドが言った小人族(ミニアス)とは、大陸の西方にある、アルドリア山脈に暮らす少数民族である。


 人間族に比べ、全体的に小柄な者が多く、成人しても身長は1メートル前後にしかならない。


 男女共に容姿は幼く、成人した立派なミニアスであっても、側から見れば外見上は人間の子供の様にしか見えない。


 しかも、ミニアスは成人後に外見が老いる事がなくなり、老人になっても容姿が変わらないという不思議な特徴を持った種族だった。


 ソリッドは、どう見ても少年にしか見えないユランが、少年らしからぬ行動を取ったため(悪人とは言え、躊躇なく人殺しを行った事や、それを実行できた事など)、ユランが人間の子供ではなくミニアスだと勘違いした様だった。


 「まあ、別にそれで良いよ……」


 ユランはソリッドの考えを否定する事なく、それに合わせて適当に答えを返した。


 ──どうせ、コイツはここで殺す。


 どう勘違いしようが関係ない。


 相手の実力はわからないが、『抜剣術』を使わせなければ、どれだけ強力な聖剣を持っていようと所詮はただの人間。


 『抜剣術』を使わせずに相手を殺害する術は心得ている。


 ユランはそんな事を考え、ソリッドと対峙する。


 ソリッドが少しでも動きを見せれば、即座に飛び掛かれる体勢だ。

 

 「貴方が何者なのか知りませんが、私と戦うつもりなんですか?」


 「……」

 

 ソリッドは問うが、ユランが聞く耳を持たず、その質問には答えない。


 「やめた方が賢明だと思いますが……。ふむ」


 余裕の表情を崩さず、ソリッドは言った。


 両腕を開いて肩まで上げ、ユランを挑発する様なジェスチャーをとる。


 言外に、『無駄な戦いはごめんだと』語っていた。


 そして、ソリッドは諦めた様にため息を吐くと──


 「……ふう。〝今〟神人を始末できなかったのは残念ですが……。まあ、〝アレ〟の復活がなれば、神人など、どうとでもなるでしょう」


 手足を拘束され、身動きの取れないグレンに向けてそう言った。

 

 ユランの事など眼中にない様子だ……。


 「ここまでですね……。私はお(いとま)させていただきましょう」


 ソリッドは心底残念そうな顔で言うと、両手をダラリと下ろす。


 『抜剣』は使わせない……。


 ユランは腰を低くし、攻撃体制に入る。


 「逃げられると思うなよ……。俺は、狙った獲物(人間)を逃した事は……今まで一度だってないんだ」


 ユランが放つ殺気を前にしても、ソリッドは気にした様子すら見せない。


 神人(グレン)を前にしても怯まないどころか、その状況を楽しんでいる様な男だ。


 ユランの事など、恐るるに足りないという事なのだろう……。


 「それに、『抜剣』も使わせない……。その前にアンタの首を獲る」


 ユランの言葉を聞き、ソリッドは「はは」と不敵な笑みを浮かべ、ユランに向けて左手を(かざ)す。


 何をするつもりだ?


 『ステータスアップ』の神聖術でも掛けるつもりなのか?


 何をしようと、『抜剣』さえ使わせなければ、『アクセル』で十分に対処できる。


 ユランはそんな事を考えていた。


 そしてソリッドは──


 『ファイアボール』


 呪文を唱えた。


 (ファイアボール? 何を言ってるんだコイツ。それって……〝魔力〟で発動する『魔術』だろ? 魔族が使う……。そんなの発動する訳な──)

 

 ハッタリか……。


 ユランはそう決めてかかり、ソリッドに向けて一歩踏み出す──


 しかし──


 ボボボ……──!


 ソリッドの左手から巨大な火球が生み出され、ユランに向けて放たれた。


 (は!? そんな馬鹿な事が!)


 『プロテクション!』


 ユランは、咄嗟に『保護(プロテクション)』の神聖術を使い、火球に対して防御を試みる。


 ゴォォォ!! ドゴンッ!!


 火球が炸裂し、火柱が上がる。


 「おい! 大丈夫か!?」


 それを近くで見ていたグレンは、思わず声を上げた。


 グレンにとってユランは、今だに謎の人物ではあったが、今までの行動を見て、『とりあえず敵ではない』と判断した様で、ユランの安否を気にしていた。


 轟々と燃え上がった炎は、魔術によって生み出された炎であるため──何かに燃え移らない限りは継続して燃え続ける事はなく、すぐに消え失せる。


 それは、まともに受ければ骨まで燃え尽きてしまいそうなほど高温の炎だ。


 ──だが、炎の中から現れたユランは……燃え尽きる事なく、その場に立っていた。


 咄嗟に唱えた『プロテクション』のおかげで、それほど大きなダメージは受けていない。


 だが、人間が〝本来扱う事が出来ない〟はずの〝魔術〟をソリッドが放った事に驚愕し、『プロテクション』の発動が遅れ……ユランが差し出した右手は、ぷすぷすと音を立てて黒焦げになっていた。


 「おやおや、アレを防ぎますか……。驚きですが、まあ、丁度いい時間稼ぎにはなりましたね」


 ユランは、使い物にならなくなった右手に構わず──


 再び、左手に持ったナイフでソリッドに飛び掛かろうとするが──


 すでに遅い……。


 ソリッドに『抜剣』を使う猶予を与えてしまった。


 「さあ、とくと見なさい……。コレが私の『抜剣』です」

 

 ソリッドがそう言って、聖剣を握る手に力を込めると──聖剣から無機質な声が響く。


 いや、それは無機質な声というよりは──


 『抜剣レベル(スリー)──ヲ発動──使用カノウ時間ハ──デス──カウント──カイシ』


 耳障りな、雑音の様な不快な声だった……。


 ソリッドが『抜剣』を発動させた事により、ユランは一旦攻撃を止めてそのまま後ろに飛び退く。

 

 『抜剣』相手に、このまま突進するのは愚策だと判断したためだ。


 (なんだコレは……? コレは、本当に『抜剣術』なのか?)


 ソリッドが使用した『抜剣』が、自分が知る『抜剣』とは大きく異なったものであったため、ユランの思考は混乱して判断に迷う。


 『アクセル』を使用して突進するべきか、それとも、自分も『抜剣』を使用するべきなのか……。


 相手はレベル3の『抜剣』を発動した。


 ソリッドの聖剣の等級は不明だが、その自身ありげな態度から見ても、それが『下級聖剣』という事はあり得ないだろう。


 貴級以上のレベル3……ユランの聖剣が神級とはいえ、レベル1のユランに相手ができるかどうか……かなり微妙なラインだった。


 『リペア』


 ユランは取り敢えず、『リペア』を唱え、火球によるダメージを回復させる事にした。


 『リペア』の効果で、黒焦げだった右手は……動かすには支障がない程度まで回復した。


 ユランは、右逆手で右腰に携えた聖剣の柄を握り、いつでも『抜剣術』を発動できる体勢を取る。


 ユランが左手に持っている武器は、粗悪なナイフのみだが……サブウェポンの待ち合わせもないため、やむを得なかった。


 ユランが構えるのとほぼ同時に、ソリッドの『抜剣』も発動する。


 鞘から抜き放たれた聖剣の刀身が、3割ほど露出した。


 「な!?」


 ソリッドの『抜剣』を見て、ユランは驚愕し、思わず驚きの声を上げてしまう。


 ──目の前で起こった事が、ユランにとって信じ難い出来事だったからだ。


 ソリッドの聖剣は──


 いや、それは聖剣と呼べる代物なのかどうか……。


 「黒い……聖剣?」

 

 ソリッドが扱う〝ソレ〟は、ユランが発した言葉の通り──


 刀身が黒い……漆黒の刃を持つ聖剣だった。


 光の創造神の力を宿した聖剣の刃は、例外なく、白色──純白だ。


 漆黒の刃を持つ聖剣など、前例がない。


 実際には……聖剣の刀身が黒く染まると言う現象もあるにはある。


 回帰前のジーノ村の事件のとき、村長のサイクスやミュンが『ソドムの腕輪』を使用した際にも聖剣の刀身がドス黒く染まったが……。


 ──それとはまた違う。


 それは純粋な黒……ソリッドの聖剣は、光を吸い込むほど黒く、この世の何よりも漆黒だった。


 予想外の事態に直面し、目を白黒させて慌てるユラン。


 ソリッドは、そんなユランの様子を見て、仮面越しではあったものの、かなり動揺している事がわかったのだろう……楽しげに笑い声を上げる。


 「聖剣などと……。そんな〝欠陥品〟と一緒にしないでいただきたいですね」

 

 その、漆黒の刃を、ユランに見せつける様に誇示し、ソリッドは言った。


 「コレは『魔剣』……。貴方たちが持つ聖剣と対をなす神剣(もの)です……」

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