【2】『回帰』そして……
「それでは──これより『聖剣授与式』を始めます」
聖剣教会の神官が壇上から、そう宣言する。
王都の『聖剣教会』に無事にたどり着いたユランたちは、そのまま教会の神殿に通さていた。
そこにはユランの村以外からも多くの子供たちが集められており、皆『聖剣』が与えられるのを心待ちにしている。
「緊張するね……」
ユランの隣に立っていたミュンは、そう言ってユランの手を握った。
ミュンの身体が、緊張で震えているのがユランにも分かる。
「アーネスト王国の⚫︎⚫︎、前へ」
祭壇の上に立つ神官は二人──
一人が羊皮氏に記載されたリストから、名前を順番に読み上げる。
名を呼ばれたものから祭壇に上がり、もう一人の神官の前に跪き、神官から『聖剣』が手渡され──
それぞれ『聖剣』を受け取った後は一礼して祭壇を降り、その場で待機する。
これが『聖剣授与式』の一連の流れだった。
簡単な儀式だったが、子供たちは一様に緊張し、足をもつれさせて転ぶ子供もいた。
「ジーノ村のミュン、前へ」
先にミュンの名前が呼ばれる。
その表情からは未だ緊張の色が隠せていなかったが……意を決してユランの手を離し、一人で祭壇に登っていく。
そんなミュンの姿を見ながら、ユランは『早く自分の順番が来ないか』とワクワクしながら待っていた。
ミュンは『聖剣』を授与され、祭壇から降りて来ると──随分と緊張が解け、照れくさそうな顔で笑う。
「ジーノ村のユラン、前へ」
ついにユランの名前が呼ばれ──
ユランは「はい! はい!」と何度も返事をしながら、祭壇へと続く階段を駆け上がった。
そんなユランの姿を見て、『聖剣』を渡す神官は顔を顰め……
儀式の手順を守らないユランに対して、「礼儀がなってない」と不快に思ったのだろう。
「貴方の未来に幸在らんことを」
不快に思っても仕事をきっちりとこなす辺り、彼も出来た神官であった……。
「──つっ」
──『聖剣』を受け取った瞬間、ユランの頭の中に男の声が響く。
『──残念ですが、貴方の聖剣は『下級聖剣』です』
ユランは、その声に反応する様に「バッ」と、目の前にいる神官たちに目を向けた。
どちらの神官も口を開かず──跪いたままのユランをジッと見ている。
神官たちは、すでに聖剣を受け取ったと言うのに、いつまでも下がらないユランを不思議そうに見ていた。
(今のは、神官様の声じゃない?)
──頭の中で、再び声がする。
『これは素晴らしい! ミュンさん、貴方の聖剣は『貴級聖剣』です!』
その声を聞いた瞬間──
ユランの頭に、記憶の渦が流れ込んできた……。
「………あ?」
津波の様な勢いで流れ込んでくる記憶の波に翻弄され、ユランはその場から動く事が出来なくなってしまう。
まるで──まだ起こっていない未来を追体験している様だ。
(僕は……いや……私は、あれからどうなった? 鎧の魔王と戦って──私は死んだのか?)
「──ラン! ──ジーノ村のユラン! 大丈夫かね?」
神官の呼びかけに、ユランのはハッと現実に引き戻される。
キョロキョロと辺りを見渡すと、そこは神殿の祭壇の上だった……。
「ああ……大丈夫です」
ユランは激しい頭痛に耐えながら、フラフラとした足取りで祭壇を降りた。
(どうなってるんだ……)
色々な考えを頭の中で巡らすが──
どうにも頭痛が酷すぎて、考えなど纏まるわけもなかった。
「ユランくん!」
それを見かねたミュンがユランの所まで走ってくると、ユランの身体を支える様に両腕を掴んだ。
ユランの瞳が、ミュンの姿を正面から捉える──
『ユランくんならすごい聖剣士になれるよ』
ミュンの顔を見た瞬間──
忘れかけていた、〝約束の少女〟の顔を鮮明に思い出す。
「ミュン!」
ユランは少女の名前を呼び、抱きしめる……。
「ちょ!……えぇ……」
ユランの突然の行動に、ミュンされるがままで、顔を真っ赤にして全身を硬直させるのだった……。