【1】夢見る少年ユラン
「何、ぼーっとしてるのかな？」
村外れの草原に寝転び、空を見上げていたユラン。
ユランの顔を上から覗き込む様にして、声をかける少女があった。
彼女はミュン。
ユランの幼馴染で、同い年の少女だ。
「またガストンたちに意地悪されたの？」
「違うよ、昨日は楽しみで眠れなかったん
だ」
「それでぼーっとしてたのね。ユランくん、ずっと楽しみにしてたもんね」
「うん、僕も１０歳の年だ。やっと〝聖剣がもらえる〟んだから、ワクワクしないわけないよ」
「楽しみで、王都行きの馬車を待ってたの？」
ミュンの言う通り、ユランは待ちきれずに王都行きの馬車が到着する草原にいた。
今日はアーネスト王国にある王都で『聖剣授与式』が行われる日だ。
その年に１０歳になる子供たちが王都の『聖剣教会』に集められ、それぞれに聖剣が与えられる。
ユランは、聖剣が授与されるこの日を心待ちにしていた。
「僕は、将来『凄い聖剣士』になるんだ」
「ユランくん、いつもそう言ってたもんね」
キラキラした瞳で夢を語るユランを見て、ミュンは何が楽しいのか……ずっとニコニコしていた。
夢が叶うと信じて疑わないユラン。
ユランが夢を叶えると信じて疑わないミュン。
「バカじゃねえの。俺たち『平民の子』が聖剣士になれるわけねぇだろ」
突然、二人の会話に割り込んでくる声があった。
ユランたちが声のそた方を見ると、大柄な少年が一人立っており、その左右には痩せぎすノッポの少年と、小柄な女の子が立っている。
大柄な少年とノッポの少年はニヤニヤと意地の悪い笑みをユランに向けており──それとは対照的に、小柄な少女はオドオドした目でユランを見ていた。
「ガ、ガストン……」
ユランは大柄な少年──ガストンを前に思わず吃ってしまう。
ガストンはニヤニヤしながら、さらに続ける。
「聖剣士になるには『貴級聖剣』以上が必要なんだぜ。親が『下級聖剣』なら──子供も『下級聖剣』になるのが殆どだって授業で習ったろ」
「で、でも……例外もあるって」
ガストンの言葉で、俯いてしまったユランは、ボソボソと小声でガストンの言葉に反論した。
そんなユランの様子を見て、ガストンはバカにした様に鼻で笑うと──
「小声すぎて聞こえねぇよ。お前は成績も悪いもんな。授業で習った内容も覚えてねぇか」
そのまま振り向き、他の二人にも同意を求める様に「なあ」と声をかける。
ガストンが言う通り、与えられる〝聖剣〟の等級は親と同じか、それより低くなる場合が殆どだ。
さらに、ユランの夢である聖剣士になる為には『貴級聖剣』以上の聖剣の主になる事が絶対条件である。
ユランの聖剣が『下級聖剣』ならば、その時点で彼の夢は絶たれる事となるのだった。
「ガストン、やめなさいよ！」
ガストンの意地の悪い発言を見かねて、ミュンが声を上げる。
しかし、ガストンは声を上げたミュンではなく、オドオドして俯いたままのユランを睨み付けた。
「お前、女に守られて恥ずかしくねぇのかよ……」
ガストンの言葉に、ミュンはムッとして睨み返す。
自分の事を棚に上げて何を言い出すのか。
「アンタだって仲間を連れてるじゃない。偉そうなこと言わないで。そんなこと言うなら──私が相手になろうか？」
ミュンがニヤリと笑い、拳を握って構える。
実際、ミュンは小柄な体型に似合わず、力も強く運動神経も良い。
ガストンと喧嘩したとしても、十中八九ミュンの勝ちとなるだろう。
「……ち。めんどくせぇな」
ミュンが本気なのを感じ取ったのか、ガストンは「やる気はない」と両手を上げてぷらぷらさせた。
「気が済んだなら……どこかに行きなさいよ」
「やだね。俺たちだって王都行きの馬車に乗る予定だ。乗り損ねちまうだろ」
どうやらガストンたちは、ユランにちょっかいを掛けるために来た訳ではないらしい。
ミュンを含め、ガストンたちも皆ユランと同い年の子供たち──
『聖剣授与式』を受ける為、王都行きの馬車に乗るために来たのだろう。
「来たぞ」
ガストンがそう言って遠くに視線を向けると、こちらに向かって走って来る馬車の姿が見えた。
ガストンたちがミュンと問答している間に、数名の村の子供たちが集まって来ており──
彼らも全員『聖剣授与式』に主席するのだ。
「お前ら、行こうぜ」
ガストンは取り巻きの二人に声をかけると、ユランを見てニヤリと意地悪な笑みを浮かべ、到着した馬車の客車に乗り込んで行った。
「ミュン……ありがとう。ごめんね……」
申し訳なさそうに声をかけるユランに対し、ミュンは笑顔を向ける。
「何を言ってるの。ユランくんは私のヒーローなんだから──大丈夫だよ」
「で、でも……僕は」
尚も自身なさげに俯き、ユランは歯切れの悪い返事を返す。
スッ──……
ミュンは、ユランの両手を自分の両手で包み込む様に握ると……キラキラと瞳を輝かせて、言った。
「ユランくんならすごい聖剣士になれるよ。だから──」
皆が馬車へと乗り込み──
二人だけになった草原で──
ユランとミュンは〝ある約束〟を交わすのだった……。
