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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第二章 〜リリア・リアーネの物語〜
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【9】いざ、聖剣鑑定

 アーネスト王国の王都、その王都の中心に建つ一際大きな建物がある。


 聖剣に関する全ての事柄が集う場所──聖剣教会だ。


 人類に聖剣を与えた神、『光の創造神』を信仰する教会で、『聖剣授与式』や『聖剣鑑定』などが行われる場所である。


 今年はすでに聖剣授与式が終了している事もあり、『祈り』や『懺悔』に訪れる人々がチラホラと見受けられるだけで、それ以外の来訪者はほとんどいない。


 「『聖剣鑑定』ですか? 勿論、常時受け付けてはいますが……なぜ今更?」


 教会の受付に座る若い女性が、メガネをクイっと上げ、怪訝そうな顔で〝来訪者〟を見る。


 来訪者とは、ユラン、リネア、サイクス、ミュンの四人だ。

 

 聖剣鑑定に無関係なミュンは、宿で留守番している様にサイクスに言われたが──


 「は? 何で? ユランくんが関係してる事なら、私の事と同じでしょ?」


 と、留守番を断固拒否。


 ……勝手に付いてきた。


 「実は、諸事情で受けられていない子が二人いまして……。今回、その事情が解決しましたので、受けにきた次第です」


 メガネの受付嬢は、ユランたち一同を一瞥した後、「ふん」と鼻で笑い、羊皮紙を二枚取り出してサイクスに渡す。


 「──これは?」


 とサイクス。


 「聖剣等級の申請書です。そこに『下級聖剣』と書いて提出して下さい」


 「な!?」


 受付嬢のあまりな態度に、サイクスが思わず声を上げる。


 そんなサイクスの様子を見て、受付嬢は小馬鹿にした様に笑い──


 「貴方たち平民でしょう? 聖剣鑑定なんて受ける意味ありますか? 鑑定なんて受けなくても、『下級聖剣』なら申請は通りますから。さっさと記入して下さいな……。こっちは忙しいんだから」


 〝忙しい〟と口にしながら、受付嬢は受付台の上に肘をついて、退屈そうに明後日の方向を見る。


 ──とても、忙しそうには見えない姿だ。


 受付嬢の態度に、サイクスは絶句し、顔を真っ赤にして怒りを露わにする。


 そして──


 「アンタねぇ! そんな事が許されて──」


 ドガンッ!!


 サイクスが言い終わる前に、受付カウンターにミュンの右拳が炸裂する。


 木製のカウンターが、『メキッ』と音を立てて軋んだ。

 

 拳を叩き込んだミュンの右手には、青色のクリスタルが装飾されたペンダントが握られていた。


 「ジーノ村の──『貴級聖剣』のミュンよ、すぐに神官様を出しなさい」


 ──完全に目が据わっていた。


 ミュンが、今にも受付嬢を殴り倒しそうな勢いだったので、ユランが慌てて止めに入る。


 ミュンの怒りを受け、受付嬢は──


 「し、失礼しました……。すぐに呼んでまいりますので、お待ちを……」


 額に冷や汗をかき、慌てて奥に引っ込んで行った。


 ちなみに、ミュンが取り出したペンダントは、『等級識別証』と言う名のクリスタルが装飾されたペンダントで──クリスタルには、『聖剣鑑定』に用いられる水晶玉と同じ加工がされており、持ち主の聖剣等級を色で表してくれる。

 

 『下級聖剣』……無色透明


 『貴級聖剣』……青色


 『皇級聖剣』……赤色


 『神級聖剣』……金色


 と言った具合だ。


 聖剣鑑定の実施後に聖剣教会から貸与される物だが、個人登録がしっかりと行われているため、他人が持っても反応しない。


 しばらく受付で待つと、受付嬢を伴って、初老の男性が慌てた様子で走ってくる。


 聖剣教会の神官だ。


 「し、失礼しました……。ミュン様ですね。先程は、この者が失礼をいたしました」


 神官は頭を下げて非礼を詫びるが、後ろで待機していた受付嬢は不満顔だった。


 ミュンが睨み付けると、慌てて横を向く。


 「謝る相手が違うんじゃないの? この女は私の大事な人──あと、ついでにリネアもバカにしたのよ。そちらに謝るのが筋じゃない?」


 リネアがニッコリ(威圧)と笑って、ミュンを見るが、怒り心頭に発するミュンは気付いていない。


 「そ、そうでしたね……。皆さま、申し訳ありませんでした……。すぐに鑑定の準備をいたします」


 神官に案内され、ユランたちは教会の奥へと通された。


         *


 「それにしても、ミュン様。授与式以来で御座いますね……。お元気そうで何よりです」


 ユランたちを別室へと案内した神官は、他の教会員に聖剣鑑定の準備をさせている間に、ミュンと話をしている。


 「覚えておいでですか? あの時も私が鑑定をさせていただいたのですが……」


 「まあね……。一応、覚えてはいるわ。あれから色々あったけど、とりあえず元気よ」


 すげない態度を取るミュンに、神官は媚び諂う様に下手に出ている。


 ミュンは『貴級聖剣』の主……。


 いずれ、貴族の身分になる事が決定している存在だ。


 教会の神官としては、〝良い関係〟を築いておきたいと考えているのだろう。


 ──はっきり言って、ユランたちは蚊帳の外だ。


 「あのときの事を、今でも思い出します。私は、ミュン様が初めから、他とは違うオーラを持っていると気付いていました」


 「……」


 適当なことを言う神官に嫌気がさしたのか、ミュンは返事すら返さなくなった。


 神官は、『ユランたちが蚊帳の外にされている事』で、ミュンが機嫌を悪くしている事に気付いてすらいない。


 神官がミュンに、(あれ)()れやと話をしているのを、ユランたちは少し遠くの位置から見ていた。


 すると、すぐ後ろから──


 「どうせ『下級聖剣』なのに時間の無駄よ……。平民のくせに生意気なやつらね……」


 などと言う、囁きが聞こえた。


 ……いや、偶然聞こえたのではなく、明らかに聞こえる様に喋っている。


 それも、ミュンの耳には届かない様な、絶妙な声の大きさでだ。


 ユランが振り向くと、そこにはやはりメガネの受付嬢が立っており──蔑んだ笑いを浮かべて、ユランたちを見ていた。


 ──おそらく、先程ミュンにされた事へと仕返しなのだろう。


         *


 「準備が整いました。それでは、ジーノ村のリネアさんから……。この水晶に手を置いて下さい」


 「は、はい……」


 緊張した面持ちで、リネアがおずおずと水晶に近付く。


 そして、右手を水晶に置いた。


 「どうせ白光でしょ……。茶番だわ」


 またもや、受付嬢は厭味たらしく、わざわざ聞こえる様な声で呟いている。


 流石にユランも不快な気分になり、受付嬢にチラリと視線を向けるが……


 受付嬢は、ユランの視線など意に介さず、余裕の笑みを浮かべていた。


 「こ、これは!」


 神官が驚愕した様に叫ぶ。


 神官の声に、ユランが慌ててリネアの方に視線を戻すと、水晶は──


 

 紫色に輝いていた。



 (紫色? 何だあれ、私でも聞いた事がないぞ……)


 「え? これ、何か変なんですか??」

 

 リネアが心配そうに神官を見て、質問する。


 「あー……。いえ、変と言う訳ではないですが……。貴方の聖剣は『特級聖剣(とっきゅうせいけん)』ですね……。残念ですが」


 (特級!? なるほど、そう言う事か!)

 

 神官の戸惑った顔と言葉に、リネアは不安になり、あたふたとしてしまう。


 「私はこの聖務──『聖剣鑑定』を30年以上続けていますが……。『特級』は初めて見ました。希少性は高いですが……。これは、何とも」


 バツが悪そうに、言い淀む神官。


 「えぇ……。ダメな聖剣なんですか?」


 そんな神官の様子を見て、リネアが泣き出しそうな顔になる。


 神官はため息をつき、リネアの『特級聖剣』について説明し始めた……。


 「実は、『特級聖剣』とは──」


          *


 『特級聖剣』とは、聖剣に存在する四つの等級、『下級』『貴級』『皇級』『神級』のどれにも属さない特殊な等級の聖剣だ。


 『特級』が、普通の等級に含まれていない理由は、その能力の特殊性にある。


 四つの等級に含まれる聖剣は、どれも共通して『抜剣』によって聖剣の能力を引き出し、加護を受ける事ができる。


 それは『特級聖剣』にも共通している事だが、『特級』は他の四等級とは違い、『抜剣』の発動条件自体が根本から違う。


 他の四等級は、大変な努力と才能を持って『抜剣』に至る事ができ──


 『抜剣』のレベルを1上げるだけでも、何年も修練を積み、努力を重ね、その結果やっと成し遂げる事が出来るものだった。


 しかし、『特級聖剣』は違う。

 

 〝条件さえ整えば〟、レベル4以上の『抜剣』が即座に発動可能なのである。


 しかも、抜剣時の加護は『神級』に匹敵すると言われている。


 ここまで聞けば、最強の聖剣の様に見えるかもしれないが……『特級』の厄介なところは、『抜剣』を発動させる為の〝条件の難易度〟が高すぎる事だ。


 聖剣の『抜剣』とは、加護に『特殊効果』が現れるのはレベル4からだ。


 これは全ての聖剣に共通している事で、レベル1〜3までは、レベルに応じた身体強化が得られるのみ。


 その身体強化も、同じレベルであっても、聖剣の等級によって威力が変わる。


 つまり、


  レベル1〜3……身体強化


  レベル4〜10……特殊効果+身体強化


 となる。


 ここで『特級聖剣』の話に戻るが、『特級』は、レベル3までの『抜剣』は、他の四等級と同じで、努力や才能で開花しなければならない。


 しかし、レベル4──特殊効果が付与される段階からは、特殊な条件を満たして発動させる必要がある。


 『特級聖剣』の特殊性はそこにあり、普通はレベル1ずつ、段階を踏んでいかなければならない『抜剣』のレベルを、条件次第でスキップできる。


 なので、『抜剣』の才能に恵まれず、レベル1すら発動できない状態であっても、条件クリアでレベル4以上がいきなり発動できると言う訳だ。(逆に、レベル1〜3は努力や才能で使える様になるしかない)


 リネアの聖剣を例に挙げると、


 レベル4発動条件──


 『レベル1〜3の抜剣を使用しない状態で、相手から敵対心を向けられ、かつ、聖剣を握った状態を30分維持する』


 と言う、とんでもない条件だ。


 『相手から敵対心を向けられる』と言う条件がある為、隠れて時間を稼ぐと言う事ができない上に、発動までは、『抜剣』を使用せずに戦闘する必要がある。


 当然、身体強化などの加護を得られないため、生身で戦わなければならない。


 しかも、『相手からの敵意がなくなる』『聖剣から手を離す』などで条件はリセットされる。


 さらに、本気の敵意にしか反応しないため、〝対象は完全に敵対している相手〟と言う事が条件となっている。


 ──以上の理由から、『特級聖剣』は『神級聖剣』に匹敵する力を持ちながら、その特殊性から人々から忌避されている。


 『抜剣』レベル1が使用できない人間を、『無剣(むけん)』(剣を持たない者)と言って差別する風潮があるが、『特級聖剣』に対する扱いはそれと大差ない。


         *


 「……と、言う訳なのです」

 

 神官の説明を受け、リネアは疑問符を浮かべる。


 『それって、何が困るの?』


 と言いたげな顔だ。


 「いや、申し訳ありません……。そうですね、リネアさんは平民でしたね……。それならば『下級聖剣』とそう大差ないと言うか……。平民は聖剣自体を滅多に使用しませんから」

 

 神官の言う通り、差別の対象となるのは、ある程度の地位を持った人間……。


 例えば、貴族の子息、子女などだ。


 平民の身空では、聖剣を使用する事自体が稀なので、『無剣』であろうと、『特級聖剣』であろうと、あまり関係はなかった。


 「だったら、私、コレでいいです。貴族になるつもりなんて最初からないですし──」


 リネアは、そう言うと、チラリとユランの方に目線を向ける。


 「……?」


 ユランは、リネアの視線の意味に気付かない。


 「大切な人と一緒にいられるならそれで良いです。貴族になったら、職務に追われて、大切な人にもなかなか会えなくなちゃいそうですし」


 リネアは、次いでミュンに視線を向け、勝ち誇った様に「ふふん」と笑う。


 「つッ〜……!!」


 「……?」


 ミュンが拳を握って、身体をワナワナと震わせていたが……ユランは、当然の様に何も気付いていなかった。


 「そ、そうですか……。本人が良いなら、それで……。続いて、ジーノ村のユランくん」


 ユランの名前が呼ばれる。


 またもや、ユランの後ろから、メガネの受付嬢の呟きが聞こえてきた。


 「『特級』とはね……。ふふん…。まさか『下級』以下だなんて……とんだ笑い草だわ……。所詮平民って事かしら」


 ──まあ、言わせておけばいい。


 と、ユランは考え、水晶の前に立つ。


 (何か、緊張してきたな……。大丈夫だよな? 『魔貴族』を倒した時の威力は凄かったし、きっと大丈夫だ……)


 この場に立つまでは、それなりに自信があったユランだったが……いざ、鑑定水晶を前にすると、急に緊張を隠しきれなくなってしまった。


 (頼む……。これからの活動に大きく関わるんだ……。こい!)


 ユランは、決意を固め、水晶に手を置く。


 「──え?」


 まず、最初に神官が放心した様に水晶が発する光を眺める。


 「綺麗……」


 「うん、すごく綺麗だね……」


 次いで、ミュンとリネアが水晶が発する光の美しさに心奪われた。


 「これは……?」


 ユランが、神官に視線を向けると、神官は動くことが出来ずに、棒立ちで──


 驚いた顔で固まり、呆けた様に口を開けたままになっている。


 そして、その口から漏れた言葉は──



 「……黄金(おうごん)の輝き。……『神級』」


 

 だった……。

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