【5】『完全抜剣』レベル10
『鎧の魔王』の攻撃は、いとも容易くシリウスの身体を飲み込んだ。
爆発によって発生した煙が晴れると、そこには──
私が予想した通りの光景が広がっていた。
ニーナやアニスと同様……シリウスの頭部が爆散し、胴体のだけがその場に残されている。
そして──「ドン!」と鈍い音を立てて、頭部を失ったシリウスの身体が力無く床に倒れ伏す。
──終わった。
全てが終わってしまった……。
世界で唯一『神級聖剣』の使い手だった、人類最強の神人──
シリウス・リアーネの敗北。
最早、私たち人類に〝希望〟など残されていなかった。
「ここで撤退しても……結果は同じか」
例え、私だけこのまま逃げ仰せても、唯一の希望を失った人類は〝滅亡の一途を辿る〟のだ。
シリウス・リアーネは、『魔王』クラスの魔族を討伐できるただ一人の人間だ。
そのシリウスが敗北したと言う事は……。
それは、私たち人類の敗北と同義──
ガランッ
私は、左手に持っていたサブウェポンを床に投げ捨てた。
諦めにも近い心境だったが、最後の悪足掻きをしてみようと思う。
サブウェポンを捨てた左腕で──右腰に携えていた聖剣の柄を握る。
本来、聖剣とは『抜剣』レベルに応じた分、その刀身を露出させる。
それはつまり、聖剣を直接武器として使う事は出来ないと言う事だ。
その為、私たち〝聖剣を扱う者〟はサブウェポンを武器として用い、戦う。
しかし──
『レベル10『完全抜剣』を、使用します──『完全抜剣』を使用した場合──対価は使用者の生命力です──本当に使用しますか?』
これが、私が今まで実戦において、レベル10……『完全抜剣』を使用しなかった理由だ。
普段、聖剣は『抜剣』の使用確認などしない。
聖剣所持者が『抜剣』を発動させると決めれば、聖剣がそれに異を唱える事などあり得ない。
だが、敢えてそれをすると言う事は、『完全抜剣』とは……
それほど危険を伴う技だと言う事だ。
「当然だ……使用する」
私から了承を得ると、聖剣が黄金の光を放ち始める。
左手に力を込めると──
聖剣は──
抵抗なく鞘から抜き放たれた。
バリンッ!
その瞬間、破壊音を立て『聖剣の鞘』が粉々に砕け散る。
鞘が無くなった事で、私の聖剣は納剣出来なくなった。
抜剣を解除する術がなくなり、後戻りは出来なくなったと言う事だ……。
聖剣とは、使用者の魂そのもの。
聖剣の鞘は魂を護るための器。
そして『抜剣』とは、聖剣の刃(魂)を外部に晒す行為……
故に、『抜剣』の使用には明確に制限時間が設けられている。
魂を外部に晒し続けて、生きていられる人間などいないのだから……。
私は、抜き放たれた聖剣を両手に持ち、正面に構える。
聖剣は尚も黄金の光を放ち続け、薄暗かった王の間は眩い光に包まれた。
「行くぞ……」
──小さく呟く。
私は地を蹴り、『鎧の魔王』に向かって疾走する。
これが最後の一撃だ。
その時、私は──
『今度生まれ変わるなら、せめて強く生まれたい』
私が人生で取り落としたものを……
大切なものを護れるだけの強い力を……
──などと考えるのだった。