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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第二章 〜リリア・リアーネの物語〜
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【6】グレン・リアーネ

 「グレンよ……。お前は神人(しんじん)だ。この国では、ある意味私よりも価値の高い人間である……」


 「存じております」


 「お前の行いは、この国の平民……。いや、大貴族たちですら、模範としているところが大きい」


 「そうですとも」


 「して、今は何時で、ここは何処(どこ)だ?」


 「今は深夜で、ここは国王陛下の寝室ですね」


 「お前……。神人でなければ極刑物だぞ?」


 「でも、僕は神人ですから」


 「あぁ……。お前は本来、そう言う奴だったな」

 

 「実は……。陛下に折り入ってお願いがあるのです」

 

 「………………用もなく寝室に押しかけてきたのなら、神人であろうと即座に投獄しているところだ」


 「でも、明日まで待てないんです」


 「………………お前は、やはり第一王女(ジェミニ)と合っていると思うがなぁ……。猪突猛進(ちょとつもうしん)なところとかそっくりだ」


 「似た物同士での婚姻というのは、大抵上手くいきません。お互いの足りない部分を補える関係でなければ」


 「………………いきなり、それっぽい事を言うな。お前の結婚観など知らん。まあ良い、先に応接室で待っていろ……。着替えてすぐに行く」


 「はい。でも、出来るだけ急いでくださいね」


 「………………貴様、私を一体何だと思っている」


         *


 「それで、こんな時間に何の用なんだ?」


 アーネストの寝室にほど近い場所にある応接室──そこは、国王であるアーネストが、ごく親しい人間と会うときにだけ使用するプライベートルームだ。


 こことは別に、来客対応用の応接室も存在するが、アーネストがグレンとオフで会う時は、いつもこの部屋だった。


 部屋の外には、常に二人の『ロイヤルガード』が待機している。


 そして、彼らは、この部屋で見聞きした事は絶対に外部には漏らさない。


 彼らは、この部屋にネズミ一匹通さない覚悟で職務に従事しており──この部屋の秘匿性は、この国で一番高いと言っても良い。


 「今より三ヶ月前、大陸の極北『ファルシオーネ』の大地に新たな『魔王城』が現れたと聞きました……。先発隊がだいぶ苦戦しているとか」

 

 アーネストの寝室で見せた砕けた態度は鳴りを(ひそ)め、グレンは聖剣士、そして神人の顔に戻る。


 グレンは、アーネストの対面でソファーに腰掛けてはいるが、その背筋はピンと伸び、姿勢は崩さない。


 グレンの話を聞き、アーネストは口の端を上げ、ニヤリと笑う。


 「白々しい事を言うな……ら、先発隊が組まれた折、お前にも話が行ったはずだ」


 アーネストは、グレンが深夜に訪ねてきた理由に、すでに心当たりがあるのか、揶揄(からか)う様に言った。


 「そのときは、大切な用事があったので……」


 「大切な用事とは……妹の事だな?」


 「その通りです。リリアはまだ幼い。出来るだけ一緒にいてあげたかったので……。遠征に出れば、しばらくは王都に戻れませんから」


 そう口にしたとき、グレンはリリアの事を思い出していた。


 リリアはいつからか、グレンが遠征で長期間家を空けても「寂しい」と口にしなくなった……。

 

 グレンにしがみ付いて泣くことも無くなった……。

 

 しかし、『行ってらっしゃいませ』と言って、グレンを送り出すときのリリアの悲しげな笑みが──グレンの脳裏に焼きついて離れないのだ。


 「では、なぜ今更ここに来たのだ? 妹のために遠征の参加を拒否したと言うのに」


 ──確かに、アーネストの言う様に、グレンはリリアの側にいるために王都に残った。

  

 しかし、王都にいても聖務に追われ、実際にリリアといられる時間は少なかったのだが……。


 それでもグレンは、遠征に行くよりはリリアにとって良い事だろうと思い込んでいた。

 

 ──結局、ホフマンは相変わらずリリアに酷い仕打ちを繰り返し、リリアの笑顔は悲しげなままだ。


 ──側にいるだけでは守れない……。


 グレンは、アーネストの目をまっすぐに見つめ、言った。


 「成すべき事を成す為に……」


 妹のリリアの為に……。


 リアーネ家を変える為に……。


 グレンの答えを聞き、アーネストは目を細めると、グレンをジロリと睨みつける。


 腕を組んで、ため息をついた。


 「今回新生した『魔王』はそれほど強力な相手ではない。『魔王城』の規模も大した事はないしな……。城と呼べるかどうかも怪しい代物だそうだ。」


 『魔王』がこの世に誕生する際には、必ずその棲家となる『魔王城』も同時に誕生する。


 『魔王城』は、『魔王』の魔力によって生み出されたもので、『魔王城』の規模によって、その『魔王』の強さの大凡が推し量れると言われている。


 「存じております。だからこそ、僕は今回の遠征に参加しませんでした。新生した『魔王』が、僕にしか相手できないほどの強者(つわもの)なら、僕も……リリアを置いてでも参加していたでしょう」


 グレンの言う様に、事前にもたらされた情報では、新生した『魔王』の力は並程度で……討伐隊も、それほど苦戦せずに勝利出来るだろうと予想されていた。


 それは、グレンの天秤が、〝王国の方に振れる〟ほどの相手ではなかったのだ。


 「先発隊の隊長はジェミニだ。あの()であれば、問題なく『魔王』を討伐できるだろう。ロイヤルガードも何人か参加しているしな……。今更、お前が行かなくとも方が付くぞ」


 アーネストはそう言うと、フリフリとグレンに向けて手を振る。


 ──明確な、拒絶の意を示していた。

 

 「そうでしょうね。あの人は戦士としても優秀だ。でも……〝時間がかかり過ぎている〟」

 

 「む……」


 「このままでは遠征が長期化し、軍費も嵩み──最終的に国力の低下に繋がりかねません」


 「して……? お前は結局、何が言いたいのだ?」


 「その『魔王』、僕が討伐して御覧に入れましょう……。そうですね──期間は一週間ほど頂ければ。援軍はいりません」


 グレンの答えを聞き、アーネストは口元を緩め、楽しげに笑う。


 ──全て分かっている顔だった。


 「『皇級聖剣』の中でも〝最強〟と言われるジェミニが──三ヶ月経っても討伐できない相手だぞ……? それを一週間……? しかも援軍も要らんと?」


 アーネストは、グレンの答えがわかっていながら、揶揄(からか)う様にそう言う。


 今にも大声で笑い出しそうだ。

 

 アーネストの問いに、グレンは、まるで〝近所に買い物にでも出かける様に〟事も無げに言った。


 「──ファルシオーネまでは6日は掛かりますから、一週間(なのか)はください」

 

        *


 「しかし、お前は何をするにも回りくどい。さっさと望みを言え。今回の征伐の報酬に何が欲しい?」


 グレンの答えを聞き、一頻(ひとしき)り笑った後、アーネストは言った。


 グレンはそれを聞き──


 「リアーネを……。リアーネ家の全権を僕にお与えください。『魔王』討伐には、それほどの価値が有りましょう」


 と答えた。


 グレンの答えを聞き、アーネストは満足げに頷き、グレンの肩に手を置く。


 「ついに決意したか……。些か(いささ)のんびりしすぎの様な気もするが、貴族連中のシリウスに対する不満も、すでに飽和状態だ。良い時期かもしれん」


 「ありがとうございます……」

 

 「しかし、お前は神人だ。その権限を使えば、新しく家を興す事も可能だぞ?」


 アーネストは、グレンの答えが予めわかっているにも関わらず、そんな質問をした。


 ──実際に、神人ならば富も名声も思いのままなのである。


 しかし、それは神人(グレン)個人にのみ適応されることで──


 「それが出来たとしても、(リリア)は『リアーネ』ですから……」


 グレンには、選択肢など最初から無かったのだ……。


 リリアを孤独から、〝リアーネの呪い〟から救う為には、自分がリアーネ家の当主になるしかない。


 リリアが、普通に生きられる様になるためには……


 誰にも文句を言わせないためには……

 

 グレンはそう、結論付けた。


 「お前は、いつも自分の事よりも国民の事……。いや、今は何よりも(リリア)の事が大事な様だな」


 「──いいえ、違いますよ」


 グレンは、アーネストの言葉を即座に否定する。

 

 グレンは決心したのだ。


 「僕は、(リリア)だけじゃない……。王国も……。国民も……。全てを守りたいのです」


 ──グレンの天秤はすでに破壊された。


 ならば、妹と王国、そして国民を秤にかけ、選ぶ必要などない。


 「全てを救います。僕にはそれが出来る」


 アーネスト王国に──人類最強の英雄が誕生した瞬間だった。


         *


 「それでは、準備が出来次第、すぐに出発いたします」


 グレンが応接室を出ようとしたところで、アーネストがたった今思い出したかの様に、ポンと手を打つ。


 「そう言えば、今回の『魔王』は、自分の事を──『死の魔王』と公言しているらしいぞ」


 アーネストの言葉に、グレンはピクリと反応し──苦笑する。


 「『〝死〟の魔王』……ですか?」


 「なんでも、『死霊術』を得意としている『魔王』らしい。不死身の軍団を操り、『自分は不死だ』と、声高らかに叫んでいるそうだ」


 それを聞き、グレンは「ふふ……」と不敵に笑った。

 

 ──僕に対して〝不死〟だと?


 ──〝不死〟は()()()()とでも?


 「へえ……。それは面白い」


 グレンは込み上げる笑いを抑えられず、右手で顔を覆う。

 

「〝本当の死〟とは何か……。僕が教えてあげよう」


 そう言うと、グレンは、笑いながら応接間を出て行くのだった……。

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