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【5】『完全抜剣』レベル10

 『鎧の魔王』の攻撃は、いとも容易くシリウスの身体を飲み込んだ。


 放たれてしまえば、回避など到底不可能な一撃……。


 轟々と燃える炎はいつまでも消える事なく、それによって生じた熱波は離れた位置にいた私の肌を焦がすほどの威力だ。


 灼熱の炎から上がる黒煙は、私の視界を完全に遮り……シリウスの状態を窺い知る事は不可能だった。


 「……シ、シリウス」


 私のそんな情けない呟きなど、彼女に届くはずもない。


 それでも、私は喉の奥から迫り上がってくる絶望の塊を……呟きに乗せて吐き出すことしか出来なかったのだ……。


 やがて……


 爆発によって発生した煙が晴れると、そこには──


 私が予想した通りの光景が広がっていた。


 ニーナやアニスと同様に──シリウスの頭部は爆散し……胴体のだけがその場に残されている。


 人類最強、シリウス・リアーネ……。


 こうなってしまえば、いくらシリウスであろうと……『神級聖剣』の主であろうも、唯の〝人間の成れの果て〟でしかない。

 

 そして──「ドン!」と鈍い音を立てて、頭部を失ったシリウスの身体は、力無く床に倒れ伏した。

 

 ──終わった。


 全てが終わってしまったのだ……。


 世界で唯一『神級聖剣』の使い手だった、人類最強の神人──


 シリウス・リアーネの敗北……。

 

 最早、私たち人類には〝一欠片の希望〟すら残されていなかった。


 ならば……


 「ここで撤退しても……結果は同じか」


 例え、私だけこのまま逃げ仰せても何の意味もないだろう。


 『鎧の魔王』の情報を持ち帰る事は出来るだろうが、そんな事に何の意味がある?


 私は『下級聖剣』……逃げ帰り、対策を立てて再戦したとして、勝機など見出せる訳もない。


 それは、私だけの話ではなく、他の──生き残った人類の誰もが同じ事だろう。


 シリウスは、言葉通り……正に〝人類最後の希望〟だったのだ。


 唯一の希望を失った人類は〝滅亡の一途を辿る〟しかない……。


 シリウス・リアーネは、現在では、『魔王』クラスの魔族を討伐可能な唯一の人間だった。


 そのシリウスが敗北したと言う事は……。


 それは、私たち人類全体の敗北と同義。


 だが、どうせ滅びると言うなら──

 

 ──ガランッ!


 私は、左手に持っていたサブウェポンを床に投げ捨てた。


 失意の底に沈む様な心境だったが……最後の悪足掻きをしてみようと思う。


 サブウェポンを捨てた左手で──右腰に携えていた聖剣の柄を握る。


 本来、聖剣とは『抜剣術』のレベルに応じた分だけその刀身を露出させるものだ。


 それはつまり、聖『剣』と名は付いているが……直接武器として使う事は出来ないと言う事。


 そのため、私たち〝聖剣を扱う者〟は、サブウェポンを武器として用いて戦う。


 聖剣は、普通なら『抜剣術』による〝恩恵〟を受けるための手段でしかないのだが……


 しかし──


 『レベル10『完全抜剣』を、使用します──警告──『完全抜剣』を使用した場合──使用者の生命に重大な危険が及びます──本当に使用しますか?』


 これが、私が今まで実戦において、レベル10……『完全抜剣』を使用しなかった理由だ。


 いや、しなかったのではなく、()()()()()()と言う方が正しいか……。

 

 普段、聖剣は『抜剣術』使用の際に、使用の有無など確認しない。


 聖剣所持者が『抜剣術』を発動させると決めれば、聖剣がそれに異を唱える事などあり得ないのだ。


 だが、敢えてそれをすると言う事は、『完全抜剣』とは……


 それほどに危険を伴う技だと言う事だった。

 

 「当然だ……使用する」


 私から了承を得ると、


 『──了解──『完全抜剣』──『◾️◾️』を使用します──』

 

 聖剣はそれに応じ──鞘に納められたままでも分かるほど、眩い〝黄金の光〟を放ち始める。


 私が左手に力を込めると──


 聖剣は──


 ……シュン──


 何の抵抗もなく──鞘から抜き放たれた。


 そして──

 

 バリンッ!


 鞘から聖剣が抜き放たれた瞬間、破壊音を立てながら『聖剣の鞘』が粉々に砕け散る。


 ……鞘が無くなった事で、私の聖剣は最早、行き場をなくし……納剣は物理的に不可能になった。


 それはつまり、抜剣を解除する術がなくなったと言う事であり……


 後戻りは出来なくなったと言う事だ……。


 聖剣とは、使用者の(ソウル)そのもの。


 聖剣の鞘は(ソウル)を護るための器。


 そして『抜剣』とは、強力な加護を得るために、聖剣の刃((ソウル))を外部に晒す行為……


 故に、『抜剣』の使用には明確に制限時間が設けられている。


 魂を外部に晒し続けて、生きていられる人間などいないのだから……。


 私は、抜き放たれた聖剣を両手に持ち、正面に構えた。


 聖剣は尚も黄金の光を放ち続け、薄暗かった王の間は眩い光に包まれる。


 「行くぞ……」


 ──小さく呟くと、


 私は地を蹴り、『鎧の魔王』に向かって疾走する。

 

 これが最後の一撃だ。


 その時、私は──


 『今度生まれ変わるなら、せめて強く生まれたい』


 私が人生で取り落としたものを……


 大切なものを護れるだけの強い力を……


 ──そう強く願いながら、無謀な突進を敢行したのだった……。

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